第2話 超聴覚系だと知る前に

 自分が啓示保持者であることを知った私は、証明書を携えて、谷緋路やひろ家の門を叩いた。

 最近は 家柄証明と、啓示保持者の証明があれば、大抵のところは雇ってくれるけれど、旦那様は特に優しい対応で、私をもてなし。二、三質問をしただけで、すぐに召抱えてくれた。

 庶民の私にあんなに丁寧な対応してくれる人は珍しい。


「じゃぁ、この日からお願いできるかい? ハウスキーピングも頼むかも知れないが、キミには、おもに、愚息の教育をお願いしたいい。嫌になったら、すぐに申し出てくれ。その時は他の事をお願いすると思う」


 旦那様は困った、けれどもダンディーな笑顔で、こう付け足した。


「アレは本当にバカでね。 すまないが頼むよ」


 そう言って給仕長らしき人と、忙しげに出て行く。



 やっと、あの人に会える。

 谷緋路ヨツ。彼に会ったのは一週間前くらい。その頃、私は路頭に迷っていた。

 経済的には、職が見つからなくても、2〜3ヶ月の余地はあったが、とにかく今後、どう言う展開にすれば良いのか分からなかった。と言う意味で、路頭に迷っていた。


 それまでは、母の営む飲み屋で働いていたが、母は男のところへ行ってしまい。まだ支払いの残っているお店が、私に母が与えてくれた、最初で最後のプレゼントになった。


 少しだけ重い話になるので、私も、ヨツ様のように◇を置いておこう。この◇は魔法の一種だ。次の◇まで一気にスクロールして大丈夫。いわばテレポートのような物だ。



 残されたお店を、私はすぐに売りに出した。母と一緒に働いてはいたが、私にはお店を切り盛りする才覚はない。


 幸いお店はすぐに売れた。売れたが、支払いは残り、私はその支払いと自分が食べていく分とを稼がねばならない。

 自分で言うのもなんだけど、私はそこそこ器用な方だ。何をやってもボチボチはこなせてしまう。でも、何をやってものめり込める物がなかった。


 貯金が底をついたら、体を売ろうかとも考えた。私は自分にさえ のめり込めない質なのだ。

 ただ、労働の対価として考えた時に、好みでは無い男に触れられて、それで見合うのかと考えると 疑問が残る。

 果たして、好きでも無い男に まさぐられて、感じられるものなのか。


 私はうぶではない。母の飲み屋の手伝いをしていたおかげで、臆面もなく足のあいだ、破裂しそうな下心をパンパンに腫らしながら、話しかけてくる男たちの あしらい方は知っていた。


(好みの男を選べるなら、アリかも知れない。とにかく、それは最終手段だ)


 私は他の職を探しに行くことにした。



 正式な職業斡旋所は、都市部にある。

 久しぶりなので、忘れてしまったが、元は貴族たちの居住地域に建てられていた。

 内部はいつも清潔であり、静かであり、来訪者は、余裕を持って、未来を見据えてやって来る者が多く、私のように切羽詰まって来ている人は少ないように見える。


(ここは手続きが煩雑で、結果が出るのが遅い。)

 

 私は、一応の手続きは済ませたが、


「じゃあ、あの扉を入った所で、銀縁のメガネのお医者さんから、検査を受ける予約を取ってください」


 受け付けの女性は、通路の奥の方に見える、銀色の扉をペンで差し示した。


(まだ、検査があるのか。しかも、予約だなんて)


 時間が無い。貯金も多くは無い。

 私は予約を取りながら、スラム街の非合法な斡旋所に行くことを決めた。



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