魔導騎士「前略、暗黒騎士に転職しました。」
@isemura
第1話 これが転職理由です
「キャンバー!」
「キャンキャンバー!」
多くの学校が下校時刻になり、帰宅中の生徒や夕飯の買いものに向かう主婦でにぎわうはずの駅前に異形の集団がいた。
黒に無茶苦茶に人工色のインクをぶちまけた全身タイツのような怪人『キャンバス』と、それを指揮する赤いレオタードにプレートアーマーを合わせたような煽情的な衣装の妙年のベレー帽の出るとこ出て引っ込むとこ引っ込んだ妖艶な美女が破壊を繰り返しながら歩いている。
今この街を悪い意味でにぎわせている悪の秘密結社『スタジオテンペスト』の怪人たちだ。
「出たな悪党!」
我が物顔で行進していた彼女らの足元に無数の青い簪が刺さる。
「来たわね!アルケーアニマ!」
待ってましたとばかりにレオタード鎧の女『カーマイン』は彫刻刀型の短刀を構える。
キャンバスたちもデザインナイフ形のブレードを取り出す。
完全に戦闘態勢の怪人たちの前にアニメの中から飛び出してきたような華やかな3人の少女が降り立つ。
「命を育てる恵の大地!アニマグランド!」
黄色い短髪のボーイッシュなキュロットスカートの少女が左手の手甲を右の親指で弾きながら名乗る。
「命を巡らす清流の舞!アニマリキッド!」
ドレスと着物を混ぜたような衣装の長い青髪の恐らく最年長の少女が鉄扇を広げて優美に一礼する。
「い、命を芽吹かす励みの陽光!アニマシャイン!」
一番背の低い可愛らしい如何にも魔法少女と言った感じのピンク髪の少女が名乗りをあげ、揃いのポーズを取り
「「「マジカルスクワット!アルケーアニマ!参上!」」」
「やれ!」
名乗り終えた3人にカーマインがキャンパスたちをけしかける。
3人は事前に決めていたフォーメーション、グランド、リキッドが前に出て援護はシャインに任せる三角型に展開するが
「ブラストスラッシュ!」
キャンパス共は背後から飛んできた緑色のカマイタチに吹き飛ばされた。
「この太刀筋は!」
「遅いよパイセン!始めちゃってるよ?」
降り立った白にエメラルドグリーンのラインの鎧の騎士にグランドは馴れ馴れしく話しかけた。
「こらグランド!申し訳ありませんブラスト殿。
グランドには私からきつく言っておきますので!」
グランドを小突いたリキッドが深々と頭を下げる。
「なんでもいいからそこの公共良俗を考えてねえ痴女を倒すぞ!」
うんざりげに騎士は愛用の両刃の細い西洋剣をカーマインに向ける。
「おのれ凡夫の中の凡夫!本当に芸術を理解しない奴め!
まだそこの3人は妥協できるが貴様は駄目だアニマブラスト!」
癇癪を起して地団太を踏みながらカーマイン短刀を投げつけて来た。
それをシャインが戦杖から放った魔力弾で弾き落とした。
「やった!」
シャインが小さくガッツポーズをする。
彼女は近接はてんでダメで、気も小さくすぐに2人の陰に隠れてしまうような子だが、気遣いと援護射撃には光るものを持っていた。
「シャインやるう!またスナイプ記録更新だね!」
「ひゃあ!ほのかちゃ…じゃなかったグランド抱き着かないで!!」
「やだー!シャイン暖かくて柔らかいんだもん!」
「…コントやる余裕案なら俺帰っていい?」
「だ、駄目です!」
「すいませんブラスト殿。
うちのグランドが緊張感無くて本当に…」
「ええい!百合営業とはなんと美しいものを見せつけてくれる!
アルケーアニマ…恐るべし!それに引き換えブラスト貴様!
貴様はなんで美しさの欠片もないくせにそんなに強いんだ!
今まで一回も名乗ったことないくせに―!」
やっぱこいつ相手にすんの疲れると思いながらブラストは怠そうに剣を掲げて
「命を吹き込む清澄の風。アニマブラスト―(棒)。」
「ちっがああああああう!
そんなんでいいと思ってんのかぁあああ!」
切れ散らかしながらカーマインは短刀は逆手に持って突っ込んできた。
「いい加減学習しろよ。」
ブラストは剣を指揮棒の様に振るうと周囲から物理法則を無視してカーマインを宙に打ち上げる様に吹き込める。
アニマブラストの司る風のエレメントの力だ。
「おいしいとこはくれてやる。」
「パイセン太っ腹!シャイン強化お願い!」
「うん!シャインブレッシング!」
シャインのバフかけの魔法を受けたグランドとリキッドがそれぞれ手甲と鉄扇にエネルギーを貯める。
「グランドストライク!」
「リキッドダンス!」
グランドの衝撃の正面衝突とリキッドの波状エネルギー攻撃を受けたカーマインは捨て台詞らしき絶叫と共に街の外まで吹っ飛んでいった。
「はぁ……」
「よっしゃ楽勝!パイセン見てた!?
あれ?パイセンどっか行っちゃった。」
「また、ちゃんとお話しできなかった…。」
「大丈夫よシャイン。また次が有るわ。」
「麗那ちゃ…ああごめんリキッド!そうだよね。」
緊張が解けたのか、はたまた彼女たちの相方の妖精たちが力の供給を止めたのか、3人の服装は白にそれぞれのイメージカラーのアクセントが入ったモノから茶色のブレザー姿に変った。
髪の毛も黄色、青、赤だったのが茶色、黒、黒に戻る。
土浦ほのか、美波麗那、日宮祈里。
篠原学園中等部の生徒会3人組にしてアルケーアニマの正体。
そして…
「くそ!これでまたレポートの提出遅れたら労災申請してやる。」
路地裏で変身を解除して毒を吐くこの青年が魔導騎士アニマブラストの正体、篠原学園大学文学部国文学科在籍の緑川風斗。
バイトはしてない。彼女or彼氏いない歴とバイトor部活してない歴は年齢と一緒という絵にかいたような灰色の青春を望んで選んで送って来た青年である。
それが何の間違いか変な妖精に目を付けられてあれよあれよという間に剣道なんて今までかじった事も無いのに魔導騎士をやらされているのである。
(神サマが上司じゃ無かったらこんな割に合わねえボランティアさっさとやめてるっての!あーくそ。誰かに押し付けらんねえかな…。)
誰かに認められるわけでも金がもらえる訳でも、ましてやこの力で誰か殺したいと思えるような相手もいない。
はっきり言ってアニマブラストの力は風斗にとって有るだけ困るのにどこにも捨てれない厄介な荷物でしかなかった。
「よし決めた。辞めれる機会あったらさっさと辞めよ!」
口は災いの門。
日本にはそんな言葉が有る。
けどそれは風斗の場合どうやらそれは災いだけの話ではないらしい。
「う、ううぅうう!うわぁあああーーん!
ブラスト様ぁあああ!」
「おうカナリア。どうしたいつにも増して景気悪い面して。
ボーナスでもカットされたか?」
「いづブラスト様はデレバジー覚えだんでずかぁああ!」
ギャン泣きしながらやって来た相棒に軽いジョークのつもりで言った言葉が真実と知り、戸惑う風斗。
「う、ううぅうう!やめだい!
聖神様の使いなんて辞めたいよぉお!」
「じゃあやめちゃえば?」
「………え?ブラスト様今なんて?」
「だからさ、辞めちゃおうよ使い。
俺も一緒にアニマブラスト辞めるからさ。」
「え、ええ?ええええーーーーーーーッ!」
叫ぶカナリヤ。
風斗はばれない様に小さくガッツポーズした。
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