リーバー先輩の推理④

「ふう……。アンタ、思ったよりやるわね。ワタシの負けだわ。そう、ギンはワタシがったのよ」

 ついに、犯ぬいぐるみがきょうしたしゅんかんだった。どよめく、周囲のぬいぐるみたち。

「ミミ……。どうして、こんなことをしたんだ?」

 先輩の落ち着いた声が、マンションのリビングに響いた。

 すると、穏やかだったミミの目つきがみるみるとけわしくなっていき、茶色い毛で覆おおわれた体からほのおのように真っ赤なオーラがはげしくがったのである。

 さすがは古参ぬいぐるみのげん――その恐ろしさといったら!

 思わずボクが後ずさってしまうほどだった。

「アイツ――あの青いペンギンが、にんじんをバカにしたのよ。事もあろうに、ウサギのソウルフード、そしてワタシの大好物である赤いにんじんをねッ!」

 先輩が、これ以上ミミのかんじょうを燃え上がらせないよう、落ち着いた様子でたずねる。

「……で、ギンは何と言ったんだ?」

「今考えても、恐ろしいわ……。『にんじんなんて、ただの草だし、味も苦いし、食べ物じゃない』なんて言ったのよ。アンタたち、信じられる?」

「……」

(どちらかといえば、ギンの意見にさんせいだけどな……)

 表情から察するに、ボクをはじめミミ以外のぬいぐるみは皆、そう思ったらしかった。

 だが、とてもそのことを口にするほどの勇気があるぬいぐるみなど、ここにはいない。

「ま、まあ、わかった。ギンにも落ち度はあったんだな、多分……。だがな、ミミ」

 つぶらなひとみを鋭く光らせた先輩が、こう続けた。

「――それでも、ギンをあやめたつみは消えないぞ」

「ええ……それはわかってるわ」

 先輩の言葉に、ミミがなおにうなずく。

 それを見た一同のふんから、みるみる緊張がほぐれていくのがわかった。ほっとした表情をした先輩だったが、それもつかまどの外を見るとこう言った。

「ただ、今日はもう時間切れだ。もうすぐ夜が明ける。レオナちゃんのママさんが起き出してくる時間だし、あとのことは明日考えるとしよう」

「そうね。そうしましょう」

 メメが、先輩の意見に同意した。

 他のぬいぐるみにも、反対意見はないようだ。

「これは、急いだ方がよさそうッスね」

 部屋の中がもうずいぶんと明るくなっている。人間の言うくらやみの中でもモノが見えるボクたちにとって、朝の光はまぶしいくらいに明るいのだ。

 とりあえずボクたちは、さくばんレオナちゃんたちがたときに自分がいた位置にそれぞれ戻り、人間から見れば何事もなかったかのようなじょうたいにした。もちろん、動かなくなったギン以外ではあるけれど――。

 ほう使つかいでもないボクたちに、今の状態のギンはどうにもできない。


 それから数分がったころ――。

 目覚まし時計の音がして、おくの部屋からママさんが起き出してきた。

「ふああああ」

 毎朝恒こうれいの、ママさんの大あくび。

 いわば、ボクたちの〝昼間〟が終わりを告げる声である。

 ところが今日は、ここからがいつもと違っていた。なぜなら、次にママさんのさけごえが家じゅうに響いたからだ。

「きゃああ! どうしてペンギンのぬいぐるみがこんなところに落ちてるの? それにずぶぬれだし! どうして?」

 てんやわんやとなった、レオナちゃんたち家族。

 ボクたちは、体を動かさずにじっとしているのが大変だった。

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