終わったあとも君達と

春夏冬

序章

第1話 紅


「本当に、終わってしまったのぅ……」



 この国で1番背の高い、紅い鳥居の上は見晴らしが良い。

 紅の神はここで、誰もいなくなってしまった国を見下ろしていた。

 統治していた王も、日常を回していた国民も、店も、なにも無くなってしまった。

 あの笑顔で溢れ、時に涙を流し、激怒していたコロコロと顔を変える人間どもが築いてきた建物や土地は、今や紅葉の木に占領されている。



「……静かじゃのぅ……」



 賑わう声も、何も無い。

 聞こえるのは、風で擦れた木の葉の音だけ。


 木で出来た、黒い瓦屋根の家たちは、柱が朽ちて倒壊している。

 今、神が座っている鳥居だけが、この国の人工物の中で唯一朽ちて倒壊していない。


 神はその場で立ち上がり、鳥居から飛び降りた。

 ふわりと地面に降り立つと、纏っている煌びやかな着物の袖や裾がなびく。


 木の下に出来た紅葉の道は、目を瞑るほどの赤さだった。


 少しだけ涼しい風、サァサァと鳴る木の葉、ザクザクと音を立てる落ち葉たち。


 神は上を向いて歩く。



「本当に、暇になってしもうた。……争いなんぞ愚かな事をしたなあ人間ども……。主神を残して先に消えるなど、なんたる無礼な者共だ。……。寂しいではないか、のぅ……」



 神の隣で、最後に息を引き取った人間がいた。いや、彼は人間というよりは、神に近いなにかだった。


 彼は神が初めに作った男であり、女だ。その人間が、最後の最後に神の隣で息を引き取った。

 世界の始まりと終わりを象徴する人間だった。


 神は、既に骨になった彼の亡骸を抱えていた。鳥居の次に高い丘に着いて、穴を掘る。そこに男を埋めて、石を詰んだ。

 できるだけ大きく高く、華やかにして。



「安らかに眠っておくれ。……楽しかったぞ、騒がしい人間どもだったが、わしは満足じゃ」



 1人、丘の上で手を合わせる。


 しばらくそうしていたが立ち上がり、ふわりと浮き上がり、そのまま高く空の上へ飛んだ。


 空の上から見た自分の国は、一面の紅でとても美しかった。


 見上げれば広がる空は、雲ひとつない晴れ渡った青空だった。



「そうじゃ、他の国にも遊びに行ってみようかのぅ。この際、何もやることが無いんじゃし…」



 この世界にある、残りの3つの国へと赴くことを思いつき、神はそのまま上空にのぼっていった。

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