第3話 解析強化:スキル

「肉スープ一丁!」


「はい肉スープねー!」


「こちらさん肉挟みパンとキャベツ漬けと……おいおい昼からエールかよいい身分だなあ!」


「おいこら新入り! てめえの感想は聞いてねえ! 配膳しろ配膳!」


「へい!」


 俺は今、働いていた。

 ここは町の食道。

 料理に関するスキルの無い俺は、ウエイターだ。


「エレジアちゃん、こっちこっち!」


「はーいー。ご注文はー」


「ええとねー」


「きゃっ、太もも触らないでよー」


 なんだあのおっさん、魔女さんの太もも触ったのか殺すぞ!?

 昨日、俺は彼女、魔女のエレジアと出会った。


 そして当分生きていくための場所として、この店を紹介されたのだ。

 なるほど、ここで日銭を稼げば暮らしていけそうだ。


 すれ違いざまに、エレジアが俺に囁く。


「午後休憩になったら、君のスキルについて調べてみよう。どんなスキルなのか、今からワクワクするねえ!」


「ええ! マンツーマンで可愛いお姉さんに色々教えてもらえるのワクワクします!!」


「おいこら新入り! エレジアとだべってんじゃねえ!!」


「へい!」


 店のオヤジさんこええー。

 髭面のドワーフみたいなオヤジだ。


 だが、俺をすぐに雇ってくれた辺りいい人だな。


 そして、時間は昼を過ぎて休憩時間。

 店は昼と夜に営業している。


 賄いを食った後、二人で肩を並べて座る店の裏。


「話を聞いてみると、君のスキルってかなり特殊みたい。つまりね、それ単体だと機能しないっていうか。君が強い感情を持って、視線とか声を乗せたら、それが武器になったっていうか」


「それが、スキル・ビーム?」


「たぶんね。ねえオービター。この石を持ってみて。それで、向こうに一番憎たらしいヤツがいると思って投げてみてよ」


 エレジアが俺に、その辺の小石を握らせた。

 手のひらに彼女のぬくもりが伝わってきて、大変気持ちいい。


 俺はニヤニヤした。

 こんな可愛い女の子は、村にはいなかった。

 まあ、アセリナはそこそこ可愛かったが、幼馴染で兄妹みたいなもんだからな。


「オービター! 集中! ほら、憎いヤツを思い浮かべる!」


「憎い奴……憎い、憎い……」


 ほわほわっと思い浮かぶのは、俺を追い出した親父の顔だ。

 村長であるてめえの立場を守るために、不明スキル持ちの俺を追い出しやがった。

 しかも、フォークを持った村人をけしかけて。


「あのクソ親父!! 今度会ったら顔面に穴を開けてやる!!」


 俺は吠える。

 そして、怒りに任せて石を放り投げた。

 その瞬間、腕にビリビリと痺れが走った。


 痺れは腕から手に、指に、そして石へと伝わった。

 すると、投げたはずの石が急に消えた。


 石を投げたところから真っ白な光が生まれて、それが一直線に伸びていく。

 その先には町を覆う壁があった。

 光は壁にぶち当たり、それを貫いた。


 少ししてから、音が聞こえてきた。

 じびびびび、とか言う空気を焼き焦がす音だ。ついでに焦げ臭いし、貫かれた壁も焦げててやっぱり焦げ臭い。

 もう、光がどこまで行ったか分からなかった。


「な……なんだあれ」


「あれがビームだよ。君のスキルの力。君が真っ直ぐ指し示すものを、貫く力。目線、声、指先、投げた石。他にも魔法を覚えたら、それもビームになるのかな。お姉さん、興味が出てきちゃった」


 エレジアが立ち上がり、俺の手を握ってくる。

 あっ、近い近い、嬉しい。


 彼女は魔女。

 魔女というのは、世界の敵。

 そう教え聞かされて育ってきた。


 魔女は、世界の殻を割り、世界の底に沈む悪を育てる存在なんだと。

 だから、すぐに魔女狩りに伝えなければいけない。


 魔女は恐ろしいものだ。

 ……という幼い頃の教えだが……。


 こんなに可愛いのに、恐ろしい魔女であるなんてことがあるのだろうか?

 そもそも、俺だって不明スキルの持ち主ということで、村を追い出された存在だ。


 村で習い覚えたモラルなんか、嘘っぱちだと捨ててしまってもいいんじゃないかと思える。


「いや! むしろ積極的に捨てよう! 俺は今、この村で生まれ変わるんだ! エレジア、俺に魔法を教えてくれ」


「もちろん、喜んで! 君がとっても素直で、お姉さん、嬉しいなあ」


 エレジアがニコニコする。


「お店のオヤジさんも、もとは傭兵なんだって。オービターは体を動かす方も得意でしょう? 暇を見て、オヤジさんに教えてくれるように頼んであげるね」


「ありがとう!! 何から何までありがとう!」


 世の中、捨てたものじゃない。

 村を追放されてどん底かと思ったら、その後にはちゃんといいことがあるものだ。


「だけど、スキルが無いのに魔法や体術とかって覚えられるのか?」


 ふと疑問を感じる。

 村では、スキルがなければそういうものは身につかないと言われていたが。


「それはね。魔法や体術は、努力で身につく技術なの。スキルは才能。努力ではどうにもならない次元の能力。農業スキルがあれば、スキルがない人よりもずっとたくさんの作物を実らせられるわ。魔法スキルがあれば、それがない人よりもずっと難しい魔法を自在に扱えるようになる。体術のスキルがあれば、人間離れした動きだってできるようになる。でも、その基礎になることができないわけじゃないの」


「え、つまり?」


「頑張ればできるってこと! 君の場合、できる事が増えたほうが良さそうなスキルだし。色々やっといて損はないでしょ!」


 なーるほど、分かりやすい!

 俺は積極的に、スキル:ビームのことを調べ、伸ばしていくことに決めるのだった。


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