第3話 ヨツ様はバカだから…
スラム街に行った私は、テンプレートのように、暴漢に襲われる。
それを助けてくれたのが、ヨツ様だ。
「大丈夫かい?」
「(なんて可愛い人なんだ)」
私に手を伸ばしながら、ヨツ様が声をかけてくれるのだが、その時、私にはヨツ様の声が、二重に聞こえた。
私は不思議に思いながらも、差し出された手を、掴もうとする。
「(手袋越しとは言え、温もりが伝わってきたらどうしよう?)」
ヨツ様は私の正面にいて、私は、ヨツ様のお顔をしっかりと、見る事が出来ていた。ヨツ様のお口は動いていない。
—— この人、言っている? ことが、チョット気持ち悪い。
私は手を引っ込めた。
ヨツ様が不思議そうな顔をする。
貴族と庶民の垣根が取り払われたと言っても、人々の意識の中に、家柄の差は根強く残っている。貴族が差し出した手を、庶民の私が無碍にするのは恐れ多く、千万に…いや、
私はヨツ様の手に手を重ねた。
その瞬間に強制的に胸が高鳴った。
きっと、この瞬間に私は
いま思えば、ヨツ様の胸のドキドキが、触れた手を介して 私に伝わって来たのだろうけれど、私は自分が恋に落ちたと思った。
いや、落ちたのだ。
ヨツ様以外の人の心の声を、こんなにしっかりと、聞くことはできない。
もしかしたら、ヨツ様がサトラ◯。
——確か、2000年〜2005年、もしくは2006年の間に佐藤様が研究された、……詳しくは忘れたけど、「先天性R型脳梁…なんとか」と呼ばれる、その病気の可能性もある。
しかし、それならそれで、私は許せない。
ヨツ様の想いを独り占めしたい。他の人に聞かせたくない。
一人きり、ヨツ様の影響を受けない時でも、私はそう想った。
ヨツ様にハマった私は、谷緋路家で働く事を決め、募っているかどうかも分からないのに、谷緋路家の門を叩いたのだ。
—— 懐かしい。
つい最近の出来事に、そんな感慨を覚えてしまう。
晴れて ヨツ様の教育係になった私は、今日も元気に授業を始める。
「では、今日の講義を行いますね」
教育をするようになってから分かったが、ヨツ様は絶対に「先天性R型脳梁なんとか」では無い。
目を見張るほどバカだ。確か「先天性R型脳梁なんとか」は、国益になるほどの天才であったはずだ。
「(あぁ、きょうもイリヤは可愛いな。あの小さい頭をナデナデしたい)」
講義を行うと言っているのに、そんな事を思っている人が、国益になるほどの天才とは思えない。
言っている内容は、少し気持ち悪いのだが、ヨツ様のウキウキやドキドキなども、私には伝わってくる。
優しくて、温かい。
私には、他の人の心の温度や手触りのようなモノも、感じる事が出来てしまう。
それは、心に衣服を着せられているような感覚だ。
大勢の人々の中には、着心地の悪い言葉を着させて来る人もいる。
私は、自分で、その感覚をOffにする事が出来ない。
ヨツ様から伝わる想いは着心地が良い。
私は、ヨツ様に想われるたびに、誰かに想われるている事の喜びを知る。
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