第27話 西部砦:突破

 降り注ぐ氷柱の雨。

 アザラシとやらになった、魔王キャロラインの咆哮がそれを呼び寄せているのだ。


 さらに、真横に吹き荒れる吹雪。

 なーるほど、こいつは広範囲を制圧する能力に長けた相手なんだ。


 俺のビームが、空を周囲を薙ぎ払う。

 幾らぶっ放してもきりがない。

 キャロラインの手数は、とにかく多い。


「多いと言うか、奴は何も見ていない。狙いすらつけていない。ただただ、周囲に攻撃をばらまくだけの存在だ。なるほど、出来損ないとはよく言ったものだ」


 周辺を走査しながら、ストークが笑う。


 降り注ぎ、襲いかかるキャロラインの攻撃全てを把握しきっているのか?

 こいつの指示で移動すると、ギリギリで攻撃を避けられる。


「来るぞ。奴の腕だ!」


「ええと、こっちか!? まあ全部ぶっ飛ばしゃ問題ねえだろ!!」


 レンジが大雑把にロケットを放った。

 炸裂し、爆発を起こす。


 キャロラインが何か吠えたので、多分正解だ。

 あいつが繰り出してきた不可視の腕の一つを吹き飛ばしたんだろう。


「吹雪で何も見えねえ! 声しか聞こえねえじゃん!!」


「それだけあれば、僕には何もかも分かる」


「ストークが分かっても俺が分かんねえんだって! オービター、頼む!」


「レンジが頼むとは珍しいなあ……。よーし!」


 こういう視界が限られた戦場は、シチュエーション自体を変えちまった方がいい。

 俺は腰からロープを放つ。

 ビームを纏わせて伸ばせば、凍りつくことだってない。


 先端には剣をくくりつけ……。

 こいつをぶんぶんと振り回すのだ!


「ファイアボールビーム、連射っ!!」


 周囲一体に、炸裂するビームが降り注ぐ。

 キャロラインが放つのは、質量を持っているようにさえ思われる、強烈な吹雪と氷柱の雨だ。

 当たるを幸いと放ったビームは、そこここで炸裂、爆発した。


 爆風と炎が吹雪の中に広がっていく。

 嵐は、より強烈な爆風で吹き飛ばせる!


 俺はこの時、理解した。

 俺の爆発が勝り、一瞬だけ吹雪が晴れたのだ。


「レンジ!」


「ブラストロケット!!」


 生み出された風のロケットに、俺とストークが飛び乗る。

 そしてレンジをロープで引っ掛ける。


「また引っ掛けるのかよ!!」


「もっとでかいロケット作れるようになれよ!」


 さっきまでいた場所の、目と鼻の先。

 そこまでキャロラインが迫っていた。


 氷のアザラシが、憎々しげに俺たちを睨みつけている。


『ヴオオオオオオッ!!』


 また咆哮を上げた。

 来るぞ、馬鹿の一つ覚えの吹雪が!


 空を疾駆するブラストロケットを、吹雪が追いかけてくる。

 俺たちが向かう先は、キャロラインと魔女狩りがやって来た方向。


 即ち、西部砦だ。

 そう。

 俺はどさくさに紛れて、西部砦を破壊して突破しようと考えたのだ。


「さあこっちに来い、魔王スキル!! 俺たちが逃げちまうぞ!!」


 俺の声は届かなくても、後ろに向かって放つファイアボールビームは分かるだろう。

 何発かがあのアザラシ魔王に当たっていると思うが、効いた様子がない。


 下級魔法のビームでは通用しないようだ。

 中級でやっつける他ないだろうな。


「だけど、あれは二段階だからな。戦場を整えなきゃだぜ」


 背後を、アザラシ魔王が追ってくる。

 氷の平原を滑ってくるのだ。


「ストーク、どうだ?」


「状況は悪いな。吹雪に邪魔されてロケットの速度が出ていない。敵は速いぞ……!!」


「くっそ、俺はロケットの誘導があるからな……! 後ろに攻撃を集中できねえ。レンジ、頼む!」


「おうよーっ!! ファイアソードロケット、行けえええええ!!」


 レンジが吠える。

 こいつが作り出す、恐らくは中級の魔法剣によるロケットは、でかい。

 ブラストロケットの倍近いでかさがある。

 それが、凄まじい勢いで魔王めがけてぶっ飛んでいった。


 だが、悲しいかなレンジである。


「外れた」


 ストークが無慈悲に告げる。

 戦場のどこかで、物凄い爆発が起こった。


「だが、魔王が気を取られた。驚いているようだな」


 そりゃ良かった!

 お陰で、こちらも到着だ!


 目の前にそびえる、西部砦。

 帝国西部を監視する、魔女狩りたちの巣窟だ。


 そこを目掛けて、ブラストロケットが突っ込む。

 砦の一角を破壊しながら、到着!


 俺、レンジ、ストークが空中に投げ出された。


「ブラストビームっ!! うおおおおお!!」


 空中でストークをキャッチし、レンジの尻を蹴っ飛ばす。


「いってえ!」


「悪い! 引っ掛けそこなった! 自分でロケット用意してくれ!」


「おう、そういう意味のキックだったかよ! 許す!! おらあ、ブラストロケット―ッ!!」


 レンジがばびゅんと、空に舞い上がっていった。

 加減というものを知らない男だ。


「お前たちは……!! どうしてここに……!!」


 真っ白な髪をした男が、目を見開いて俺たちを見ている。

 なんだ、こいつは。

 魔女狩りの紋章を身に着けているから、魔女狩りの関係者だろう。


「おっさん、やる気か? 俺たちはちょっと魔王とやり合ってるから、片手間でしか相手ができねえけどよ」


「なっ……!? お前たち……いや、貴様ら、まさかアストロノーツ!?」


 なんだそりゃ。

 だが、どうやらこの男は戦うタイプの人間では無いようだ。

 動き出したらストークが教えてくれるだろう。


『ヴオオオオオオオッ!!』


「来るぞ。吹雪だ。アザラシの目の前で、吹雪が寄り集まっている。収束して放つつもりだ……!」


 ストークが目を細めた。


「まずくないか? あの吹雪をまとめてぶっ放すと、こんな砦消し飛ぶぞ」


「なんだと!?」


 俺の言葉を聞いて、おっさんが慌てている。


「まあ待て。僕も、スキルを磨き上げてきた。レーダーは相手の放つ魔力や声、波長を捉えることができる。一瞬なら隙を作ることができるだろう。やれるか、オービター」


「一瞬ありゃな!」


 俺は指先を構える。

 真っ赤なビームが放たれた。

 一見して細く頼りない、ティンダービーム。


『ヴオオオオオオオオオッ!!』


 魔王キャロラインが咆哮を上げた。

 吹雪を放ってくるつもりだ。

 だがこの時。


 ストークがパン、と手を打ち鳴らした。

 それと同時に、俺たちの周囲から、キャロラインと全く同じように聞こえる声が放たれたのだ。


『ヴオオオオオオオオオオッ』


 キャロラインの咆哮がぶつかり合い、相殺する。

 一瞬、全ての音が消えた。

 魔王が放とうとしていた吹雪も、動き出すことができず、停滞している。


「逆位相……!! 打ち消した! 行け、オービター!」


「おう!! フレイムビームッ!!」


 俺は手を開いた。

 指先から迸るティンダービームを追って、極太の灼熱ビームが放たれていく。


 これを見て、キャロラインは慌てて吹雪に集中し始めた。

 停滞していた、収束型吹雪が、再び動き出す……。

 だが、遅い。


 吹雪を、俺のビームがぶち抜いた。

 真っ向から貫き、その向こうにある魔王の顔面に突き刺さる。


『ヴオオオオオオオオオ!!』


「ビームがあんじゃん!! なら当たるよな! おらあ! ファイアソードッロケーット!!」


 頭上から調子のいい声が聞こえた。


 そして、巨大な真紅のロケットが降ってくる。

 それは俺のビームに誘導され、正確無比の動きで魔王へとぶち当たった。

 爆発。


 爆風が吹き荒れた。

 

「わた……くしがあっ……!! ロイヤルガードがっこんな、ところでっ……!! 陛下っ! 陛下ぁーっ!!」


 爆風の中、人間だった頃のキャロラインの叫びが聞こえた気がした。


 だが、俺は油断しない男だ。

 追い打ちで、もう一発フレイムビームを撃っておいた。


「ウグワーッ!」


 それっきり声がしなくなった。


 よし。

 魔王を撃破だ!


 周囲の砦は、爆風に巻き込まれて崩れていくところだった。

 もう、西部砦は機能しないだろう。


 帝都に向かう道が開いたのだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る