第7話 のんびりやるけどやる事はやっとく。

「怪人のテストは出来たけど、方向性決めないと駄目だな。」


日曜日。最初の怪人をけしかけてから数日。

風斗はレポートを区切りがいい所まで進めると唐突にベッドでくつろいでいたカナリアに話題を振った。


「方向性、と言いますと?」


「まず怪人制作と俺が変身しての戦闘は問題ないだろ?」


「まあ私のパワーで変身する以上時間は制限されますけどね。」


「ああ。だから怪人の量産化と、エネルギーを集める怪人が欲しい。」


はっきり言って行動を極力しないことでジョーカー化してるだけでアルケーアニマ、アトリエテンペストと比較した場合、風斗とカナリアは最低戦力と言えた。


「と、いう訳でカナリア。早速指令を言い渡す。」


「はい!何なりとお申し付けください!」


カナリアは居住まいを正し、風斗からの指令を聞く。


「……ブラスト様それマジで言ってます?」


「こうでもしないと上物の素材なんて手に入んないよ。

俺はホームセンターとか中古屋で今週の怪人の素材探してくる。」


嫌な顔しながらカナリアは本当に渋々と言った感じで家を後にした。

風斗は財布をポケットに捻じ込むと、大きめのエコバッグを携えて中古屋に向かった。


そしてそれぞれの目当ての物を見つけ出し確保した後基地に集まる。


「お疲れ。辛いこと任せたな。」


「いえ…けど、なんで保健所から犬の死体持ってこいなんて?」


そう言ってカナリアは黒いビニール袋の中から三匹の犬の死体を取り出した。

因みにそれぞれ毛色も犬種もバラバラである。


「犬は忠誠心高いからだ。

これから俺に代って戦って貰う幹部ポジにしようと思ってな。」


「なるほど。裏切らない味方が欲しくて。という訳ですか。」


「その通り。じゃ、始めよう。怪人製造機は?」


「いつでもオッケーです!」


風斗はガスマスクを装着し、


「犬の死体…この犬種は、ミニチュアダックスかな?

それからこのSPAS12のエアガンに俺の爪と血液。」


「あの、エアガンは分かるんですけど爪と血はなんで?」


「人間の要素遭った方が強いかなーって。」


その三つの上に薬品をかけて蓋を閉める。


「それじゃあ頼む。」


「強さは『強め』。知能は『普通』。体格は勿論『人型』

基本命令は『カナリアとブラスト様に忠実』。こんなもんですかね?」


「残り三体もそんな感じで行くぞ。スイッチオン!」


焼き鳥怪人の時と同じように製造機の独特の作動音と排熱音が響く。

だが今回は前回と違いかなり音が長い。

それに機械の冷却もなかなか済まなかった。


「これはちょっと期待しちゃっていいのかな?」


「ですね!」


やっと排熱が終わると、製造機の蓋が勢い良く空き、ぴょこ!と可愛らしい垂れた犬耳が付いた健康的褐色肌の少年が現れた。

服は黒いカオスブラストのインナースーツに似た物を着ていて、背中にはショットガンを背負っている。


「飼い主ーーー!」


そしてこちらを見ると満面の笑みで走り寄って飛びつき、ガスマスクを奪い外すと、すりすりと熱烈な頬ずりをして来た。

視界の端で恐らく人間でいう尾骶骨の部分が変形して生えてると思しき尻尾がぶんぶん振られている。


「もう逃がさない!もうは慣れないぞ飼い主!

どれだけ離れても追っかけてやるんだからな!」


「はっはっはのっけから凄いのが来たな。

お前、自分の名前は分かるか?」


「名前って、俺にトランプって名前をくれたのは飼い主だろ?」


心底不思議そうに犬怪人、トランプは首を傾げた。


「いや、確認しただけだ。カナリア。

冷却材使って製造機冷やしてくれ。残りもさっさとやっちまおう。」


遊んで遊んで!と言わんばかりに尻尾をぶんぶん振って離れないトランプ撫でながらパッドを受け取り素材はカナリアに入れさせる。


「この子の犬種は、ラブラドール…子犬ですね。

ブラスト様の爪に血、それからこれはバタフライナイフ?」


「専門店で観賞用に売られてた奴だ。

まあまあお値段張ったし期待していいんじゃないか?

ラブラドールも狩猟犬だし。」


再び機会を起動する。


「飼い主!もっと近くで見に言っちゃダメ?」


「防護服無いから駄目だ。」


そんな事言いながら見ているとゆっくりと扉が開き、色白い肌の幼い少女が出て来た。

服は黒と緑に色が変わったアニマグランドと言った所か。

垂れ目でふわふわした耳が頭に付いていて、トランプと違い人間と同じ形の耳はないらしい。


「むっ~~~~………」


「なんか今度の奴は機嫌悪そうだな。」


「おーい!どうしたんだ?お前もこっち来いよ!」


「ふんっ!一回捨てておいて今更都合がいいんですよ!」


少女はぷいっ!とそっぽを向く。

そういうパターンかぁ…と風斗は頭をかいた。

こちらを捨てた飼い主と認識するのはたぶん一緒に入れた爪と血のせいだろうが、この場合はどうなるんだろう?


「トランプ、ちょっと離れて。」


トランプをおろして風斗は装置から出てこない彼女の元に行き、


「お前名前は?」


「……ココ。」


「付けたのは?」


「……アンタ。」


「俺のこと嫌い?」


「嫌い!大嫌い!」


「じゃあなんで俺が付けた名前捨ててないんだ?」


「!!?」


目に見えてあたふたと狼狽出すココ。

そして何やらもごもごと口籠もった後…


「今度は、捨てないんでしょうね?」


「ああ。もちろん。」


素直じゃないながらも取り合えず問題は無さそうだ。


「よーし、最後いこっか。」


「この子は…老犬ですね。柴犬かな?

それから混ぜる武器は…カランビットナイフ?」


「それからこの『シラット』の教本もな。

これも入れればそのナイフを使いこなせるはずだ。」


「なんでこんなバラバラの武器を?」


「アニマの奴らに合わせてな。

トランプはシャインに、ココはグランドに。

最後にそいつはリキッドに。ってね。」


それを聞いて納得したカナリアは装置を作動させた。

先の2人と同じような動作を挟んで、まだ湯気の上がる装置の中から見た感じ風斗と同い年ぐらいの姿をした背の高い美人が出て来た。

ピンと経った犬耳に肌色は標準的日本人って感じだ。

長いストレートヘアの茶髪をなびかせながら風斗の元まで行くと跪き


「主人、このサキになんなりとご命令を。」


「このカオスブラストの先兵としてアルケーアニマを倒し、

やつらを操る者を引きずり出せ。」


はっ!と凛とした返事をするサキに風斗は悪役らしい笑みを浮かべた。

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