容疑者はコーハイ①

「あ、あれ? 先輩、これは何かの間違いッス」

 あわてふためくボクに、そのやわらかそうなかたをすくめた先輩が冷たく言い放つ。

「コーハイ、まさかオマエが『犯ぬいぐるみ』だったとはな」

「ち、ちがうッスぅぅぅぅ」

 ボクのぜっきょうが浴室にこだました。

 それを耳にしたらしいメメやミミ、そしてカメがボクらのそばにやってきた。

「一体、どうしたのよ。何か手がかりでも見つかったの?」

 メメの問いに、先輩は風呂場に残るすいてきでできた足跡を右前足の肉球でさっと指し示した。

「犯ぬいぐるみの残した足跡が、コーハイの足にぴったりと合ったんだ……」

 ええっ!

 メメとミミの顔に衝撃が走る。ぬいぐるみの足型が、人間のもんと同じようにそれぞれみょうに違っていることはじょうしきだからだ。

 やや遅おくれて、カメの顔がピクリと動く。多分、びっくりしたのだろう。

「アンタだったの!?」

「ち、ちがうッスよ、何かの間違いッス」

 ミミの鋭い視線がボクに突つき刺ささる。

 あわててていするボクの横で、先輩が「いや、待てよ」とつぶやいた。

「考えてみれば、おかしいな。ギンの悲鳴が聞こえたとき、コーハイはオレといっしょにいた。アリバイがある」

「そ、そのとおりッス。ボクにはりっなアリバイがあるッス」

 ようやく少しだけ立場をばんかいしたボクに、「でも……」と前置いてから、うつむきげんでミミが言った。

「何かトリックをけたとも考えられるわね。たとえば、あらかじめボイスレコーダーに録音しておいたギンの悲鳴がじっさいはんこうのずっと後に流れるよう、さいせい状態にしておいたボイスレコーダーをだつじょのどこかにこっそりかくしておいたとか――」

「そ、そんなことボクにできるわけないッス。ボイスレコーダーなんてものは持ってないし」

「それもそうよね……。それに、そんなようしゅうとうなトリックを使うのに、足跡を風呂場に残すっていうのも変な話だわ」

 メメが、そう言って不思議そうに首を傾げた。

 それに同調するように、かすかにカメの口も動いた。メメの意見にさんせい、ということだ。

「ここは、しんちょうに捜査しなければならないようだな……」

 浴室に向けていた顔を不意にくるりと回転させた先輩が、皆の顔を見回した。

「それではこれから、ぬいぐるみ犬探偵リーバー様による事じじょうちょうしゅ一匹ひとりずつ行うこととする。

なぜなら――」

「なぜなら?」と、ミミ。

「やはり、この中に殺ペンギン犯がいるとかくしんしたからだ」

「確信……なんスね」

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