第17話 鎌鼬の繋がり

 日加は山伏に構えた。

 その傍ら、加夜が白露の傍にやって来る。


「白露兄ちゃん、足の裏見せて?」

「足? ああ」


 言われるがままに白露が足の裏を見せると。そこには、先ほどの薙刀で出来た深い傷が出来ていた。


「うわぁ、こんな状態で僕を助けてくれるなんて……任せて」


 加夜はそう言うと、スーツ横のポケットに手を入れる。そして、少しポケットに厚みが生まれたかと思うと、そこから、手のひらほどの平べったいビンが出てきた。

 先ほど、コップのゴミをしまっていたのが気になった事もあってか、白露はそれを見て驚く。


「ちょっと染みるよ」


 そう言い、加夜はビンを開けると、そこから白く粘性のある塗り薬を取り出し、白露の足に塗った。


「いつっ! ……!?」


 一瞬痛みが走るが、それがすぐに穏やかになる。

 白露が恐る恐る足の裏を見ると、傷のかさぶたは残っているものの、出血が止まっていた。


「傷が……。加夜、こんなことが出来たのか」

「うん。癒す術が使える人たちに比べると、効果もおざなりだけどね」


 加夜ははにかんだような笑顔を浮かべ、立ち上がる。白露もそれに合わせ、立ち上がり、山伏と向かい合っている二人と合流した。


「最近じゃ、鎌鼬かまいたちって生きてる人達もあまり言わなくなっちゃったけれどね? 昔っから、3人で一組だって言うの」


 加夜がぽつりと、白露に向かって呟く。

 そして、構えを取っている日加に合わせるように、まず加昼が手に鎌を持つ。そして、加夜が薬ビンを持ったまま、相手と向かい合った。


「連携していくぞ。白露は、山伏に変な動きさせないでくれ。遅れるなよ!!」

「「了解!!」」


 顔を引き締めた加昼と加夜が、日加の声に答え、3人が同時に山伏に立ち向かっていった。

 一番手に山伏の元に跳び込んだのは、日加だ。

 張り詰めた怒声と共に、この拳を山伏に対して殴りかかる。


「……」


 しかし、山伏はその攻撃を冷静に見据えると、日加の横へとするりと躱してしまう。それも、避けると同時に両腕を上に掲げ、薙刀を日加の背中に刺すように振り下ろす。


「!! 日加!」

「だーいじょうぶだああぁぁあっ!!」


 白露の声が、日加の腹から響く声に遮られる。

 薙刀は、そのまま勢いをつけ振り下ろされた。が、日加はそれに回避行動を取る事無く、その背に刃を受けた。


「!」


 山伏は、一瞬体を大きく軋ませた。

 薙刀は確かに日加の背に刺さった。しかし、その刃は内部の内蔵にまで届かず、筋肉の部分で止められてしまったのだ。

 それどころか、日加はそんな事さえ構わず。山伏へ振り向きながら、その横腹目掛けて、全力の拳を叩き込んだ。

 山伏は薙刀を日加の背に残し、宙を舞う。


「おっしゃぁっ!!」


 日加は飛んでいく山伏の後を追う。

 当の山伏は、空中で態勢を整え、地面に着地しようとする。

 しかし、その前に山伏の全身に影が落ちた。山伏が顔を上げて見れば、そこには肩を構えた日加の姿があった。


「ぶっ飛びやがれえぇぇっ!!」


 着地しようとしてた山伏のみぞおちへ、日加の全身を入れたショルダータックルが決まった。

 感情の無い山伏の口から、唾が噴出し、そのまま蝋燭を幾つか倒し、壁へと激突した。


「っとと!!」


 白露がその様子を見て慌てて姿を消す。次姿を見せた時には、地面に倒れた蝋燭の全ての火が消え、最後の一本の火を踏み終えたところだった。


「人の妖力で出来た火消すのは、いい気分がしないが……必ず助けるから、許してくれな……」


 白露は消しおえ火の消えた蝋燭に、ぽつりとつぶやく。


「しかし、なんだありゃ……。日加の奴、まるで性格が変わったみたいだぜ」


 白露は日加の背中を見てポツリと呟く。

 背中に刺さった薙刀を引き抜き、ガッツポーズをして罵声を叫ぶその姿は、礼儀正しいエージェントとは別人のようだった。今の姿はまさに、乱暴な喧嘩屋のようであった。


「「日加兄ちゃん!!」」


 加昼と加夜が、日加の方へと駆けていく。

 その距離は、日加とどんどん近づいていき。


「……ハハッ」


 日加がにやりと歯を見せると、両手を左右にそっと出し、すれ違う加昼と加夜とハイタッチをしてすれ違った。


「後は任せたぞ、お前ら」


 そう言って見送る日加を背に、加昼と加夜は、今起き上がろうとする山伏に跳び込んでいった。


「てやぁぁぁああ!!」


 地に付けたばかりの右腕を、加昼は鎌で斬る。

 腕から鮮烈な血が吹き、山伏は痛みからか、その手を滑らせ肩を地面に打ち付ける。

 しかし、それでも山伏は抵抗を止めない。残った左腕を懐に差し込むと、古びた紙に、難解な字を書きこんだお札らしい物を取り出す。そのまま、加昼目掛けて投げた。

 加昼は、鎌の切っ先にお札が迫るのを目にする。


「…斬らないよ!」


 切っ先に札が触れる前に、加昼はくるりと体を回し札を避ける。そのまま、回転のままに山伏の左腕を斬りつけた。

 左腕からも血が吹き、山伏は両腕から血を流し地に伏す。


「加夜!!」


 加昼が叫ぶ。加夜がそれと同時に、山伏の真上へと跳びあがった。


「底なしの塗り薬よ! 湧くのを止まず、吹き溢れたまえ!」


 その声を皮切りに、天井に向かって掲げた加夜の薬ビンから、真っ白な塗り薬が、ビンの体積以上に、大量に噴き出した。


「いけぇっ!!」


 薬ビンを下に向ける。大量の塗り薬が雪崩のように山伏に振りかかる。

 山伏は、足で立ち上がろうとしている最中であったが、あっという間に大量の塗り薬が全身に覆いかぶさり、地面に抑え込まれてしまった。


「っと」


 加夜は、塗り薬の上にぴょんっと着地し、そのまま床へと軽く跳び着地する。

 その背では、真っ白な塗り薬がトリモチのようになって、床から動けないでいる山伏の姿があった。


「抑え込めれたよ。一緒に、怪我も治せた」


 事実、動けずもがいている山伏の腕付近から、血が滲んでいる様子は無かった。


「……すげぇ」


 その一連の流れを見ていた白露は、思わず口からそう声が漏れた。

 また、肩で息をするように荒れた呼吸をしていた日加は。ふぅと深い息を吐き、姿勢を正しだす。


「よくやった、お前たち。敵の撃破、お疲れさま」


 そう言って、日加は優しい微笑みを持って加昼と加夜を見る。

 二人もまた、日加と白露に対し、グッジョブと親指を立てて微笑み返した。

 広い部屋の中に、4人の勝利の歓声が響く。

 しかし、声が大きく隠れてしまったが。その部屋の片隅、柱の近くでは、紙にペンを綴るような音が、静かに響いていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る