第4話 剣術変換:ビーム

「お前、フォームはめちゃくちゃだが馬力だけはあるな」


 店のオヤジさんに、仕事終わりに稽古をつけてもらう。

 すぐ近くでは、魔女のエレジアが嬉しそうにこれを眺めている。


 俺が強くなっていくのがきっと嬉しいんだな。

 ふふふ、俺はもっともっと強くなるぞ。


 オヤジさんに教えられたやり方通り、借りたなまくらの剣を振り回す。


「うらっ! そらっ! とりゃーっ!」


「おお、いいぞいいぞ。剣術スキルが無いやつは、所詮どこまで行っても小手先の技にしかならねえ。あいつら必殺技とか使ってきてずるいからな。要は出させる前に手数で押し切って殺せばいい」


 オヤジさんの目が、残虐にギラリと輝く。

 さすがはもと傭兵、恐ろしいぜ。


 ちなみにオヤジさんは料理スキルなどない。

 それでも店を経営できている。


「美味すぎると飽きるだろうが。俺くらいのちょいマズで酒が安い店が繁盛するんだよ」


 そんな事を言ってたが、実際に結構客が来てるので本当なのかも知れないな。

 俺はそんな事を考えつつ剣を振り回すのだが、心ここにあらずというのはすぐに見抜かれてしまった。


「へっぴり腰! てめえ素人のくせに他のこと考えてていいと思ってんのか!」


「うっす!!」


「がんばれ、オービター!」


「がんばる!!」


 エレジアに応援されると、もりもりと元気が湧いてくるな!

 もともと元気は有り余ってるが。


 俺はまあまあ覚えがいい方らしく、それっぽい剣の振り方はすぐにマスターした。


「実戦じゃとても使えねえがな。まだまだだ。じゃあ、俺は仕込みに戻るぜ」


「ありがとう、オヤジさん!」


 ということで。

 オヤジがいなくなったところで、エレジアとのスキル強化タイムだ。


「剣なんかちょっと使えたところで、剣術や槍術、弓術みたいなスキル持ちには勝てないわ。でも、君の場合、剣をそれっぽく振れるようになるっていうのが大事なの」


「そうなのか? でも、木の棒でもかわらなくない?」


「イメージの問題。剣のほうが強そうでしょ。そうしたら、君が持つビームも、剣を使ったほうが強くなる」


「そうなのか……!!」


「やってみて」


「おう!」


 俺は剣を振りかぶる。

 なるべくなにもない方向に向けて……。


 先には、村長であるクソ親父の顔を思い浮かべる!


「死ね! クソ親父!! あと俺にフォーク刺した村人!!」


 俺は剣を思い切り振り下ろした。

 すると、俺の剣の動きに沿って光が生まれたではないか。


 そいつが大地を切り裂きながら進んでいく。

 そして、俺が親父と村人の顔を思い浮かべた辺りで炸裂した。


 ドカーンッという、かなりでかい音がする。


「なんだなんだ!?」


 オヤジさんや、周りの住人が飛び出してきた。

 慌てて隠れる、俺とエレジア。


「ほらね? 無駄なことなんかなんにも無い。君は何かをできるようになるたびに、スキルの力を自分のものにしていくの!」


「そう考えると、俺のわけわからないスキルも悪くないと思えてきたな! なんかいけそうだ!」


 そして、俺の修行の日々が始まる。

 エレジアからは、初級の魔法を習う。


 発火の魔法ティンダー。

 水を召喚する魔法、コールウォーター。

 足元をぬかるんだ泥にする魔法、マッドスネア。

 そよ風を吹かせる魔法、ブリーズウインド。


 これが基本の基本らしい。


「四大属性の魔法から行きましょ。これなら素質がちょっとあればすぐ使えるようになるわ。世の中じゃ、魔法スキルが無いと使えない、とか、簡単な魔法でも習得には何年も掛かる、なんて言われてるけど……。魔力なんて誰だって持ってるんだから」


「そうなのか! じゃあ、俺もすぐに使えるように?」


「そう! あのね、魔法をスキルと結びつけるとすぐに覚えられるの。これ、裏技なんだけどね」


 裏技!

 心躍る響きである。

 つまり、俺は魔法をビームと結びつけるイメージをすると覚えやすいのか。


 例えば、ティンダーならビームで火を付けるイメージ……。


 俺の指先から、真っ赤な光線が放たれた。

 なんか凄く、ビームって感じだな!


 光線が当たった先にある枯れ草が、一瞬で燃え上がる。


「すげえ、すぐ使えた!」


「びっくり……。あっという間に使いこなすなんて。多分、君のスキル、ビームはあらゆる魔法の上位にあるスキルなんじゃないかな」


「えっ、そんなに凄いのか……!?」


 俺は自らの不明スキルを見直してしまった。

 そんなに凄かったのか、お前。

 だったらなんで、みんなこのスキルを怖がって追放までするんだろうな。


 というか、魔王スキルは良くてビームはいかんとか、どうしてだ。


「ほらほら、次々! どんどん行ってみよう! 初級が終わったら、下級魔法に取りかかれるよ! どんどんビームをパワーアップさせちゃおう!」


「おう! 行くぜ!!」


 コールウォーターのビームは、水をすごい勢いで吐き出した。

 ウォータービームは、命中した先に穴を空けるし、途中にあるものを切り裂く。これは強い。


 マッドスネアのビームは、対象を一瞬で泥だらけにした。

 これは使い物にならないのでは? と思ったら、泥が付着と同時に乾くので、対象を拘束する効果がありそうだ。


 ブリーズウインドのビームは、物を切断した。

 あ、これ、俺の叫び声がビームになったやつと同じだ!


 じゃあ、もしかして、剣と魔法を合わせてビームにすると……?

 試してみよう。


 昼間、外に出て剣を振り回す。


「死ね! クソ親父ーっ!! ティンダービームスラーッシュ!!」


 叫びながら剣を全力で振ったら、真っ赤に燃え上がる半円型のビームが出た。

 そいつはガンガン突き進み、途中にあった細い樹を切断し、舞い散った葉っぱを燃え上がらせ、先の地面に着弾した。

 地面が真っ黒に焦げている。


「す……すごーい!! 初級魔法と、見様見真似の剣術だよ? それだけでこんな凄いことになるなんて……!! お姉さん、ラッキーだったなあ! 君なら……君ならいけるかもしれない! 君はすっごいスペシャルなんだよ、オービター!!」


 ハイテンションになったエレジアが、俺に抱きついてぴょんぴょん飛び跳ねた。

 うおーっ!

 好きな女子の顔と体がこんなに密着してくるとは!!


 ありがとう、ありがとうビーム!!

 ビームがもつ可能性が、目の前に広がっている。

 これはワクワクしてくるじゃないか!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る