リーバー先輩の推理①

 口をきゅっとつぐんで厳しい表情の先輩の前に、集まったぬいぐるみたち。

 リーバー先輩から向かって右側にボク。そのとなりにはメメ、次にミミ、最後にカメという順番だ。

「では、はんぬいぐるみから言ってしまおうか」

 先輩のいきなりの犯人――いや、犯ぬいぐるみ当てせんげんに、ソファーの上で並ならんだボクたちの間をきんちょうの波がはしけた。多分、カメにも。

 そしてすぐさま、ためらいもなく肉球のついた右前足を一匹ひとりのぬいぐるみに向けてビシッとした先輩。その足先は――ウサギのミミを指していた。

 元々丸くて大きいミミのひとみが、しになり、ますますまん丸になる。


「犯ぬいぐるみは、あんた……ミミだよな?」

「……ワタシが犯ぬいぐるみですって? はぁ? 意味がわからないんですけど」


 いっしゅんちんもくの後に、ミミが口を開いた。声ばかりではなく、心なしかその長い耳もふるえている。リーバー先輩のちょうせんてきたい に負けじと、ミミが先輩をじろりとにらむ。

 しかし、先輩も負けてはいなかった。

 この家の最古参ぬいぐるみのあつりょくくっすることなく、

「事件は、昨日にまでさかのぼる」

 と、そのふわふわで長いしっぽをピンと立てながら、ボクら一同の顔を見回したのだ。


「昨日、コーハイは部屋で散歩しているときになぜか急につまずいて、前のめりに倒れてしまった。そうだな?」

「そうッス。ちが いないッス」

「そのとき、何か足のうらが湿っていた気がすると言っていたな」

「はい、そのとおりッス」

 先輩はボクの言葉に満足そうにうなずくと、その耳をパタパタと波立たせた。

「それは、こう考えると説明がつく――つまりコーハイは、ゆかにこっそりかれていた平べったく伸のばした粘土に足を取られたのだ。そしてその粘土が、コーハイの足型となった」

 粘土? 足型?

 ボクは昨日の出来事を思い出しながら、ウサギのミミの様子をうかがった。

 確かに昨日――ボクがつまずいて振り返ったとき、ミミは粘土遊びをしていた! ボクは強い疑いのこもったせんをミミに浴びせた。だが、それでもミミの表情に特別な変化はない。

 思わず鼻息が荒くなった、ボク。

 リーバー先輩は、そんなボクに「落ち着け」と小さな声でなだめると言った。


「コーハイが踏んづけ、肉球と足のりんかくがくっきりと残った粘土の板を目にもとまらぬ速さでかたけたミミは、それをシューマイのようにつつみ、そこにできた〝くぼみ〟に水を注いでれいぞうれいとうしつに放り込んだ。……そうだろ、ミミ?」

 ふわもこな茶色いでできた右前足の先をみなの目前に突き出した、リーバー先輩。その先にへばりついていたのは、はいいろの小さなかたまりだった。

「これが冷凍室の底の方に付着していたよ。……昨日、ミミが遊んでいた紙粘土がな」

 それを聞いたミミの表情が一瞬こわばったのを、ボクはのがさなかった。

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