容疑者はコーハイ②

 重苦しいふんの中、リーバー先輩によるべ つの事情聴取が始まった。

 皆が集まった、リビングにある白いソファーがこのけんの取り調べ室となる。だんなら、ボクらぬいぐるみが楽しく走り回る場所なのに――。

「でもかんちがいしないでね、リーバー。アンタも容疑者の一匹ひとりなのよ」

 厳しい口調でヒツジのメメが先輩に言い放つ。

 すると先輩は、「そんなことはわかっている」といった表情をして、うなずいた。そしてすぐさま、助手であるはずのボクに顔を向けた。

「まずはコーハイから取り調べる。オマエだけ、ここに残れ。残りのみんなは、少しソファーからはなれていてくれないか。順番に呼ぶから」

 しぶしぶ、ソファーから離れていくぬいぐるみたち。

 でも一匹ひとりだけ、足取りがひどくゆっくりなぬいぐるみがいた。もちろん、カメだった。まるですな はまで生まれたばかりのウミガメが、海に向かってよたよたと歩いていく、そんな感じだ。

 ――歩みはのんびりだが、そのかくじつに前に進む姿すがた が力強く美しい。

 こんな事件が起きているなかだけど、ボクは思った。この人生――いや、ぬいぐるみ生、なんでも早けりゃいいってものじゃない。そんなことくらい、子犬のぬいぐるみにだってわかることである。

 ……といっても、何事にもげんかいはあるのだ。

 ボクと先輩は、ちょっとイライラしながら、カメがソファーからあるてい 離れるまでしんぼうづよく待ち続けた。


「……。さて、コーハイ。そこに座すわってくれ」

 みんなが離れたことを確認した先輩は、人間がうでをのせるソファーのそでの部分に上がり、ボクを見下ろすようなかっこうでそう言った。

 いつもなら中学一年生のレオナちゃんがポテチなどのお をもきゅもきゅと食べながらテレビを見ているその場所に、おとなしくこしけることにする。

「先輩、まさかとは思うけど、ボクのこと疑ってるッスか?」

「まさか……そんなことはない。今のところはな」

「何スか、その、今のところはっていうのは! やっぱり疑ってるってことッスよねッ」

 鼻息を荒くするボクに、先輩は「スマン、スマン」とびた。

「もちろんオレは、コーハイがやっていないと信じている。でも、ばっちりと足跡がげん に残っていたことを考えれば、げんじょうは明らかにオマエに不利だ」

「そうッス。だから先輩、助けてくださいッス」

ろんてきに考えれば、コーハイが『犯ぬいぐるみ』でないなら、だれか他のぬいぐるみがコーハイにつみを着せようとしたということになるよな?」

「そ、そのとおりッスね」

「で、よく思い出してほしい」

 先輩は平たい耳をパタパタさせ、そのふうあつでふわふわな肩の毛をらしながら話を続けた。

「最近、足をどこかに引っかけたとか、つまずいたとか、そんなことなかったか」

 足を引っかけた? つまずいた?

 いっしゅん、先輩の質問の意味がわからなかった。が、ピンと気付いたことがあって、ボクは口を開いた。

「そういえば昨日、レオナちゃんたちがしずまった後くらいだったッスかね……。リビングで散歩をしていたら、とつぜん、両方の後ろ足が何か柔らかいものにひっついたようになって、前のめりにたおれてしまったッス」


 ほほう――。


 先輩の瞳のおくが赤く光った気がした。

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