第6話 神敵上等:ビーム

 俺とベックが同時に動く。


「死ね!!」


 ベックの腰から、凄まじい速さでロープが伸びる。

 触れた瞬間に拘束してくるロープだ。


 俺はこいつを後退して避けようとして、テーブルにぶつかった。

 やっべ!


 俺の腕にロープが巻き付く……が、そこは手汗をかいていたのだ!!

 汗をビーム化してバラバラにする。


 ふう、割と応用できるぞ、ビーム。


「面妖な……。だが、無限に使える能力ではあるまい」


 むむっ。

 汗が引いたらこの手は使えなくなる……!

 どうしたら……。


 どうしたらじゃねえ!

 守りに入るな。

 攻めろ。


 客が残していったスープ皿を掴む俺。

 そこにベックが、再びロープを伸ばしてきた。


「スープビーム!!」


 スープを指先で弾く俺。するとスープが光り輝きながら、無数の飛沫になってロープにぶつかった。

 ロープがずたずたになる。

 そしてその奥にあった壁にも、細かい穴がたくさん空く。


「意味の分からんスキルだ。だが……お前の性格は分かる。直情径行。戦いには向いていないタイプだ。読み易過ぎる」


「なんだと!?」


「経験が足りていないと言っている」


 そう告げたベックの手が、エレジアに繋がるロープを握りしめていた。


「ぐううっ!」


 エレジアが苦痛で顔を歪める。


「動くな。動けばこの女の足を引きちぎる」


「なん……だと……!?」


 物語に出てくる悪党がやる、典型的なムーブだ。

 だが効果的だ。

 そう言われるとこっちは動けなくなる……。


「オービター……! どっちにせよ……君が負けたら私は殺される、でしょ……!」


「そ、そっか!」


「黙れ、魔女!」


 ロープがエレジアをさらに拘束すべく動く。

 今度は、彼女の首を狙っている。

 そこに巻き付いたら終わりだ。


 そしてエレジアの足を引きちぎると脅されても、俺が動かずに負ければやっぱりエレジアは死ぬ。


「悪いなエレジア! 足一本諦めろ! 俺が責任を取る……!!」


「オッケー!」


 エレジアの声が聞こえてきた。

 俺は既に、指先をベック目掛けて伸ばしている。


「ブリーズビーム!!」


 店の入口から、風が吹き込んできた。


「ブリーズウインド……? 初期の魔法……なっ!?」


 ベックは慌てて身をかわした。

 エレジア目掛けて放たれたロープだけがそこにあり、それはブリーズビームで完全に両断される。


「破壊力……!! 集合したおれのロープの強固さは、鋼にも勝るはずなのに……! やはりお前は、ここで殺す」


「うるせえ! 死ぬのはお前だ魔女狩り!!」


「それは敵わん。お前は経験不足だと言っただろう」


 ベックが憐れむように言った。

 何だと!?


 背後から、俺の全身をロープが拘束する。

 こ、これはなんだ!?

 まさか……オヤジさんを拘束してたロープか!


「終わりだ。縊り殺す」


 ベックが、ロープの拘束を強化した。

 俺の全身に、ロープが食い込んでくる。


 こ、これはやばい!

 死、死ぬ……。


 俺は白目を剥き、思わず鼻水が出た。

 は、鼻水ビーム……!!


 次の瞬間、俺の口から胸、腹を拘束していたロープが、下に向けて一直線に放たれたビームに寄って焼き切られた。

 俺の全身が自由になる。


「なっ!?」


 さすがのベックも驚愕する。


「なんだ!? なんだお前のスキルは! ビームとは一体何なのだ!?」


「うるせええええ!!」


 俺は既に、オヤジさんの傍らにあった鍋を足で引っ掛けている。

 そいつを蹴り上げると、魔女狩りが放ったロープが、ちょうど鍋にぶち当たった。


「ま、まぐれだ!」


「うるせええ!! 鍋っ」


 鍋の取っ手を握りしめる。

 そして、思いっきり……振る!!


「ビィィィィィムッ!!」


 鍋から、鍋の形をしたビームが飛び出した。


「防御を!!」


 ベックの全身からロープが飛び出す。

 それは鍋ビームと正面からぶつかりあい、次々に焼き切られていく。


「だが、このペースならば凌げる! 再び戦いのイニシアティブを……」


「鍋は火の上に乗せねえとなあ! ティンダービームッッッ!!」


 俺の鍋から、真っ赤なビームが放たれた。

 本来なら、火を付けるだけの魔法。

 それもビームになれば、進む先にある全てのものを燃やし尽くすことになる!


「馬鹿な! 馬鹿な、馬鹿なーっ!! これほどまでに危険な神敵が、どうして見過ごされていたのだ! ああ、報告せねば! 偉大なる神帝にご報告申し上げねば!! このままではおれは死ねぬ! 俺は、俺はっ」


 そこまで言ったところで、ティンダービームが鍋ビームをぶち抜き、ベックの頭を真っ黒な炭の塊に変えた。

 それが魔女狩りの終わりだった。

 奴は力なく崩折れて、地面に転がる。


 俺はしばらく、動かなかった。

 いや、念のために、ベックの死体にブリーズビームを何発か叩き込んで確認してみる。


 よーし。

 よし! 死んでる!

 ……初めて人を殺してしまった!


 だが、殺さねば殺されるところだった……!

 っていうか、あんな面妖な技を使うとか、魔女狩りは人間ではないのでは?


 謎だ。


「おっと、首を傾げてる場合じゃねえ!」


 俺は慌てて、オヤジさんを抱き起こした。

 鼻に耳を近づけると、呼吸の音がする。

 よし、生きてる。


 それから、エレジア。

 彼女はすっかり拘束から逃れ、俺に駆け寄ってくるところだった。


 俺を目掛けて飛び込んでくる彼女。

 抱きとめると、ふんわりいい匂いがした。


「良かった……! 君は世界の希望なんだ、オービター! しかも、魔女狩りに勝ててしまうほどの雛だ! 君が生きていてくれてよかった! 私なんかのために、命を捨てなくてよかった!」


「何を言うのだ! 俺はエレジアが死んだら死ぬほど悲しくてきっと死んでしまうのだ。死なないためにはエレジアを死なさないようにしないといけない。だから魔女狩りを倒した!」


 俺の言葉に、エレジアがきょとんとする。

 そして、くすくすと笑い出した。


「うふふふふ! おっかしい。何言ってるんだか分からないけど、何を言いたいかは分かるわ。ありがとう。本当にありがとうね、オービター」


 それは、魔女エレジアの心からの礼だと、なぜか俺には分かるのだった。

 


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