第26話 凍結の戦場:灼熱のビーム

 戦場に吹雪が吹き荒れる。

 魔王スキル使い、キャロラインの攻撃だ。


 こいつ、人間の姿を持っているらしく、この状態でも魔王の見えない腕を使いこなしてくる。

 見えない腕というのは、この間のアレクライスの光みたいなやつな。

 あいつの腕は、光の粒子を纏いながら動き、触れたものを分解する力を持っていた。


 キャロラインはさしずめ、この吹雪を操る能力で凍りつかせ、見えない腕で砕くんだろう。

 アレクライスの方が触られたら即死なぶんだけタチが悪そうだが……。多分、魔王スキルの強さはそういうところと関係ないのかも知れない。


「さあ、アストロノーツ。死になさい……!!」


 吹き付けてくる猛烈な吹雪。

 これが俺たちに触れる寸前で、壁のように巨大な剣が何本もそそり立つ。


「ソードウォール!」


 ラプサの魔法剣だ。

 それが吹雪を一時的に食い止める。


 一時的にと言うのは、目に見えてソードウォールが吹雪に侵食されているからだ。


「十分十分! はいっ! あたしのトラップ発動!!」


 すると、ソードウォールの向こうで、キャロラインが何かに足を取られて転んだ。


「ウグワーッ!」


 女子が上げてはならん悲鳴だな。

 彼女の足には、ロープが絡みついていた。

 それがスウーッと消えていく。


 うーむ、マーチのスキル、トラップ。

 ピンポイントで強力だな。

 任意の箇所に罠を発生させられるのだ。


「おのれ!! なんだこれは! 魔女め!」


「うひひ! 相手が人間の姿なら、幾らでもやりようはあるんだよ。ただのスキルだからって甘く見ないほうがいいねえ!」


「詠唱行くわ!! 炎の魔法を叩き込むから!」


 魔女三人が頑張っている。


「これはあれか。俺たちの出番はない……?」


「マジかよ!! オレにもやらせろーっ!!」


「まあ待て二人とも。僕らは言わば切り札だ。マーチたちは、あの魔王から本体を引きずり出すつもりなのだろう」


「キリフダってなんだ?」


「レンジお前、物を知らんなあ……」


 俺たちが控えている間にも、戦いは続いている。

 ラプサが次々にソードウォールを生み出して、時間を稼ぐ。

 ソードウォールは透けていて、向こうがよく見えるのだ。


 その間に、マーチが連続で罠を仕掛けてキャロラインの動きを妨害。

 決め手にならない二人が足止めに注力することで……。


「完成!! 炎獄魔法! インフェルノストーム!!」


 猛烈な炎の嵐が、ソードウォールの向こうで吹き荒れた。


「うがああああああ!! 邪魔をするなああああああ!!」


 キャロラインが咆哮を上げる。

 炎の中にいながら、まだまだ元気。

 全身から吹雪を放ち、インフェルノストームを相殺しているようだ。


「私たちを舐めていたでしょう。私たち魔女は、それぞれが雛を守れるように、自分のスキルを研ぎ澄ませているんだから……! お前がどんなに強くても、手抜きをして勝てる相手じゃないわよ!!」


 おお、エレジアが啖呵を切る!

 キャロラインのこめかみに青筋が浮かび、ヒクついた。

 効いてる効いてる。


 魔王スキル持ちは間違いなく強いんだろうが、人間の姿だと発揮できる力に限界があるようだ。

 そろそろ来るか?

 怒りが爆発するか?


「あの醜い姿を晒すことになるとは……!! おのれ、魔女めえええええっ!!」


 キャロラインが吠える。

 その輪郭が、ぼやけた。


 魔王アレクライスは卵みたいになったが、こいつは……。


 地面から、何本もの真っ青な氷の柱が出現する。

 空からも氷の柱が降り注いだ。

 戦場は、氷の柱に覆われた氷原と化す。


 見渡す限りの、青。

 白ではなくて青いのだ。


 その中から、奴が出現した。

 一言で言うなら、氷でできた異形の怪物だ。

 見たことも聞いたこともない姿をしている。


「アザラシだね」


「……アザラシ……ね」


「知っているのか、魔女の人たち!!」


「寒い海に住んでいる生き物だよ。帝国をやっつけたら、今度一緒に見に行こうね」


「行こう!!」


 エレジアから思わぬお誘いを頂いて、俺のテンションが跳ね上がった。


『ヴオオオオオオオオッ』


 魔王になったキャロラインが吠える。

 人の言葉を話さなくなるのか!


 アレクライスが人の言葉をちょっと喋ってたことを思うと、なるほど、地上に残された魔王スキル持ちは、色々足りないのかも知れない。

 それでも、咆哮とともに、空から氷柱の雨が降り注ぐ。


 慌ててラプサがソードウォールを生み出すが、これも一瞬で砕かれる。

 破壊力だけは超一級だ!


「うおお! 行くぜ、ファイアソードビームっ!!」


 抜き放った剣を一閃する。

 空に向かって、横一文字に真っ赤なビームが奔った。

 そして、爆発が起こる。


 氷柱の半分は相殺だ。

 だが、下級魔法のビームだと限界があるか!

 数が多すぎる。


「ブラストロケットだ! のりこめお前ら!」


「きゃー!」


「レンジ、お尻触らないで……」


「うるせえ!!」


 作り出したロケットに魔女たち三人を載せて、押し出すレンジ。

 これで彼女たちを戦場から退避させるのだろう。


「そうだな。ここからは僕らの戦いだ」


 眼前のソードウォールも、完全に砕けてなくなる。

 今や、俺たちを守るものは何もない。


 同時に、俺たちを遮るものも何もない。


 降り注ぐ氷柱を、前に駆け出して回避する。


『ヴオオオオオアアアアアアッ!!』


 キャロラインが吠える。

 吹き荒れる吹雪。


「ティンダービーム!!」


 俺は両手の五指から、十本の熱線を放って迎え撃つ。

 吹雪を切り刻みながら、魔王キャロラインへと接近するのだ。


 ここから、魔女狩りならぬ、魔王狩りの始まりだ!


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