第10話 魔女包囲網:飛翔

「魔女狩りはね、繋がってる。だから最初の一匹が来たら、次も来るの」


「ネズミみたいな奴らだな」


「そうなんだよね。だから、魔女の間ではそのままネズミって呼ばれることもあるの。そろそろかな」


 翌朝のことだ。

 エレジアがそんな事を言いだした。


 思った以上に、魔女狩りは厄介な相手らしい。


「でも、今までは魔女狩りから少しでも遠ざかるように逃げるしかなかったけど……。今は不思議だね。オービターがいるとなんとかなりそうな気がする。君は本当に、突破してしまう子なのかも知れない」


「突破が何なのかは分からないけど、俺がいる限りエレジアには手出しさせないぜ! ……おっと、そうすると、宿場町にも迷惑かけることになるのか!」


 俺は気づいた。

 この町の人たちには世話になったが、俺とエレジアの正体が知れた途端に扱いが悪くなるかも知れない。

 それに、魔女狩りは周りの迷惑を考えない。


「よし、朝飯も食ったし、出るんだな」


「そういうこと。魔女狩りをまた振り切ったら、魔女の館を呼ぶから」


「魔女の館?」


「私たちが集まる場所。そして、オービターみたいな突破できるかも知れない子を集めている場所。魔女はね、育てるための雛を探して旅をしているの。そして大半の魔女は、雛を見つける前に殺される。雛を見つけても、また館に辿り着く前に殺されたりもする」


「なんだって、みんな魔女をそんなに目の敵にするんだ」


「それが帝国の決まりだから。今はそれだけしか言えないな。私の記憶もね、ここで」


 エレジアが、銀色の髪に指を突っ込み、ぐるぐる回してみせた。


「ロックが掛かってるの。捕まっても何も喋れないように。知ってるのは大魔女様だけ」


「大魔女ねえ」


 よく分からない話だが、とにかく魔女の館まで行けばいいんだな。

 俺たちはすぐに、宿場町を発った。


 急な出立で、町の人たちは驚いていたようだ。

 しかし、俺たちは正体さえ知らなければ町の恩人だ。


 みんな手を振って送ってくれて、お弁当までくれた。


「いい奴らだったなあ」


「うん。みんなね、帝国の決まりさえなければ、いい人たちなんだよ。彼らを縛ってるのは、帝国と魔女狩りへの恐怖だから」


「帝国も魔女狩りも悪いやつだな」


「オービターはなんでも単純に考えるねえ」


 くすくす笑うエレジアに、頭をつん、とつつかれた。

 これはこれで嬉しい。


 だが、楽しい時間もそう長くは続かない。

 宿場町を出て少しのところで、何人かの男女が姿を現したのだ。


 誰もが、木に吊るされたロープの輪を描く、魔女狩りの紋章を身に着けている。


「神敵を発見! ベックからの映像と変わりなし!」


「散開しろ! 囲め!」


 魔女狩りの集団だ。

 これはびっくり。


 エレジアも目を丸くしている。


「これだけの数の魔女狩りが一度に動くなんて……! 初めてだよ、こんなの」


「めったに無いことなのか!?」


「うん、普通は魔女狩り一人で、魔女も雛も一緒に狩られてしまう……。だから、出会わないように館を目指すのがセオリーなの。とは言っても、私にとって初めての雛は君なんだけど」


 初めてっていうのは、特別感があっていいなあ。

 俺はちょっとにやけた。


「笑うか、魔女の騎士!」


「気をつけろ! この男の不明スキルは、熱線! 浴びればベックのようになるぞ!」


 俺のデータを掴んでるか。

 っていうか、魔女の騎士ってなんだ。

 ちょっとかっこいいぞ。


「仕掛ける! はあっ!!」


 魔女狩りの一人が、俺たち目掛けて手投げ矢ダーツを放ってきた。

 それらは不規則な軌道を描きながら、俺とエレジア目掛けて四方八方から飛んでくる。


 なんだこれ!?


「エレジア、しゃがめ!! おらあああっ!! ティンダービーム!!」


 俺は両手を広げて、五指の先から赤いビームをぶっ放した。

 ぐるんと回転すると、周囲に迫っていたダーツがどれも溶けて焼かれて落ちる。


「熱線!」


「これまでの不明スキル持ちとは段違いの威力!」


「まさしく神敵! コンビネーションで無力化するぞ!」


「おう!」


 魔女狩りが再び動き出す。

 網を携えた男と、鞭を持った女。

 そして獰猛そうな犬を連れた男が迫る。


「きりがないな! ここを脱出しないと!」


「でもオービター、囲まれてるから結構難しいかも……!」


「真っ直ぐ逃げられないなら上から逃げられたりしないか!? ええと、エレジア! 何か飛べそうな魔法とか!」


「詠唱がいるから! きゃあっ!」


 生き物のように絡みついてくる網を、ブリーズビームで切り裂く。

 飛来する鞭にマッドビームを撃ち込んで動きを止め、凄まじい勢いで襲いかかってきた犬を、ウォータービームで迎え撃った。


「がううううっ!!」


「この犬! ウォータービームで頭が砕けねえ! 化け物か!」


「化け物は貴様だ魔女の騎士!! 熱線だけではない! 一体どれだけのスキルを使うのか!?」


「危険だ、この男、間違いなく危険! 不明スキルではない、突破スキルの持ち主!!」


「ここで止めろ!! この男をこれ以上生かしておいてはならん!!」


 魔女狩りたちの目つきが変わったのが分かる。

 仕事モードから、必死モードになった。


 な、なんだなんだ!?


「飛ぶ……そうだ! 君、風のビームを使えたよね? それとこの下級魔法、ブラストウィンドを組み合わせれば! 見せるから、速攻でインストールして!」


「おう!」


 エレジアが立ち上がり、魔女狩りの一角に手のひらを向ける。


「ブラストウインド!!」


 すると、猛烈な風が吹き荒れた。

 一瞬、魔女狩りたちの足が緩む。


「なんの、こんなもの……!!」


 ただの風に過ぎないのか、魔女狩りにダメージはない。

 だが、俺の中でピンと来た。


 強烈な勢いの風を、相手に向けて放つのではなく。


「覚えたぜ。エレジア、こっち来い!」


「きゃっ!」


 エレジアを抱きしめて、俺はイメージする。

 地面に向けて、強烈な風のビームを放つ!!


「ブラストビーム!!」


 俺の足の裏から、極太な風のビームが放たれた。

 轟音とともに、俺とエレジアの体が空高く舞い上がる。


「な、なんとおーっ!?」


「飛んだーっ!?」


 魔女狩りの叫びが聞こえる。


「わはははははは!! 空の上までは包囲できていなかったようだな! そして! これが置き土産だ魔女狩りども!!」


 俺のポケットから、ビームを帯びたロープがスルスルと飛び出してくる。

 先端には手袋がくくりつけられているが……。


 多分これ、剣を結んだほうが威力が出るんだよな。

 だが、今はそんな余裕などない。


「ファイアボールビーム!!」


 ロープが大きくしなり、戦場の隅から隅に向かって、一直線にビームを吐いた。


 一瞬の間。

 その直後に、戦場が次々と連鎖爆発を始めた。


「ウグワーッ!?」

「ウグワーッ!?」

「ウグワーッ!?」


 魔女狩りたちが吹き飛んでいく。

 殺すまでは行けていないかも知れないが、今はこれで十分!


「わははははは! 人がまるでゴミのように吹き飛ぶぜ!! じゃあな魔女狩りの諸君! さらばだ!!」


 俺はエレジアを抱きしめたまま、彼方へと飛び去っていくのだった。


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