第2話 今日からここが秘密基地です

「よし、じゃ思い立ったが吉日だ。

早速聖剣でも川に捨ててくる。」


「いやちょちょちょちょっと!ちょっと待って待ってよブラスト様!」


そう言ってさっさと近所の河原に行こうとする風斗をカナリアは一生懸命滞空しながら嘴で襟をつかんで止めた。


「なんでだよ?もうやめるんだから要らないだろ?」


「いやブラスト様には要らなくても私は困るから!

私は新しいアニマブラストを探さなきゃいけなくなるから!!」


「お前もやめればいいだろ?

あ、良いこと思いついた。これ退職金ってことで貰って質屋に持ってこうぜ?」


「お金にしようとしないでください!

いくら辞めるからって今まで戦場で命を預けて来た聖具を天下の回り物に変えないでください!」


辞めたがってるくせに意外と手ごわい。

これは少し変化球が必要だなと思い、風斗は手法を変えた。


「なあカナリア。俺はお袋の田舎に帰ると小遣い稼ぎで草むしりとか手伝うんだよ。

だいたい一回500円ぐらいってとこかな?」


「は、はぁ?」


「けどお前はさ。罪のない青少年や純粋な曇りなき眼の少女を命懸けの戦場に引きづりだしてそれをただ力だけ渡して見てるしかないなんて状況ざるの仕事を強要されていくらもらえた?」


「…人間基準で、人よりはいいかな?程度の年俸……。」


「想像より世知辛いな。」


「し、仕方ないんですよ!所詮人間で言う所の下っ端公務員程度の扱い何ですから!」


「ふーむ、じゃあ給料に関してはまだお前に階級が低いだけだとしよう。

じゃあ待遇は?お前の上司はそんなお前を気遣ってくれたか?」


「…さっき言ったボーナスカットの理由は、『私は魔法少女の百合百合三角ハーレムが見たいのに穢れた男なんか引き込みやがって』って理由です…。」


「おいそれ俺の事もめちゃ糞ディスってるじゃねえか!


「そうなんですよ!挙句の果てに『魔法少女物に男なんか出さなくていい!男見たけりゃBL誌でも読んでろ!』とかぬかしやがったんですよ!ありえない!ありえませんよ!魔法少女だってBLを題材に扱うことぐらいありますよ!」


「伝説のあの漫画とかな。俺も好きだよ。」


「ですよね!それなのにあの糞女言う事欠いて今時日曜朝の魔法少女物だって男の娘魔法少女出すぐらいなのに時代遅れも甚だしいんだよ!」


「そうだカナリア!その勢いで辞表でも叩きつけたやれ!

そして出来る最大限の嫌がらせをしてやれ!」


「ええ!ええそうです!ブラスト様!

私、目覚めちゃいました!チェーンジ!ヒューマノイドモード!」


カナリアは光を放ちながら宙返りを撃つ。


「うわ眩し!なんだ突然!?」


光が晴れるとそこにはカナリアの羽色と同じ若草色の長い髪の貫頭衣姿の幼女がいた。


「えっと、まさかお前カナリアなのか?」


「はい!ブラスト様のカナリアです!

あの糞アマにメルヘン薄れるからずっとマスコットのままでいろって言われてましたけど、いい加減エネルギー消費馬鹿になんないし、疲れるんで辞めました!」


「そ、そうか。そっちのスタイルも可愛いじゃん。」


「えへへーそうですか?」


と、顔を赤くして照れくさそうに頬をかく。


「んっん!とにかく新生カナリア!

聖神にストライキという反旗を翻します!」


なんだか急にやる気というかその気になったカナリアはほっといたら『アトリエテンペスト』とかに雇ってくれとか言いに突っ込んで行きそうだ。


「まあ、なんかよく分からないけど、元気なったんならよかった!

じゃあ俺はこれで…」


「ともに参りましょうブラスト様!

無茶ぶりと公私混同の理由で冷遇してくれた聖神にも!

変な暴れ方して事後処理面倒にしてさんざん残業代出ない残業増やしてくれたアトリエテンペストにも!」


俺も巻き込まれんのかよ!と風斗は心の中で叫んだ。

だがまあ、こいつが無茶やって死んでも目覚めが悪いなと思い


「そうだな…その2つ同時に相手するとなると、新しい悪の秘密結社でも作るか?」


「それは妙案です!なら善は急げで早速向かいましょう!」


「早速ってどこに?」


「基地を探しにです!」


カナリアの案内に従って歩いていく。

どんどん住宅地の少ないエリアに入って行き、夕陽が美しく見えるころになって寂れた町工場のような場所に着いた。


「ここは?」


「前から他の悪の組織が新しく基地にするんならここだろうと思ってマークしてたんです!」


「それ上には?」


「報告してません。他の報告やら始末書が多すぎて…。」


「そっか…。」


少し切なく思いながらも俺は聖剣を一応取り出しておく。

カナリアを寄せて周りに風を発生させて門を飛び越える。

変身してなくても残留する力でこれぐらいは出来るのだ。

事務所と思われる場所に向かうと怒号が聞こえて来た。


「だから何度も言ってるでしょ!

僕は相続を放棄したから生前もらったここ以外なんもないって!」


「うるせえ!お前以外の兄弟皆逃げたんだからお前が落とし前付けんのが当然だろうが!!」


細い眼鏡の兄ちゃんにガラの悪いスーツの男どもが詰め寄っていた


「あいつらは…」


「ブラスト様知ってるんですか?」


「ああ。この辺りで有名な地上げ屋だよ。

前に『アトリエテンペスト』の潜伏先地上げようとして返り討ちにあってんの助けたこと有る。」


確かそん時も俺やあの3人の仕事を増やすだけ増やしてくれたなと、風斗はだんだん怒りを思い出してきた。

ここは1つ悪役デビューとしてボッコボコにしてやろうと思い


「カナリア、お前思いっきり裏切ってるけど神サマからのあれ打ち切られてたりする?」


「裏切りばれると面倒なんで私の方から切ってます。

だからブラスト様が変身するとすれば私からの力だけで変身することになります。」


「何回ぐらい行けそう?」


「私が妖精形態にならないんなら1日1回ってとこですかね?」


「そっか。今回は?」


「思い切り行けますよ!」


「なら行かせてもらう!

聖具開放!エレメントアップ!」


聖剣を振り上げてから逆手に持って地面に下す。

いつもの白く丸い魔法陣と違い、黒紫の鋭角的な陣が展開され、鎧が装着される。


シルエットは肩に尖ったパーツが付いたぐらいで変わらんが、色は白かった部分が黒くなり、ラインの緑は血管の様に枝分かれしている。


「へー。こういう感じになんのね。」


「ええ!聖剣は本来私を経由して聖神が送るパワーで起動することで変身が完了しますが、今回は私からだけのパワーで無理やり動かしてるので、起動しますけどエネルギーは安定しないから黒くなるんです。」


「如何にも悪役って感じだな。」


暗黒騎士に変身した風斗は男たちの前に躍り出る。


「ああ?テメェ何もんだ!」


「ちょっくらここを秘密基地にレンタルしに来た悪党だよ!」


「何抜かしとんじゃワレ!」


「あんまなめた口聞きいてると弾くぞ!」


風斗は指で挑発する。

男たちのリーダー格が拳銃を取り出し、引き金を引いた。

放たれた弾丸は風斗の眉間の30㎝ほど手前で軌道がおかしくなった。

グルグルと風斗の周りを回り出したのだ。


「な!?」


「人を撃つのに躊躇わないのは良いね。

けどこんなちんけな地上げが生業ってんじゃ失格だね。」


「な、何の話を!?」


「お前らが小悪党って話だよ!」


風斗は自身の周りに発生させた風で捕まえていた弾丸を撃ち返す。

後ろに控えていた若いのの足を撃ち抜いた。


「それに脅すんならさ、こんぐらいしようぜ!」


スパン!と絶妙な切れ味の聖剣で銃ごと腕を縦に真っ二つにする。

火薬が炸裂したせいで無理やり切れた腕を無理やり裂かれたような形になった。


「ぎゃああああああああーーーーーーーーッ!!!」


「あ、兄貴ぃいいい!」


「ほら尻尾巻いてママに慰めて貰いに帰れよ。

そしたら今日は見逃してやる。」


色々通り越して失禁しながら気絶してしまったリーダー格を連れて地上げ屋どもは去って行った。


「お疲れ様ですブラスト様。」


「おう、さてあんちゃん。」


風斗は変身を解除して黒くなったままの聖剣をカナリアに預ける。


「月100万円でここ貸してくれない?

怪人作ったりするのに使いたいんだよ。」

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