第19話 魔王スキル:卵
「こっちだ! 奴ら、魔王スキルの持ち主の居場所を掴んでいるぞ!」
ストークが、村の道を一直線に走っていく。
レーダーというスキルを持つこの男は、村にある全てのものの位置を知ることができるようだ。
今は、魔女狩りの二人を察知しながら、その後を追っている。
「ストーク、お前、どれだけの広さが分かるんだ?」
「僕にも分からない。だが、都市一つをこのレーダーで探り尽くすことはできる」
都市……?
都市って言うと、村や町の何倍もある凄い広さだろ?
それを探れるって、どれだけ広範囲を調べられるスキルなんだ。
だが、今はそのお陰で助かっている。
それでも、先行した二人組の魔女狩りに追いつくのは難しいか!
「エレジア!」
「あ、飛ぶんでしょ? はいっ!」
隣を走っていたエレジアが、すぐに察して俺に飛びついてきた。
ぎゅっとキャッチ。
うひょー!! 冷静になってハグするとすごいなエレジア!!
興奮する我が身をこらえつつ、俺は両足に力を込めた。
「ストーク! 具体的にどこ!」
ストークも、俺が先行しようとしているのを理解した。
「この先! 通りの突き当りを右! 屋根の上を魔女狩りが走っている! 奴らを追え!」
「分かった! ブラストビーム!!」
俺は一気に空に舞い上がる。
「きゃあーっ!! 分かってはいるけど、空を飛ぶのってすっごいーっ!!」
エレジアが俺の首にしがみつきながら、きゃあきゃあ歓声をあげる。
とても嬉しいが、反応している余裕はない!
ブラストビームは全開なら一分位が限界。
これを使いながら、ブリーズビームで俺たちの姿勢を制御!
全身のあちこちからブリーズビームを放ちつつ、俺は屋根の上に着地した。
「器用なもんだねえ。ブリーズビームの使い方、上手くなってるでしょ」
「ああ。これ、攻撃に使うよりも、飛んだ時にぶっ放して姿勢とか位置を微調整するのに向いてるビームなんだ」
「なるほどねえ。おっと、それじゃあ、屋根の上で追っかけっこだね。"満たせ、肉の器を。魔力の酒を注ぎ込み、行き渡れ、賦活の力。
出た、中級魔法!
俺の体が軽くなる。
「私にも掛けておいたからね。二人で魔女狩りを追いかけられるよ!」
「ありがとう! よっしゃ、行くぜ!」
エレジアと二人で、ここから見える魔女狩りの背中を追う。
絵筆を持った方が、こちらに気付いたようだ。
「まさか、あれを切り抜けてきたのか!!」
「兄者、奴らはやはり突破スキルに達している。俺たちの力をすべて使わねば止まらんぞ!」
「だが、弟よ! それよりも優先されるべきは、魔王の卵の確保!」
「おうとも!」
魔王の卵?
そもそも、魔王とはなんなんだ。
なんか、この戦いのうちにそれが明らかになりそうな気がするんだよな。
村の幼馴染、アセリナも同じものを持ってたしな。
魔女狩りは俺たちに目もくれず、屋根の上を全力疾走していく。
だが、こちらは体力を強化している。
徐々に奴らとの距離は詰まっていく。
……待てよ?
この状況で、さらに俺は加速できるのでは?
例えば……。
「両肩! 膝裏! ブラストビーム同時発射!!」
俺の背部から、四本のビームがぶっ放される!
すると、俺の走る速度が一気に加速した。
「兄者!!」
「ぬおおお! 神敵め!! 弟よ、背中を貸せ!」
「おう!!」
ぐんぐん迫る俺を見て、焦る魔女狩りの二人。
絵のモンスターを準備しようとするが、そうはさせない。
「弱点は分かってるんだ! ウォータービーム!!」
水のビームがぶっ放され、絵筆に染み込んだ絵の具を吹き飛ばす。
こいつの絵は、水彩絵具で描かれていた。
油絵ではないのは、多分、魔法攻撃では熱が多用されるせいだろう。
つまり、魔女に対してメタを張っていた。
戦闘において、水をぶっかけてくる奴なんかほとんどいないのだ。
「お、おのれっ!! 我らのスキルが!」
「てめえらのスキルは、たった二人で大軍を用意できたり、生み出したモンスターが地形を無視したりしてめちゃくちゃ強い! だが、だからこそ縛りがきついみたいだな!」
ついに奴らに追いついた俺は、両腕からウォータービームをぶっ放す。
魔女狩り二人はこれをもろに喰らい、屋根から落ちていった。
「ウグワーッ!!」
「だが! 閣下よりお預かりした、緊急賦活装置を使えば!」
「魔王の卵を一つ、ここで消費してしまう事は残念だ。だが、神敵を屠るため……!!」
「さあ、目覚めよ、魔王!!」
屋根から落っこちながら、めちゃくちゃ口が回るのな。
俺が呆れながら、奴らにとどめを差すべく屋根から身を乗り出すと……。
近くにある家から、よろけながら現れる者がいた。
一見して、俺と同い年くらいの男だ。
彼は胸を押さえながら、顔を青ざめさせている。
「ううっ……。苦しい……。目覚める……目覚めそうだ……」
「あいつが魔王スキルの持ち主か?」
「おお、目覚める!!」
「新たなる魔王が……! この地上でというのが残念だが……」
魔女狩りが手にしているのは、水晶のようなものだった。
それが今は、割れ砕けている。
水晶の破片なのか、キラキラと輝く粒子が、風にのって舞い散っていく。
その只中に、魔王スキルを持つ男がいた。
彼が苦しげにしゃがみ込む。
「どうしたんだアレン! 外に出てはいかん!」
村長と思しき男が、魔王スキルの持ち主に駆け寄る。
「い、いけない!! 離れて!」
エレジアが叫んだ。
次の瞬間だった。
アレンと呼ばれた魔王スキルの持ち主が、カッと目を見開いた。
そこに、目玉はない。
金色に輝く球体が埋まっている。
『我、目覚める。我、ここに目覚める。我は魔王なり。我は新たなる魔王なり。ここに降誕し、芽吹く者なり』
アレンの口から漏れるのは、金属をこすり合わせるような声だった。
彼の周囲に、光り輝く幕が生まれる。
それはまるで、卵のような形だ。
やがて光が実体を得て、アレンを飲み込んだ。
彼と同じ形をした顔が浮かび上がり、笑みを浮かべる。
『捧げよ! 全ての命を捧げよ! 我は魔王! 魔王、アレクライスである!!』
アレンに近づいていた村長が、驚きのあまり硬直している。
彼は逃げることもできない。
アレン……いや、魔王アレクライスとやらが口を大きく開くと、そこから光が漏れ出した。
光が村長を飲み込む。
「うわ、消滅しやがった」
「食われたのよ! あれが……魔王スキルの本当の姿……!」
「マジか!! 魔王スキルってなんなんだ!?」
俺は混乱する。
俺たちの下では、魔女狩りたちもまた、魔王アレクライスに食われていくところだった。
こりゃあ洒落にならないぞ。
そもそも、あんな化け物、どうやって戦う?
あ、ビームにロケットか……!?
「おい、新入り!」
その時、横合いから声が掛かった。
そこにいたのは……。
「オヤジさん!?」
最初の町で俺を雇ったオヤジさんだったのだ。
「随分鍛えたようだな。これを使え、新入り!」
オヤジさんが投げてくるのは、剣だ。
俺はこいつをブリーズビームで上手いこと浮かせながら、キャッチする。
「なまくらじゃねえぞ。本物だ。今のお前なら、こいつを使いこなせるだろ!」
「おう!!」
差し向かう、魔王アレクライス。
『捧げよ! 全ての命を捧げよ! 我は次の成長段階へと移行する! そのために、お前たちの命を我に捧げよ!!』
「命を捧げろとか、馬鹿言ってるんじゃねえ! ここで仕留めてやるぜ、魔王とやら!」
俺は、魔王に剣を向ける。
こいつは宣戦布告だ。
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