第2話 桜皇
ひらひらと舞い散る桜が、道を桃色の絨毯にしている。
誰も踏み潰していく人間は居ない。そこに存在するのは、縁側に座り動かない神のみ。
茶をすすり、桜を見ながらただそこに居る。
「終わっちゃったぁ」
一言だけそう言うと、神はふわりと浮き上がって外に出る。
見せ掛けだけの動かない足は、浮いた時にはぶら下がるだけ。
「こんな足切っちゃえばよかった」
「そうしたら、まだみんなにご飯があげられたのに」
後悔ばかりが募る。少年で少女のような神は、自分の足を恨んだ。
最終的には飢餓で苦しみ死に絶えて行ったこの国の民。日々嫌だ嫌だと駄々をこねるように延命をしてきたその時間も労力も全てが無に帰した。
神が通る道の眼下に広がるのは、桜と、朽ちた木製の家屋達、落ちて割れた瓦の屋根、砕けた塀と、それらを自然に還そうとする色とりどりの花々。
「うらめしい…うらめしい…。どうして、どうしてこうなっちゃったの?」
恨みと、後悔と、寂しさと、虚無感だけが神を襲う。叶うのならもう一度民に会いたい。この国をまた賑やかにしたい。
この世界がこうなった原因も何もかも分からない。
突然人間が死に絶えて行った。
病原菌や、ウイルス…そういった類のものでも無ければ誰かが襲ってきた訳でもない。
パタリパタリと次々に居なくなって言った。
年齢の高いものから順に、最終的には幼子しか居なくなり飢餓で苦しみ、そして死に絶えていった。
他の国もきっとそうなのだろう。
「べに…てんど〜…ゆきじぃ…」
久しくあっていない友の名前を口にして、寂しくて悲しくて、神はその場に泣き伏せるのであった。
「あいたいよぅ…」
浮力がなくてこれ以上空へは上がれなく、結界を破る力もとうに失っていた神は会いに行くことさえ叶わない。
ただひたすら、桜に囲まれて泣き崩れるのであった。
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