第25話 魔王スキル:凍結の魔王

 飛び出したのは、まさに敵の真横だった。

 目の前には、魔女狩りの大群。

 これだけの数が、西部砦に集まっていたんだな。


 本格的に、館を狩るつもりだったらしい。


「いや、オービター。数そのものは大したことはない。これの大部分は分身能力を持つ魔女狩りのスキルに過ぎない。つまり、存在は希薄だ」


「早速だな! ありがとうよストーク!」


 俺は腰から剣を抜き放つ。


「行くぜレンジ!」


「命令すんな!」


「一緒にやろうぜ!」


「それならやるぜ!! うおおーっ! ファイアソードロケット!!」


 レンジの目の前に、剣の形をしたロケットが出現する。

 こいつが学んだ新しいスキルの使い方は、俺とはまた違うんだな。

 魔法剣スキルのラプサがあいつの魔女だもんな。


 だが、案の定ロケットはノーコンだ。

 ロケットのおかげで、ようやく魔女狩りが俺たちに気付いた。

 わあわあと騒ぎ出す。


 しめしめ、数が多すぎてこっちに対応できてないぞ。


「誘導するぞ! ティンダービーム!!」


 剣の切っ先から放つビームが、戦闘にいた魔女狩りを叩き切る。


「ウグワーッ!!」


 そして魔女狩りを粉砕しながら、俺はその先を指し示す。

 ティンダービームにいざなわれ、ファイアソードロケットが着弾した。


「ウグワーッ!!」


 凄まじい爆発が起きる。

 魔女狩りたちが、何人も一度に吹き飛ばされていった。

 やはり、広範囲攻撃ならロケットだな!


 攻撃してよし、乗り物にしてよし!


「アストロノーツだ!」


「アストロノーツが出たぞ!!」


「キャロライン様を呼んでこいーっ!!


「なんでこんなところに!」


 相手は混乱状態だ。

 キャロラインって誰だ?


「もしかして、そいつが魔王スキルか」


「間違いないよ。呼びに行かせる前に、魔女狩りを減らそう! ほい、詠唱終了!!」


 エレジアが俺の背中からひょいっと降りる。

 余計なことを口にしてても、同時に詠唱はできるんだな。


「そーれっ、上級魔法!! フェイタルハリケーンッ!!」


 魔女狩りたちのど真ん中に、巨大な嵐が生まれた。

 これには魔女狩りも対抗できないようで、「ウグワーッ」と叫びながら巻き上げられていく。

 こりゃあ凄い。


「よーし、これは当て放題だな!」


 俺はビームをぶっ放し、巻き上げられている魔女狩りを次々と撃墜した。

 邪魔な魔女狩りは、これでほとんど一掃できたかな?


 エレジアに十分な準備時間があれば、あいつらなど一網打尽にできるのだ。

 こりゃあ凄い。


 だが、上級魔法。

 威力は凄いが、エレジアはたっぷり一分くらい詠唱していた。

 これを俺が身につけるとして、どういうビームになる?


 中級魔法のビームでもかなりの威力になってるからな。

 上級がどれだけのちからを発揮するかは分からない。


 しかし!

 今は手持ちの武器だけで状況を乗り切るのが先決。


「オービター、気付いたぞ。反応が一つ、上級魔法の嵐に飛び込んできた」


「自分から嵐にか!? ってことは、そいつが魔王スキルで間違いないじゃん」


 次の瞬間、上級魔法フェイタルハリケーンを貫き、真っ青な氷の尖塔が突き立った。

 嵐は散り散りに引き裂かれて消滅する。


「うわあ……上級魔法も正面から粉砕するかあ……。そうだよねえ、魔王だもんね……!」


 エレジアがひきつり笑いを浮かべた。

 そして、俺の肩を強く叩く。


「ここからは、突破スキル持ちの君たちしか戦えないから。っていうか、皇帝の周りには打ち上げられなかった魔王スキル持ちが残ってるって大魔女様が言ってたけど……こいつがそうなんだね」


「打ち上げられなかった魔王スキル持ち? それってつまり、強いやつだけ残したってことか」


「逆。ヤバイやつは全部、外の世界に送ってるって。だから、残ったのは……」


「なるほど、出来が良くないやつか」


「聞こえましたよ」


 めちゃくちゃ怒ってる女の声が聞こえた。

 来るぞ来るぞ。


 氷の尖塔が砕け散り、その後に立っていたのは青いドレスの女だった。

 ドレスの上に甲冑を纏ってやがる。


 金髪も、青い瞳も、氷みたいに冷たく見える。


「お前が魔王スキルか!!」


 レンジが吠えた。

 女は笑いもせずに、俺たちを睨みつける。


「出来が悪いなどと、くだらないことを言うのはその口かしら。私たちロイヤルガードは、皇帝陛下をお守りするためにあえてこの星に残ったメンバーです……!! それがわざわざ、こんな辺境までやって来ることの意味がお分かりですか?」


 歩み寄ってくる女。


「うう……キャロライン様……」


「触れないで下さい、汚らわしい」


 倒れていた魔女狩りが、必死に女へ手を伸ばした。

 それを、一瞥する魔王スキル。

 奴の眼差しに触れたのか、魔女狩りの体が一瞬で凍りついた。


 そして砕け散る。


「げげっ!!」


 レンジがドン引きした。


「気をつけろ。あいつの力は恐らく、見た通りの凍結だ! 僕の走査でスキルの動きが分かった。見えない手に触れられると、凍りつく。そして見えない手がそれを砕く!」


 見えない手っていうのが、魔王の特徴だろうか?

 それにしたって、洒落にならなそうな相手だ。

 とりあえず、上級魔法を正面突破するようなとんでもない怪物だということは確かだ。


 ストークがいなければ詰んでるレベルの相手だな。

 このレベルで出来損ないか……!


 打ち上げられるという魔王スキルは、どれだけとんでもない力を持っているんだ……。


 ま、今はそんな事を考えている場合ではない。

 俺とレンジが並んで、戦闘モードだ。


 背後ではストークが、レーダースキルを全開。

 こいつのスキルは発展性があるのかな?

 めっちゃくちゃ強いスキルであることは変わりないが、完成されてるような気もするんだよな。


 マーチと二人で何かしら修行をしていたから、パワーアップしているんじゃないかと睨んでいる。


「よーし、気張っていくぜ、二人とも!」


「おう!! パワーアップしたレンジ様の実力を見せてやるぜ!」


「ああ。僕も調べるだけのスキルじゃないということろを見せてやる」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る