第12話 不明スキル:ロケット

「おい、お前」


 いきなり声を掛けてきたのは、赤い逆だった髪をした男だった。

 目つきが悪くて、あちこちに傷跡がある。

 こいつ、やべえやつだな?


「おう、なんだ」


「お前が一番新入りだ。オレはお前の先輩だぞ? ひれ伏せ」


「なん……だと……!? なんて分かりやすいマウントのとり方なんだ」


 俺は戦慄した。

 凄く頭が悪そうなのがいる。


「エレジア、こいつも俺と同じ不明スキル持ちなの?」


「多分そう。だよねえ」


 エレジアが話しかけたのは、この逆立ち赤毛の相棒らしき魔女。

 暗い灰色の髪をした、陰気そうな女だ。

 魔女なのに、腰に剣をぶら下げている。


「そう。レンジ、お願いだからあちこちで喧嘩ふっかけないで……。頭痛くなりそう」


「あっひゃっひゃ、レンジくんはいっつも元気だねえー」


 手を叩いて笑うのが、もう一人の魔女。

 明るい茶髪で、パッと見ちっこい。

 子どもかな? と思うくらい小柄な魔女だ。


 魔女の相方は、風変わりな緑色の髪をした男。

 こちらをじーっと見ている。


「……無手か。全身を走査したけど、武器らしきものはない。レンジと同じタイプだ」


 走査ってなんだ?

 そして、こいつの言葉によると、目の前にいる逆立ち赤毛、レンジは俺と同じタイプ?

 ビーム出すの?


「お前もあれか。魔法をビームに変えるの?」


「なんでえ、そのビームってのは。オレはな、オレサマのスキルは、ロケット!!」


「ロケット!? なんだそりゃ!」


「オレもよく分からん。だが、これだけは言えるぜ。魔女狩りどもをぶちのめすためのスキル、それがロケットだ!」


「レンジ、違う。違うから」


 陰気な魔女が必死でツッコミを入れている。

 ははーん、こういう人間関係。


「あー、私のところ、オービターで良かったぁ……。彼、話を聞かなそうなんだもん」


 エレジアが安堵のため息をつく。

 うんうん、物分りのいい俺で本当に良かった。


「おい、お前! 決闘だ!!」


 レンジが俺を指差す。


「えっ、なんでだ!? 今、どうしてそういう話の流れになった?」


「オレが、お前ら不明スキル持ちのリーダーになるためだ!」


「なにっ、お前、リーダーになりたいの……? 凄く面倒くさそうじゃない?」


「うるせえ!! やるぞ!!」


「仕方ないな。俺以外の不明スキルの性能を見るために、勝負してやろう!」


 そういう事になった。

 エレジアが苦笑し、陰気な魔女が頭を抱え、ちびの魔女がげらげら笑う。

 緑髪の男はため息をついた。

 クール系……!


 ちびの魔女が案内するのは、館の一室だ。

 扉を開けたら……。


「うわーっ、な、なんじゃこりゃーっ!!」


「うわーっ、な、なんだこりゃーっ!!」


 俺とレンジが声を合わせて驚いた。

 いや、お前も驚くのかよ!


 そこはだだっ広い部屋になっていたのだ。

 何ていうんだろうな?

 訓練場みたいな。


「ここなら二人のスキルでバンバンやり合っても大丈夫だよー。大魔女様のスキルで隔離されてるから!」


 ちびの魔女が、広い空間の中でくるくる回る。


「さあどうぞ! 存分にやりあってね! ただ、殺したらダメだよ。二人とも、すっごく貴重な雛なんだから」


 なるほど。

 こいつも、あの魔女狩りどもを振り切ってやって来た不明スキル持ちってわけか。

 じろりとレンジを見る。


 レンジもじろりと俺を見た。


「えっ……殺しちゃダメなの……? オレ力加減できないんだけど」


「おいおい!」


 ヤバイやつだなこいつ。

 一つだけ分かったぞ。

 こいつ、絶対にリーダーにしたらダメなやつだ!


 俺はやる気になった。


「……はあ……。せっかくの貴重な不明スキル同士が、なんで戦うの。でも、仕方ないよね。じゃあ……戦って」


 なんて気の抜けた合図だ。

 だが、これでレンジはやる気になったらしい。


「わっはっは! 見てろ、ラプサ! お前の雛であるオレが一番つえーってところを見せてやるぜ! ロケット!!」


 レンジが叫ぶと、奴の手の中に筒状の物が出現した。

 いや、なんというか、俺のビームと同じようなものだな、あれは?


「炎を込めて! ファイアボールロケット! 死ねえ!!」


「死んだらだめだろうが!」


 やつの掛け声に思わずツッコミを入れつつ、飛ばされてくるロケットに手を向ける。

 ファイアボールと言ったな?

 ということは、あれはあの形にされたファイアボールだ。


「ファイアボールビィィィィムッ!!」


 俺の手のひらから、ビームが迸る。

 それは俺とレンジの中間で炸裂し、ロケットと反応して大爆発を起こした。


「まだだあっ!! アイシクルロケット!!」


「俺が知らない魔法だな!? ブラストビーム!!」


 俺は足の裏から強烈な風のビームをぶっ放し、跳び上がった。

 この部屋は恐ろしく天井も高い。

 飛んでも頭がぶつからなそうだ。


「と、飛んだだと!?」


「驚いてる暇は無いぞ! おらあ! ブラストビーム!!」


 風のビームがレンジにぶち当たる。


「ウグワーッ!!」


 レンジが吹き飛ばされて、ごろごろと転がっていった。


「く、くっそー。空を飛ぶなんて卑怯だぞ……!」


「はっはっは!! 使えるものは何でも使う! これでお前がリーダーになることは無くなったようだな……! あいてっ!!」


 飛び上がり過ぎた俺、とうとう天井に激突。

 そのままヒョロヒョロと落下してしまった。

 うおお、く、首が……!!


 結局、ひっくり返った姿勢のままのレンジと、首を押さえてのたうち回る俺が残る形になったので、勝負はドローということになった。

 おのれレンジ、次は圧倒的な大差で勝つ……!!



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