第7話 異端審問:警戒

 帝国西部統括・異端審問官ヴェラトール記録。


 西部にて、魔女狩りベックの反応が途絶。

 最後に転送された映像データから、ベックの死亡を確認。


 かの地域に、魔女インキュベーター出現と認識。

 ベックを殺したのは、高い危険度を持つ魔女の騎士と判明。


 騎士から、『突破する』可能性を鑑みて、緊急対処の必要性を訴える。


 居並ぶ、魔女狩りたち。

 彼らの前に映像が展開される。


 魔女狩りベックの視覚情報だ。


 ごく普通の、村の青年といった外見の男が、ベックのロープを謎の光で切断する。

 振り上げた鍋から、謎の光が出る。


 ロープでこれを防ぐベック。

 しかし、真っ赤に輝く光がロープを貫通してベックへ到達し。


 ベックの視覚情報が途切れる。


「この魔女の騎士の危険度をBランクと判定する。西部地方に展開せよ。魔女を狩れ。魔女の騎士を狩れ」


 魔女狩りたちが不敵に笑いながら頷く。

 あの魔女の騎士の身のこなしは、素人そのものだった。

 そして光は、魔女の騎士の体から発せられるのだろう。


 幾らでも対処方法はある。

 いつものようにやるだけだ。


 オービターとエレジアを狩るため、彼らは動き出す。



 しかし彼らは、オービターという男と、スキル:ビームの持つポテンシャルを、あまりにも甘く見ていたのである。






「町の連中、俺たちを追い出すとは! なんて奴らだ! いつか焼き尽くしてやる!」


「魔女だって知れたんだもの。当たり前でしょ。誰だって魔女狩りの巻き添えになるのはいやだもの」


 エレジアは特に気にした風もない。

 人間がでかいなあ。

 心が広いお姉さん好き。


「ところでオービター。初めての実戦はどうだった? 何か掴めたものはある?」


「もちろん! 俺ができることが増えるだけ、ビームを使いこなせるようになるって言ってたろ。あの魔女狩りのロープを真似してな、こんな風に」


 俺は、魔女狩りの死体から持ってきたロープを握りしめる。

 するとロープが光りだし、うねうねと動いていく。


 ビームを宿すと、ロープが自在に動くみたいだ。

 さらにさらに。

 ロープの先端には手袋をくっつけているのだが、光が手袋に到達すると……。


 バリバリバリッと音がした。

 手袋の先端、五本の指から、バラバラな方向にビームが放たれたのだ。

 今回は一番安全な、マッドビームを使っている。


 真っ黒な泥のビームが、目の前にある道や木々を染め上げていく。


「すっごーい! ビームで遠隔操作できるんだね!」


「ああ。あのうねうねロープ、俺も真似できないかな―って思ったらやれた!」


「それで、村を出てからずーっと難しい顔してロープを引きずってたのね」


「今さっき、やっとロープにビームが行き渡ったところなんだ。ただ、弱点があってな……。今の俺だと、手袋の先端から五方向に撃つと、他にビームが出せなくなる。だからこれは最後の手段だ」


「最初の手段で不意打ちに使えばいいんじゃない? 何もさせずに倒そう」


「あ、そっか!!」


 エレジアは賢いなあ。


「あのね、オービター。私たちは、必ず一つのスキル得て、魔女になるの。それは、インキュベーターというスキル。未だ雛でしかない、不明スキルの持ち手を育てるためのスキルよ」


「それはつまり……エレジアは俺のママだった……?」


「なんでよー」


 彼女が笑いながら脇腹をつついてきた。

 くすぐったいくすぐったい。


「つまりね、私といることで、君は成長しやすくなる。スキルは使えば使うほど成長するけど、不明スキルは使いこなすほどに能力のパワーが上がり、選択肢も増えていくの。私たち魔女は、不明スキルの成長を手助けする導き手なのよ。だから、どーんと私に頼りなさい。あそこで私と君が出会ったのは、運命なんだから」


「なるほど運命!!」


 つまり俺がエレジア好き好きって思うのも運命なんだな。

 素晴らしき運命!


 ノリノリになった俺と彼女で、スキップ踏みながら道を行く。

 街道のど真ん中を、真っ昼間に歩いていく。


 とくに行く先に当てはないんだが……。


「君を案内したいところがあるの。魔女が一時的に集まっている場所でね。君と同じような不明スキルを持った人たちもいる」


「へえ、そんなところが……」


「もちろん、秘密にしているわ。だって魔女狩りにバレたら大変だもの。まだ、私たちは、魔女狩りを確実に倒せるほどの力を持ってない。でもオービター。君はひょっとしたら、ひょっとする」


「俺はひょっとするのか! ふふふ、参っちゃったなあ」


 悪くないじゃないか、ビーム。


「それじゃあ、この先に宿場町があるから。一旦腰を落ち着けて、そこでビームの新しい使い方を考えてみよ? お腹もすいたし……」


「確かに」


 ちなみにオヤジさんはあの後目を覚まし、姿を消した。

 どうやらオヤジさんもエレジアの関係者だったみたいだ。

 また会おう、なんて言ってたな。


 俺の腰には、オヤジさんの餞別である、なまくらの剣と鍋がぶら下がっていた。


 つまり二刀流である。

 この上で、ロープも同時に使えるようにならんかな。

 どこで持つの?

 足?

 尻?


 尻からビームを出す姿は、エレジアには見せたくないな……。

 尻は封印だ。


 こうして次なるビームを出すところなどを考えつつ、俺たちは街道を抜けて宿場町に……。


「……オービター、燃えてるねえ」


「燃えてるなあ……」


 宿場町は、夕暮れの空をさらに赤く染め上げるように、ガンガンに燃えていた。

 逃げ惑う人々。


「ヒャッハー!! 食い物をよこせ!」


「ヒャッハー! 金だ!」


「ヒャッハー! 女だ!」


 盗賊団が宿場町を襲ったのだ!


「オービター!」


「もちろん! 実戦で新しいビームの使い方、試してみるぜ。さらに人助けできりゃあ最高だ!」


 右手になまくら、左手に鍋。

 俺と盗賊団の戦いが始まる。


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