第22話 中級魔法:炎槍

 スキル強化週間に入った。

 来たる、帝国西部砦との全面対決に向けて、俺たちを強化しようというのだ。


 それも、まあ下手をすると来週とか明日には全面対決が来るんでは?とオヤジさんが予想していた。

 どんどん話がでかくなるな。


「前に話したけど、詠唱が必要になるのね。それをどうするかなんだけど……」


 うおっ、エレジアの手が俺の手を握って!

 いやいや、散々に彼女を抱きしめたりしつつ飛んだり跳ねたりしてきたから今更……いやいや、素肌と素肌が触れていますなこれは。


「ふ、ふーん、詠唱ねえ……。なんで絶対必要なんだ?」


「それはねえ、ええと、何ていうか……。複雑な魔法ほど、複雑な方法で使われてるんだよね。だから詠唱で、魔法の構成要素、目的、対象、飛距離を定めるの。標的を合わせないと使えないっていうか」


「ああ、なーるほど」


 よく分かった。

 つまり、中級魔法は暴れん坊ということだ。


 細かく色々決めてやらないと、めちゃくちゃな動きをするんだろうな。


「よーし、じゃあやってみる! 教えてくれ」


「はいはーい。オービターは覚えがいいから、お姉さんは嬉しくなっちゃうなあ。ちなみに詠唱する時間さえあれば、中級魔法なら魔女狩りに通じるの。あいつら、なかなか正面からやらせてくれないけどね」


 なるほどなるほど、エレジアでも戦えると。

 ちなみに、ラプサは魔法剣というスキルの特性から、普通に魔女狩りと戦えるらしい。

 マーチに至っては、弱い魔女狩りならば一人で撃退できるそうな。


 魔法は比較的よく知られたスキルなので、対策が取られやすいのだろうなあ。


「まずは、中級攻撃魔法で一番普通の、炎槍。フレイムランスって発するのね。"大気のエーテルに命ずる。炎素をより集め、長き槍とする。敵を見定め、魔力を推進として撃ち出す! 炎槍フレイムランス”!!」


 詠唱の終了とともに、エレジアの手のひらには長い炎の槍が生み出された。

 それは轟々と燃え盛り、そして渦巻く。


 詠唱の中には、これを射出する命令までが含まれていたらしい。

 回転する炎の槍が撃ち出され、突き進んでいく。


 この突進力、そして回転から生み出されるであろう貫通力。

 これはファイアボールとは全然別の代物だな!


「見た? 君は見たものを、ビームで再現できるみたいだから、多分可能だと思うんだけど……問題は詠唱をどうするかだよね」


「ああ。やってみる! ええと、大気のエーテルに命ず……る? 炎素を、より、集めて、長い槍……まあいいや、ほれ、フレイムランス!!」


 俺の手先から、真っ赤なビームが出た。

 しかも、グルグルと渦巻く太いビームだ。

 おおー、曖昧な詠唱でもいけるもんじゃねえか!


 だが、ビームはふらふらーっとその辺りを漂うと、床に向かってぺちんと落ちて、炎を撒き散らしながら消滅した。


「あー」


「あー」


 俺とエレジアで、思わず声が出る。

 一応、ビームになって出てくることは出てくる。

 だが、詠唱が適当だとあまり効果がないんだな。


「だけど、あの詠唱を暗記して戦いの前に唱えるなんてまともにできそうにないしなあ……」


 俺は考え込む。


「そうだね……。魔女狩りもだけど、魔王スキルと戦うことも考えたら、詠唱なんてとてもやってられない。唱えてる間にやられると思う。だから、中級から上の魔法は、守ってくれる相手がいない限り使うことができないの。実戦で使うにしても、下準備の方が大変なんだよね……」


「ふむふむ、俺さ、これ名前を呼ぶだけでもビームとしては出せると思うんだよな。ほら。フレイムランス!」


 また、手のひらから太い灼熱のビームが出た。

 これ、手のひらじゃなくても出ると思うけど、今のやり方の方が魔法の方向性を定めやすいしな。


 そしてフレイムランスのビームは、ひょろひょろと飛んで、ぽてっと落ちた。

 うわー、やっぱりダメだあ。


 標的を定められねえからなあ。


 エレジアと二人で、角を突き合わせてうーんと唸る。

 すると、離れたところで訓練をしているレンジの叫び声が聞こえる。


「うおおーっ! ロケット―っ!! うがああああああ! なんで飛んでいっても、でたらめな方向なんだ! 動きがぶれるーっ!」


「レンジ……。オービターの誘導がないとキビシイ、かも」


「ば、ばかなーっ! 俺はあいつの助けが無いといかんというのかーっ!!」


 誘導……?

 そう言えば、俺のビームはレンジのロケットを誘導し、その命中率をほぼ百発百中まで上げることができた。

 ならば、標的の定まらない俺のフレイムビームも……?


「よし!!」


「どうしたのオービター?」


「多分、いける。見ててくれ! ティンダービーム!!」


 指先から、真っ赤な糸のようなビームをぶっ放す。

 それが真っ直ぐに突き進み……。

 ティンダービームの射出中に、俺は手のひらを開いた。


「フレイムビーム!!」


 案の定だ!

 螺旋を描きながら生まれた、灼熱のビーム。


 それはティンダービームの軌跡を正確になぞりながら飛翔を始める。


 一直線!

 訓練場の彼方まで飛び去ったフレイムビームが、炎を巻き上げながら爆散した。


「っしゃあ!!」


 ガッツポーズを決める!

 これなら、指先と手のひら、同時にブッパできてタイムラグも少ない!


「や、や、や……やったーっ!? やったよオービター!!」


 こっちはちょっとタイムラグがあって、ぴょーんと俺に抱きついてくるエレジア。

 うひょーっ!!

 すげえご褒美だーっ!


 大変いいにおいがする。

 とても柔らかい。


 これはもっともっと訓練をして、エレジアに褒められて抱きつかれなければなるまいな。

 俺のやる気がもりもりと湧いてくるのだった。



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