第3話 天道


「焼け付く日差しだけは元気だねぇ。それもまたよし!…静かでなければ、尚ね」


 背の高い神は、向日葵ひまわり畑の中でそう呟いた。

 自身の背丈と同じほどのひまわりは、耐えることの無い日差しに顔を向けている。



「過ぎたことは仕方がないね」



 少し悲しそうに俯き、向日葵ひまわりに背く。

 青々と繁る広葉樹と、高床に作られた白壁の家、ザァザァと波の音を響かせる青々とした海、その存在感で夏を体現する積乱雲。

 全てが夏のこの国で、神は1人になった。


 友はいる。だが会えることは少ない。


 元気にはしゃいでいた民衆は、笑顔を消して絶えていった。

 砂に変わるように、突然そこから消えていった。


 神は今でこそこうして気丈にいるが、その気丈さを見せる誰かも、ここにはもう居ない。


 砂に変わった民衆を抱き締めようとしても、砂は腕には残らない。



「あーあ。この家もあの家も…もうご飯が腐っちゃってるよ。しっし、ハエじゃまっ」



 朽ちかけた人家には、忽然と消えた人間の残した食べ物がドロドロと残っていた。

 今日はその掃除をする予定だ。


 灼熱のこの国は冷房の設備がかなり整っていたが、もうメンテナンスをする人間もいなくなった。その為に全てがダメになり、涼しさ等欠片もなく、食物は腐った。



「豊かだったのになあ」



 ボソリと呟いたところで、返事など帰ってくるわけが無い。

 そうだ、掃除が終わったら何をしよう?


 久しく会えていない友人にでも会いに行こうか。

 そう思い立った所で、神は片付けを再開した。

 鼻をつんざくような腐臭に耐えつつ、気絶しそうになりながら掃除をする。ダメだ、これは1人では無理だ。


 冬の国のアイツに頼みに行こう。冷気をくれ。



 予定を変更して、まずは冬の国へと赴くことにした。

 余り上空に上がると焼き殺されそうになるが、耐えればなんでもない。


 上空へのぼり、結界を超えて冬の国へと入るのだった。

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