第2話 接近遭遇:魔女

 しばらくムカムカしていたが、それで何かが解決するわけでもない。


「せっかく村から出ることができたんだ。俺はもう、あんなチンケな村なんか関係ない。都会に行ってビッグになってやる。持っているスキルに関係なく、俺が活躍できる場所があるはずだ」


 俺はそう、気持ちを切り替えた。

 魔王スキルに目覚めた幼馴染、アセリナのことは気にかかるが……。

 きっともう会うことも無いだろう。


 村の外は、危険な場所だ。

 どこにモンスターが潜んでいるかも分からない。

 夜になれば、街道にだってモンスターが現れる。


 俺はできるだけ日が高いうちに、近くの町にたどり着かなければならなかった。


 成人の儀式が昼に行われていて助かったな。

 もっとも、俺が不明スキルなど持っていなくて、追い出されなければ一番良かったのだが。


「なんだよ、ビームって。意味が分からん」


 街道を小走りで進みながらブツクサ言う。


「つうか、最後に村のあいつの顔に穴が空いたの何だったんだ? 俺の目線が何かになったのか? ビームってのは、目線がどうにかなることなのかよ? わけわかんねえ」


 途中で喉が乾き、小腹も減ったので、木苺などを取って食った。

 村長の息子とは言え、三男ともなれば立場は微妙だ。


 分け与えられる土地もなければ、家が嫁を世話してくれるなんてこともない。

 教育だって二人の兄と比べたら適当で、読み書きが辛うじてできるくらい。


 そのぶん、俺にはたっぷり時間があった。

 村の外を駆け回り、食える植物と食えない植物を体で理解した。

 生水の腹を壊さない飲み方だって知っている。


 兄貴たちは外に出ればすぐに野垂れ死ぬだろう。

 だが、俺は生き残れる。


「そんな生存能力がある俺を追い出すとは。クソ親父め」


 イライラしてきた。

 木苺を貪り食う。

 すると、手と口の周りが真っ赤になった。


 その時だ。

 木苺の中にヘビが潜んでいた。

 

 そいつは牙を剥くと、俺に向かって襲いかかってくる。


「うわあーっ!?」


 俺は驚き、悲鳴をあげてしまっていた。

 すると、なぜか俺の声が広がらない。


 音が周囲に響き渡らず、一方向に集中して放たれるような……声が、まるで一本の線のように収束して……。


 シュンッ!


 何かが通り過ぎた。

 俺に飛び掛かってこようとしていたヘビが、横一直線にスライスされる。

 ヘビの後ろにあった木苺の木も、切断されて崩れていった。


 地面に落ちてのたうち回るヘビ。

 すぐに動かなくなる。


「な、な、なんだ……!? なんだこりゃあああ!?」


 今度はちゃんと声が出た。

 今のは何だったんだ!?

 あれがまさか、ビームってヤツなのか?


 視線じゃなくて声?

 ビーム?

 一体なんなんだ。全く意味がわからない。


 やっぱりこいつは、危険な不明スキルなのかも知れない。




 どうにか、夜になった辺りで町にたどり着いた。

 門が閉まるギリギリのところで助かった。


 門番は俺の顔を覚えていて、中に入れてくれた。


「オービターじゃねえか。どうしたんだ」


「へへへ、ちょっと村を追い出されてしまって」


「またイタズラでもしたのか。外は危ないからな。中で一晩過ごしていけ」


「ありがとう!」


 こうして、どうにか人里に入ることができた。

 適当な物陰で寝ることにする。


 今の俺は一文無しだ。

 物取りにあっても、失うものなんて何もない。


 ごろりと草むらで横になると、星空が見えた。


「おー、気持ちいいくらい星がよく見える……。そういや、空を見上げて寝転ぶなんてことはなかったなあ」


 せっかくなので、眠くなるまでの間、星の数でも数えることにした。

 星空は、一年中その姿を変えない。

 いつも同じ形で、星は並んでいる。


 だから、暇人は星の数をなんとなく覚えているものだ。


「ええと、牡牛の星から数えてみるか。まずはあの赤い星……」


 星を指差すと、指先から赤い光が出た。


「うおわっ」


 驚いた。

 一気に眠気が飛んでしまった。


「なんだなんだ! またスキルの暴走か!? あ、いや、今のところは何も被害は出てないな……よし、よし……」


 俺は胸を撫で下ろす。

 このビームとかいうスキル、本当に勘弁して欲しい。

 一体何なのだ。


「あ、変な光が見えたと思ったら! いたいた!」


 声がする。

 俺は警戒して身構える。


 俺が放った光を目指してやって来たのか?


「誰だ!?」


「へえ、君があの光を出したの?」


 現れたのは、銀髪の女だった。

 俺よりちょっと背が低く、真っ白な肌に印象的な紫色の瞳をしている。


 草の色をした旅装姿で、二の腕がむき出しだった。

 そこに、小鳥を止まらせている。


「君、あれってスキルでしょ。見たことがないスキルだった。もしかしてユニークスキル?」


「あ、ああ」


 警戒しながら彼女の顔をまじまじと見る。

 そこで俺はハッとした。


 こ、こいつ……めっちゃくちゃ可愛いじゃん!!


「ユニークスキルなのに町中で野宿……ふむ、ふむふむ、お姉さん、色々と分かっちゃったぞ」


「分かっちゃったのか」


 小首を傾げる仕草をしてくる。

 これは可愛い。


「ずばり、君は不明スキルの持ち主でしょ。おおよそ、村を追い出されたところ?」


「な、なぜそれを!!」


「ふっふっふーなぜ分かったのかと言うとー」


 彼女はいたずらっぽく笑った。

 可愛い。


「それは私が、魔女だからです」


「魔女!?」


 これが、俺と魔女エレジアとの出会いだった。


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