リーバー先輩の推理③

「証拠……?」

 ボクに向かって、ゆうしゃくしゃくの顔を向けた、ミミ。

 口元はまるでいたずらっ子のようにふてぶてしい。


「その推理だと、ワタシがねんをいじっていたということだけが、『犯ぬいぐるみ』である理由になってるわよね。でも、粘土はこの部屋にいるぬいぐるみならだれでもさわれたのよ。ろんてきに、ワタシが犯人という証拠にはならないわ」

「さすがだな、ミミ。冷静だ。だが、ちゃんと証拠はある」

 それは、ミミにとって思いもよらない言葉だったのだろうか。ミミの顔から余裕のみが消え、じりがきりりとがったのである。

「では見せてちょーだいよ、その証拠とやらを。さあ、今すぐに!」

 声の調子まで荒くなったミミ。

 先輩は小さくうなずくとゆっくり歩き出し、ミミのなかに回り込んだ。

「証拠は……ミミのかたの後ろにある」

「えっ!?」

 ミミの動きがフリーズした。

 そんなウサギのぬいぐるみをよそに、ボクやメメ、そしてゆっくりとした動きでカメもミミのはいに集まる。

「これだ」

 柔やわらかそうな肉球を見せながら先輩が右前足で指さし示しめした場所――それはミミの肩の部分だった。そこに、はんとうめいの小さなうすまくのようなものが付着している。皆にそれをかくにんさせたうえで、先輩がその薄い物体を前足でつまみ上げた。

「これは、サンマのびれの一部だ。浴槽に浮かんでいたサンマの背びれが、欠けていたのを覚えているか? オレの推理では、おそらく、このはしはサンマの背びれの欠けた部分とぴったりといっするはずだ」

「なるほど……。風呂に浮ういていたサンマの背びれが体に付着しているのは、そのぬいぐるみがサンマを運んだ者――つまりは『殺ぬいぐるみ犯』である証拠だということなのね。事件のあと、リーバーとコーハイ以外はげんに足を踏み入れてはいなかったわけだし――」

 ひたすら感心する、ヒツジのメメ。

 ボクたちの視線がミミの後ろ姿すがたに集中した。


 たん、ミミの体のこうちょくけたようだった。ゆっくりとした動きで反転して、こちらを向いた。なぜか、そのひょうじょうおだやかだった。

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