第18話 市街地戦:描画師

 村に降り立つと、すでに臨戦状態だった。


 帝国からの独立状態にある村というのは、それなりに戦う力を持っているらしい。

 剣術スキルや魔法スキル持ちがおり、彼らが守りを固めている。


 それでも抗しきれないくらいには、魔女狩りは恐ろしい存在だということだった。

 なるほど、恐るべしユニークスキル。


 襲撃は不意に起こった。


 村の門近くに、突然二人の男が出現したのだ。

 一人は大柄で、上半身をむき出しにした青い髪の男。

 こいつの体全体に、絵が描かれているのが異様だ。


 絵は、動物だったり武器だったり、攻撃的なものばかり。

 そして横を歩いているのがローブの人物。

 手にしているのはばかでかい絵筆だった。


「ははーん、なんとなく分かった」


「分かんのかよ!?」


 レンジが驚く。

 うん、お前は何も考えてないだろうからな!


「なんか絵を実体化させてくる敵だぞ、あれ」


「は? 絵が実体化!? ばっかじゃねえの!? そんなことあるわけねえじゃん!!」


「何もないところからロケットを呼び出すお前に言われてもなあ……!」


 スキルなんてのは、デタラメなもんだ。

 特に、ユニークスキルと、俺たちの突破スキルはめちゃくちゃにデタラメなのだ。


「いた……! いたぞ、兄弟!」


「ああ、魔女だ。それに不明スキル持ちも二人。二人もいる!?」


 あいつら、俺たちの事を把握してるのか?

 つーか、二人?

 誰か把握されてないやつが……。


「ん?」


 レンジが首を傾げた。

 こいつだ。

 ゴブリンとの戦いしかやってないから、魔女狩り戦はお初だもんな。


「よーし、兄弟。絵の力を解き放つ! いでよ、描画のモンスターよ!」


 絵筆を持ったやつが、上半身裸の背中を叩く。

 すると、そいつの体に描かれていた絵がむくむくと膨れ上がり、飛び出してきた。


 やっぱり実体化かあ!

 絵筆使いは、次々に裸の男の体に絵を描いては実体化させていく。


 スピードが早い分、後から出てくるのは雑だな。

 それでも数がどんどん増える。


「うおお、やっちまえー!!」


 村人が武器を手に、あるいは魔法を放って攻撃を開始した。

 ぶつかりあう、雑な絵のモンスターと村人。


 では、最初に描かれていた細やかな絵はどうなるかと言うと。


「来る。平面から実体になるぞ」


 ストークが呟き、一方後ろへ下がった。


「エレジア!」


「うん!」


 俺も彼女の手を引き、後退する。


「あ? なんだ? そっち行くのか?」


 ちょっと遅れてレンジがついてきた。

 その直後に、俺たちがいた場所からモンスターが実体化する。

 レンジの背中すれすれを、巨大な顎が噛み砕く。


「ぬおおー!?」


 叫びながら、レンジがゴロゴロと転がった。


 出てきたありゃ、なんだ!?

 長い鼻先を持つ緑色の怪物で、肌が鱗に覆われていて、背中には翼が……。


「羽の生えたワニ!!」


 エレジアがそれを説明した。


「ワニ!? ワニって生き物がああいうのなのか!」


「違う……。だが、端的に言えばワニだ」


 やる気無さそうにストークが口を挟んできた。

 つまり、ワニだな。

 

 その他、空を飛び回る剣や、六本足のでかい猫(エレジア曰く、豹らしい)、それに巨大な蛇が出てきて、これが俺たち用のモンスターってわけだ。


「走査! ……こいつは、間違いなく実体があるな。だが、帰ってくる魔力波が妙だ。希薄というか、おぼろげというか、なんというか。分析する。時間を稼げ」


「俺に命令するんじゃねえ! うおおお! ファイアボールロケットーッ!!」


 ストークに対して不満を叫ぶレンジ。しかし仕事はしっかりやる。


 飛び出したロケットが、ワニに突っ込んでいった。

 ワニはこいつと激突。

 爆発が起こる……が。


 爆煙の中から、ワニがにゅっと鼻先を突き出す。


「効いてねえ!?」


「爆風がすり抜けた」


 ストークが妙なことを言う。


「すり抜けた? どういうことだ? よーし、俺も俺もティンダービームでいいか」


 ビーッと真っ赤なビームをぶっ放す。

 それは降り注ぐ剣を迎撃するが、ギリギリで回避されてしまった。


「あ、すばしっこいな! なら二本だ!」


 両手からビームを放ち、空飛ぶ剣を挟み込むようにする。

 これなら逃げられまい……っと!


 ビームで挟まれたはずの剣は、少し動きが鈍くなったもののまだ動いている。

 ああ、いや、ちょっと表面がパリパリ割れてきている?

 だが、致命的なダメージではない。


「おっと、ブラストビーム!」


 考える暇などない。

 俺めがけて、空飛ぶ剣が降ってきた。


 村の方でも、描かれたモンスターたちに苦戦しているようだ。

 攻撃は当たっても、いまいち効いていないようなのだ。


 こいつら、今までの敵とは違うぞ……!

 この隙に、二人組の魔女狩りは村に入りこんできていた。


「オービター、あいつらの標的は魔王スキルの持ち主じゃない!?」


 エレジアの言葉で冷静になる俺。


「そうだった! じゃあ、こんなモンスターに構ってる暇は無いじゃないか」


 レンジがあちこちにロケットをぶっ放しているが、こいつは派手好きなので、馬鹿の一つ覚えみたいにファイアボールロケットしか使わない。


「ストーク、どうだ!」


「ああ、そろそろこいつらが何なのか分かってきた」


 モンスターの攻撃を次々回避しながらも、ストークは目を閉じている。

 この男のスキルはレーダー。

 目に見えないものも見ることができる能力だ。


 ストークにとって、視覚はさほど重要ではないらしい。


「帰ってくる魔力波が、音波が奴らの希薄さを訴えかけてくる。こいつらは物理的な破壊力を持っているが、それは……存在が集中している場所、切っ先や爪、牙に限られている。他は見せかけだ……! そして、炎が通用しない理由も分かった」


 ストークは豹のモンスターの攻撃をかいくぐると、その先にあった水桶を手にとった。

 それを、モンスターめがけてぶちまける。


 すると、豹の体の一部が、水に溶けるようにして流れ落ちていく。


「水に弱いのか!?」


「熱を持った水だ。こいつらは、絵の具でできている。だから、絵の具を溶解させる熱と水の組み合わせで倒せる!」


「なるほどな。レンジ!」


「なんだ!」


「お前のロケットはそれで打ち止めか? もっともっと出せるだろう!」


「当たり前だああああああ!! ファイアボールロケット、乱れ打ちだぜ!!」


 レンジのロケットが、あちこちに炸裂して爆発する。

 周囲が爆風、そして熱風に包まれた。


 周囲はまるで、真夏の暑さだ。

 ここに俺は五指を向けた。


「ウォータービーム!!」


 熱され、肉体を構成する絵の具が脆くなったモンスターたち。

 それをすかさず、強烈な水圧のビームで空間からこそぎ落とす!


 眼前まで迫っていたワニが、大口を開けて飛び掛かってくる。


「おらあっ!! 連続ウォータービーム!!」


 俺は拳を連打しつつ、その先端から断続的に水のビームを放った。

 熱されたワニの全身を、水のビームが穿っていく。


 ついにその全身を水で洗い流されたワニは、形状を維持できなくなり、解けるようにして消えていった。

 実体化する絵のモンスター、これにて攻略完了だ!


 村には少なからぬ被害が出たが、これはこれ。

 レンジや俺が、もっと被害を出さない戦い方を身につけるまでは仕方ない。


 勝利の余韻に浸る暇もなく、魔女狩りを追わなくてはならないのだ。


「既に奴らの行き先は掴んでいる。行くぞ!」


 ストークが走り出す。


「うわー、突破スキル? 三人が集まるとめちゃくちゃ有能になるんだねえ……。お姉さん感動しちゃった……」


 結果的に何もしなかったエレジア。

 だが、どうやら絵のモンスターへの対抗策は彼女の中で出来上がったようだ。


「次は魔女狩りに専念して。もしかしたら、魔王スキルの相手もすることになるかも。モンスターは全部、私が相手するからさ」


「ああ、任せた! ……っていうか、魔王スキルの相手って?」


 妙に不穏な響きに、ちょっと胸がざわつくのだった。

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