第13話 魔物出現:タッグ

 魔女の館での生活が始まった。

 基本的に、あのだだっ広い訓練場でスキルを鍛えることになるようだ。


「下級魔法は、四属性につき三つずつ。合計十二個あるのね」


「一気に増えたなあ……」


「でも、そのうちの大半は日常生活に使うような魔法だよ。オービターにはあまり関係ないんじゃない?」


「いやいや。この間の、エレジアが髪に絡まった枝とかを全部なくした魔法あったろ? ああいうのビームに乗せられないかなって」


「へえー! そんなので何をするの? きれいにしちゃうビームとか?」


「そうそう、そういうやつ! 何か使い方がある気がするんだよね。めっちゃくちゃ汚れちゃったやつとかさ、きれいにするビームできれいにしたら喜ばれそうじゃん」


「ほうほう」


 エレジアが俺を見てニヤニヤしている。


「なんだよー」


「うふふ、なんでもなーい。じゃあ、下級魔法は片っ端から教えていこうかな。氷結魔法、アイシクルニードル!」


「おおーっ!」


「石弾魔法、ストーンブラスト!」


「おおおーっ!」


「キレイキレイ魔法、コーディネート!」


「それだったかーっ!!」


「いやあ、オービター反応がいいねえ。お姉さん、魔法使うのが楽しくなっちゃうよ」


「いやさ、知らない魔法をバンバン教えてもらえるのって楽しくてさ。こうか? アイスビーム! ストーンビーム! コーディネートビーム!」


「あっはっはっはっは! 凄い凄い!! 一気にビームの種類増えた!」


 俺たちはハイテンションである。

 何せ、魔女の館なら邪魔が入らない。

 幾らでもスキルを磨けるというものだ。


 それに対して、ロケット使いレンジと、陰気な魔女ラプサのコンビは愉快そうな訓練をしてる。


「私が魔法剣を使うから、これをロケットに乗せて……」


「おう!! これだな! ファイアボールロケット!」


「違う、そうじゃない……」


「じゃあこっちか! アイシクルロケット!!」


「違う、そうじゃない……」


「よっしゃ分かったぜ!! ブラストロケット!!」


「全然分かってない……」


 楽しそうだ。

 それを見て、エレジアが顔をしかめる。


「うひゃあ、大変そうだ。あそこ、魔女と雛の相性が良くないんじゃない?」


 そういうものだろうか?

 俺的には、あれはあれで相性バッチリな気がする。


 そして陰気な魔女ラプサは、魔法剣というのが独自のスキルらしい。


「ラプサが魔法剣なら、エレジアのスキルは?」


「私は魔法。こう見えて、しっかり詠唱できるなら上級魔法まで全部使えるの」


「すげえー」


 魔女は二つスキルを持っているんだそうだ。

 一つは、個人特有のスキル。

 もう一つが、インキュベーター。これが後天的に身につくスキルなんだな。


 そうこうしていると、レンジが俺をじろりと睨んだ。


「おい、オービター! てめえ、負けねえからな!! 今度はオレが勝つからな、圧倒的に!」


「ばかめ、次に圧倒的に勝つのは俺だ。ビームは何でもできるスキルだからな! 魔法を多く覚えた俺に敵はない」


「なんだとぉーっ!! オレのロケットは他人を運べるんだぞ! いや、目にものを見せてやる!」


 他人を運べる……?

 ビームの亜種みたいなスキルだと思ってたが、どうも違うっぽいな。


「なんならここで決着をつけてやるぜオービター!」


「いいぜ、来いよレンジ!」


 かくして、不明スキル同士の激突再び……となりかけたところで、訓練場の扉が開いた。


「魔女の館は元の世界へと現れます。物資を補給せねばなりません」


 朗々と告げるのは、黒いベールを纏った長身の女……大魔女だった。


「物資補給って?」


 俺の疑問に、エレジアが答える。


「魔女の館では、自分たちで食料を作れないの。そういうスキル持ちが今いないからね。だから、正体を隠して他の村で食べ物を買うのよ」


「魔女も大変なんだなあ」


 魔女も、俺たち不明スキル持ちも人間であるから、食事をしないで生きてはいけない。

 食べ物は必要になるわけだ。


 ここで、大魔女が買い出しのメンバーを選抜する。

 まず、俺。

 魔女ラプサ。

 そしてレンジ。


 なぜだ!?


「どうしてオレがお前と!! もしやお前はオレの宿命のライバル……!」


「お前、まるで自分が世界の主役みたいな言い方しやがって! お前の方がライバルだろう」


「行くわよ、二人とも……」


「ラプサ、オービターをよろしくねー!!」


 エレジアが手を思いっきり振り回して、元気に見送ってくれるのだった。

 


 

 到着したのは、俺の住んでいた村とは明らかに、見た目も雰囲気も違うところだった。

 こころなしか肌寒く、森に生える木々の姿も違う。


 ここで、俺たちは当座の食料を買い込むことになった。

 ラプサが交渉して、お値段を少し勉強してもらっている。

 大量に買うから、その分の値下げには応じてくれるようだ。


 真面目だなあ。

 エレジアとはまた違うタイプの女性だ。


「どうだ、うちのラプサは凄いだろ。値段交渉ができるんだぜ。オレだと殴り合いになる」


「だろうな……!!」


「だろうなとは何だお前!!」


「自分から言いだしておいて何怒ってるんだお前!」


 俺とレンジで、いつもの一触即発状態になる。

 ラプサが振り返り、胃の辺りを押さえた。


「暴れないで。お願いだから……」


「あ、はい」


 気の毒になったので、冷静になる俺。

 レンジはコロリと気が変わったようで、村の中を見回していた。


「ところでよ。なんつーか、村が暗くねえか? 雰囲気が暗いつーか、なんかみんな怖がってるっていうか」


 言われてみれば。

 村人たちは、何かを警戒するように、身を縮こまらせて足早に道を歩く。

 最低限の買い物を済ませたら、すぐに家の中に閉じこもっているようだ。


「なあ、店のおっさん。何かあったのか?」


 こういうのは現地の人間に聞くのが早い。

 ラプサに商品を渡した店主に、尋ねてみた。


「ああ。魔物が出るんだよ。ゴブリンどもと、そいつを率いているゴブリンロードがな」


「ゴブリン!?」


 話では聞いたことがあるが、俺の住んでいた村の周りにはいなかったモンスターだ。

 人を襲う、緑の肌をした小人らしいな。


「魔女狩りが向こうの村ででかい狩りをしたらしくてな。それに追いやられて、ゴブリンがこっちに逃げてきたんだ」


「ははあ。心当たりがあるような。無いような」


 俺とエレジアを待ち伏せした、あの魔女狩りどもが関係してるんだろうか?

 だが、考えている暇はなかった。


「ゴブリンだー! ゴブリンが出てきたぞー!!」


 村の入口で、叫び声が響く。

 見張り台に上っていた村人が、ゴブリンを発見したのだ。


「あんたらもさっさとどこかに隠れたほうがいい! ゴブリンどもは村の塀を閉じてても、平気で入ってくるんだ! くそっ、これじゃ商売あがったりだ!」


 店主はそう叫ぶと、店の扉をピシャリと閉じた。


 村の外から、甲高い叫び声が幾つも聞こえ始める。


「……よし、やってみるか」


 俺は、声がする方向に歩き始める。


「どうする気だ、オービター」


「ゴブリンをぶっ倒すんだよ。なんか村の人、困ってるみたいだろ?」


「へえ」


 レンジが横に並んだ。


「奇遇だな! オレもゴブリンをぶっ倒そうと思ってた! おい、競争しようぜ!」


「ゴブリン退治競争か……!!」


「そうだ! オレとお前の決着もつくし、村人もハッピーになる! いい事しかねえ! なあラプサ!」


「まあ、そうですね……。レンジの割にはいい考えだと思います……」


「褒めるなよー! 照れるだろ!」


 褒めてる?

 まあいいか。


 俺とレンジ、二人並んで迎え撃つのは、村の入口からなだれ込んでくるゴブリンの大群。

 新たなビームの威力を試し、そしてレンジにも格の違いというやつを見せつけてやろう!


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