第31話 上級魔法:特訓

 中級魔法までしか使えないのに、その状態で帝都に突っ込むのはどうか、という話になった。

 この議題を持ち上げたのは、当然のようにストークだ。


「僕のレーダーに魔法は関係しない。それ単体で磨き上げていくスキルだ。だが、君たち二人は魔法と魔法剣を高速で習得し、それをスキルに反映させるだろう」


「確かに」


「おう!」


「だとすれば、中級魔法までしか使えない状態で敵の本陣へ飛び込むのは危険だと思わないか? いや、無茶、無謀とすら言えるだろう」


「そこまでか」


「そうかあ?」


 魔女たちはストークの提案に賛成なようだった。


「この二人、何年も掛かるような魔法の習得をほんの一日か二日でやるのよね」


「……うん。魔法や魔法剣単体では使えないみたいだけど……スキルと一つにすれば使えるように、なる……」


「多分あれって、魔法を習得していると言うか……魔法をきっかけにして段々封印を解いていっているみたいなもんね。うちのストークは最初から完璧だけど!」


 きしししし! とマーチが笑った。

 このちびっこ魔女、何か知っている気がするな……?


 それにしても、こんな帝都の目と鼻の先で魔法を使うなんて、挑発もいいところだ。

 魔女の館は、帝国に全面戦争を仕掛ける方向性だな。

 俺もそれはそれでいいと思っている。


 とにかく、俺たちは帝国をぶち抜いてその先に進む以外に行き先が無いからな。


「じゃあ、教えるね。インキュベーターとしての私の力は、オービターを育てるためのもの。君に、上級魔法を教えるけど……もう魔法の一つは習得してるでしょ。目の前で見たもの」


「おう」


 俺は頷いた。

 俺は恐らく、エレジアが使った魔法をその瞬間に習得している。

 だから、この間使われたインフェルノストームは、俺の中にある。


 もちろん魔法としてそのまま使うことはできない。

 だが、ビームとしてなら使える。


「上級魔法は目立つから、すぐに敵が来ると思う。だから、一つか二つしか教えてあげられない。しっかりマスターして。その後の使い方は、全部君に任せるから!」


「分かった!」


 俺の目の前で、エレジアが呪文を詠唱していく。

 上級魔法の詠唱は、たっぷり一分は掛かるのだ。


 これは確かに、戦場で使うには厳しい。

 そこが大規模な戦いで、エレジアに十分な護衛がついているならともかく、魔王や魔女狩りとの戦いみたいな状況では、詠唱している暇などないだろう。


「完成! 火山雷魔法、ボルカニックサンダー!!」


 俺たちの眼下にある大地が盛り上がり、炎を吹き上げる。

 そこから、紫色に輝く稲妻が無数にほとばしった。


 これは……目立つ!!

 間違いなく、帝都から視認できるだろう。


 しかし、それ以上に、攻撃の規模がすごい。

 俺の中に、ボルカニックサンダーの術理、みたいなものが流れ込んでくるのが分かる。

 もう、使いこなせるぞ。


「私ね、魔法のスキルを身に着けたときから、上級魔法まで全部を使いこなすことができたの。だけど、上級魔法なんてどこにも使い道なんてない。魔女狩り相手だと、詠唱する暇すらないわ。だから、どうしてこんなものって思ってた」


 エレジアが振り返る。


「きっとこの日のためだったんだね。マスターしてよ、オービター!」


「もちろん! しっかり覚えたぜ!!」


 轟々と唸りを上げる火山雷。

 何もないところに火口を生み出し、炎とマグマ、雷をぶっ放すわけだ。

 こりゃあ確かに、とんでもない魔法だ。


 時間が経つと、火口もマグマも、嘘のように消えてしまった。 

 あとに残るのは、焼け焦げた大地だけ。


 さて、これをどういうビームにするか。

 実地で練習になるだろうな。


 既にエレジアは、次なる上級魔法の詠唱を始めている。

 この魔法が放たれれば、それで修行の時間は終わりだろう。

 見てるだけでいいから楽は楽だが……ビームをぶっ放さないとイマイチ不完全燃焼というか。


「完成! 氷結魔法、ワールドコキュートス!」


 今度は、周囲一帯が凍結した。

 おお、吹雪すら吹かないんだな……!


「多分……上級の上に、特級魔法みたいなのがあると思う。だけど、それは私のスキルじゃ到達できない。インフェルノやコキュートス。その上にもう一つあるような手応えがあるけど……」


「いや、これで十分だ。それに、もう時間が無いようだぞ!」


 俺が指差す先は、帝都の方角。


 そこから走ってくる三つの影。

 つまりこれは、三人の魔王だって考えていいんだろうな。


「おっしゃー!! 俺も習得した! ええと、まあなんか、使えば分かる! つーか、魔法剣って上級になると防御寄りになるのな?」


「……メインが剣を当てることだから……。でも、守りは大事……」


「オレの性分に合わねえなあ……! だけどま、いっか! 固くなったロケットを叩きつけりゃいいんだ!」


 レンジも終わったらしいな。

 エレジアほど派手な動きが無かったということは、攻撃寄りの魔法剣じゃあなかったんだろう。


 そう言えば、いつも使ってるソードウォールって、あれもしかして上級?

 あれをレンジが使えるようになると、これはこれで強い気がするんだが……。


 魔王連中がいよいよ接敵してくるな。

 一人は飛んでる。

 二人は馬に乗ってる。


 あの馬、エレジアの上級魔法を見ても怯まないとは大したもんだ。


「聞こえるか、魔女と魔女の騎士よ! そこで立ち止まれ! 貴様らに勝ち目はない! 我らロイヤルガードが三名、ここにいるからだ! 大人しく抵抗をやめ、その首を差し出せ! さもなくば……」


 空を飛んでる奴が朗々となんか語ってる。


「うるっせええええええええ!! おらあああああ!! ウォーーーーーールロケットォォォォォッ!!」


 レンジが話を聞くわけねえだろう。

 レンジの背後から、壁のように平たく、そしてでかく、真っ白なロケットが生えてきた。

 それが猛烈な炎を発しながら飛び上がり、空飛ぶ魔王に突き進んでいく。


「なっ!? 貴様ら、話を……私は、偉大なる皇帝に仕えるロイヤルガッ」


 魔王に突き刺さるウォールロケット。

 そのまま、空の魔法を真っ二つに叩き切って爆発した。


「ウグワーッ!!」


 おいおい!

 もう一人死んだぞ!!


「なーるほどねえ……。打ち上げるレベルではない、出来損ない、ねえ」


 マーチがニヤニヤしている。

 うん、俺も納得したぞ。


 こいつら、付け込む隙が多い!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る