第21話 中間報告:魔女の館

「昨日はお疲れ様!」


 目を開けると、エレジアが覗き込んでいてねぎらいの言葉をかけてくれた。

 嬉しい。

 同じ部屋なのだが、魔女と雛という関係上、手出しはいかんらしい。


 とても生殺しな状況で、果たして俺はエレジアとの仲を進められるのか……!?

 なんて思っていたら、昨日の魔王戦でちょっと距離が縮んだんである。


「いやいや、大したことないっすよ俺にかかれば」


 ちょっと調子に乗ってみたら、鼻先をデコピンされた。


「ウグワーッ」


「調子に乗ったらだめだよ? たまたま目覚めたての魔王を倒しただけなんだから。魔王スキル持ちは、帝都にまだまだいるよ」


「げえ、あんなのがうようよいるのか!」


 想像するだけでゾッとする。

 すっかり目が覚めてしまった。


「テンションが下がってしまった」


「ごめんごめん!! でも君たちって凄いんだよ。普通、下級魔法しか使えないのに魔王を倒すとかありえないもん」


「言われてみれば……」


 俺は下級魔法と初級魔法しか知らないんだった。


 さて、ひとまず目をさますために顔を洗い、朝食を摂った。

 あれ? なんだかこれ……。


「……食べ慣れた味がする朝食だな……」


「俺が作った」


「オヤジさん!!」


 いきなりニュッと厨房から顔を出してくるので、心臓が止まるかと思った。

 いつの間にか、一緒に飯を食っていたストークもむせている。


「俺は大魔女の知り合いでな。ほうぼうを巡って情報を集めてたんだ。しばらくはここにいるぜ」


「情報?」


「んな話を飯時にするやつがあるか! 食え! 食ってから話す!」


 そりゃそうだ。

 俺は慌てて飯を食った。

 オヤジさんの飯は相変わらず、まあまあといった感じの味である。


 ちょいマズくらいが、癖になってまた食いたくなるのかも知れないな。


「コーヒーいるか?」


「マスター、私ね、ミルクたっぷり!」


「……私、砂糖だけ……」


「ミルクと砂糖どっさりー!!」


 三人の魔女が、それぞれ個性溢れる注文をする。

 それをふんふん、と聞きながら、オヤジさんは最終的に、全部ミルクと砂糖どっさりのコーヒーにした。


「うわーっ、あまーい!!」


「ミ、ミルクたっぷり……」


「んまーい!」


 うんうん、料理方面ではこういう大雑把なのがオヤジさんだよな。

 ちなみに、俺ら雛の三人にもミルクと砂糖たっぷりコーヒーが出された。


 ストークはブラックが好きだったらしく、ぶつぶつ言いながら飲んでいる。

 レンジは一気飲みしようとして舌を火傷してるな。


「では、集めてきた情報を語って下さい、ファルコン」


 俺の後ろから声がしたので、振り返ったら大魔女がいた。

 い、いつの間に。

 ベールをちょっと持ち上げてコーヒーを飲んでいる。


 そして、オヤジさん、ファルコンっていう名前だったんだなあ。


「おう。西部砦の魔女狩りがな、集まってきてる。お前らを警戒してるぞ」


「ヴェラトールは焦っていますね」


「そりゃそうだろ。突破スキルを持っている奴を殺すのが、あいつの最大の仕事だ。それが、突破スキル持ちを確認できても、狩るところまで行けてねえ。近々、あいつは総攻撃を仕掛けてくるぞ」


「西部砦が全力でやって来ますか。この館の位置を察知すると?」


「育った魔王スキル持ちを投入してくるだろうな。本来なら打ち上げるはずの奴だろうが、突破スキル持ちが帝都まで来ちまったら、あいつらの負けだ」


 なんだなんだ、何の話をしてるんだ?


 エレジアを見ると、彼女も肩をすくめた。

 分かってないらしいな。


 推測できることは、魔王スキル持ちは、どうやら打ち上げられるらしい。

 どこにだ?

 空にか?


 じゃあ、村にいた幼馴染のあいつも空に打ち上げられるのか。

 打ち上げられてどうなる?


 魔王スキルは、あんなとんでもない化け物になるスキルのことらしい。

 ならば、空で、あんな化け物になるのか?

 何のためだ。


 うーむ、考えても考えても分からん。


「帝国は、魔王スキルを生み出すためのシステムです。そして魔王スキルによって誕生した魔王を、外の世界へと送り出します」


 大魔女の説明を聞いて、さらに分からなくなった。

 外の世界ってそもそも何だ。


 だが、一つだけ確実に言えることがある。


 帝国はクソみたいな奴らだな!

 あいつらが魔王スキル持ちを目覚めさせなければ、あんな化け物は生まれない。

 あいつらが魔女狩りで魔女を襲わなければ、俺とエレジアはもっといちゃいちゃしていられたはずだ。


「おし、帝国をぶっ飛ばせばいいんだな?」


 俺の腹は据わった。

 大魔女が、ベールの奥で微笑みながら頷く。


「私たちがやるべきことは、帝国というシステムを止めることです。そのために、私たちは帝都にたどり着かねばならない。帝都からなら、貴方たち三人は宇宙そらへ上がることができるでしょう」


「空へ? そりゃあな。俺ら三人がいれば、空くらい飛べるぜ」


「素晴らしい。エレジア、ラプサ、マーチ。今以上に彼ら三人を鍛えて下さい。西部砦との全面戦争は近づいています。ですが、今は魔女の館が最も目標に近づいている時なのです。彼らならば、突破できるかもしれない」


「はい! じゃあ、オービター。今日から中級魔法を身に着けていこう!」


「おおっ! ついに中級魔法来るかー!!」


 俺のビームを鍛えるために、修行は次の段階に入るのだ。

 必ず詠唱が必要だという中級魔法。

 さて、どうやってモノにしてやろうか。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る