リーバー先輩の推理②

「すると……こういうことッスか。ボクの足型を粘土で取ったミミは、そこに水を入れてこおらせ、ボクの足の裏のけいみたいなものをつくった、と?」

「ああ。オレの推理が正しければ、そのとおりだ」

 自信ありげにそう答えたリーバー先輩が、右前足をプルプルといきおいよく振った。

 すると、彼のつま先についていた粘土がぽとりとボクたち面々の前に落ちた。何事もなかったように、けんの謎解きを進める先輩。

「ギンをさそい出し、くさった魚のにおいでぜつさせたあとによくそうに投げ込んだことは、さっき推理したとおりだと思う。そのあと、犯ぬいぐるみであるミミは氷でできたコーハイの足裏の模型を自分の足裏につけてを歩いた。まあ、われわれぬいぐるみの生地なら、氷になんなくくっつくだろうし」

 リーバー先輩が、じっとミミをにらみ付ける。

 先ほどの一瞬のこわばりは何だったのだろう――今度は、ミミはちっとも表情を変えなかった。そればかりか、だまって先輩をにらみ返す始末。

 しんきゅうしてから、リーバー先輩が続ける。


「そのとき、浴室はまだあたたかかったのだろう。だから、コーハイの氷の足裏模型はそこを歩くだけで表面がけ、その床にコーハイの足の形を水で作り上げたというわけだ」

 と、ここで口をはさんだのはヒツジのぬいぐるみ、メメだった。

「なるほど……。そして最後に、氷の模型を浴槽の残り湯の中に入れて完全に溶かし、しょういんめつしたということね?」

「ああ、そうだと思う」

 ゆっくりとうなずいた先輩。

 こんなじょうきょうでも、カメはどうだにしない。先ほどからまばたきもせずに、ただ空間を見つめているだけだ。ただそれが、びっくりしているせいなのか、成り行きについていけてないせいなのかは、ボクにははんだんできなかった。

 そうこうしているうちに、なんだかボクの気持ちがじょうにむかむかしてきた。

「なんてそくな……。どうしてそんなことしたッスか!」

 ミミにびかかろうとした、ボク。

 だけど、リーバー先輩が二匹ふたりの間に割わって入り、ボクの気持ちをなだめるように、そのふわふわなうででボクのひたいをなでたのだった。


「そうおこるな、コーハイ。まだ謎解きは終わっていないのだ――。とにかく、こうしてミミは、気を失ったまま水に浮くギンを残し、まだだん の残る風呂場から立ち去った。もちろんオレがやったみたいに、自分のあしあとが残らないよう、部屋の隅を歩くようにしてな」

 ぬいぐるみ犬探偵による謎解きが進む。


 だがここまでのところ、ようしゃであるミミの表情を突きくずすまでにはいたっていなかった。

「いくら腐った魚のにおいだからといって、いつまでもギンの気を失わせ続ける力はない。やがてギンは、ハッとしきを取り戻した。そして自分が水の上に浮かんでいる状況に気付き、悲鳴をあげたのだ。が、時すでにおそし……。風呂水はぬいぐるみの命ともいえる体の『綿わた』の中に、ギンの命を失わせるのに十分な量がんでいた。そして、オレたちがけつけたときにはもう、ぬいぐるみペンギンのギンはおぼれ、ぜつめいしていた……」

 リーバー先輩が、残念そうにうつむいた。

 ミミをのぞくぬいぐるみたちは先輩の推理になっとくしたのだろう、音にならないほどの細い息をいて、同意の意思をしめした。


「これが、オレの推理だ。ミミ、何か言いたいことはあるか?」

 意を決し、先輩が強く力のこもった視線をミミにぶつけた。

 それでもミミがうろたえることはなかった。うすら笑いを浮かべただけだ。

「ふん、アンタの推理にしては、すじが通ってるんじゃない? ……けど、一番大事なことが欠けてる」

「欠けてる? それって一体、何スか?」

 助手の仕事はこれだとばかりにせんぱいの代わりにミミに突っかかる。だがミミは、すました顔でこともなげにこう言い切った――そう、短い言葉で。

「証拠よ」

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