ぬいぐるみ犬探偵「リーバー」①

 先輩のとつぜんの捜査開始宣言。

 その後、しばらくぬいぐるみの面々によるちんもくが流れた。言葉では言い表せない、不思議なきんちょうかんが辺りにただよっている。同じ犬のぬいぐるみ仲間とはいえ先輩の意図がわからないボクも、当然そんな気持ちだった。

「探偵って……。そんなこと、先輩にできるんスか?」

「ぬいぐるみ犬をなめてもらってはこまる。探偵ぐらいできるぞ。あ、それからコーハイ、お前は探偵の助手をやれ」

「はあ? ボクが助手ッスか? そんなのできるわけ――」

 耳を疑うたがったボクがそう言いかけたとき、いつもはおんこうなヒツジのメメが声をあららげ、話にんできた。

「ちょっとリーバー、今何て言った? 殺ぬいぐるみ事件って、これはじゃないわけ?」

 ピンクのほおをさらに赤らめてさけぶメメの横で、ウサギのミミはその大きな瞳を見開きながらうんうんとうなずいた。カメは会話のないようがわかっているのかいないのか、ぼーっと前を見つめているだけだった(カメは、時折こうなる)。


「これは殺ぬいぐるみ事件だ。間違いない」


 足についてしまった水を風呂場マットできながら、リーバー先輩があっさりとそう答えた。

 その自信あふれた顔つきに、ボクはつい、意地悪な気持ちになる。

「先輩、どうしてそんなことが言えるんです? しょうがあるッスか」

 先輩は「そんなこともわからないのか」的な目でボクにいちべつをくれたあと、つぶやくように言った。

「においだよ」

「におい!?」

 ボクとミミとメメの三匹が、同時に叫んだ。

 そのあとややしばらくして、カメがゆっくりと首をかたむけながら「どうして?」という表情をした。どうやらカメも、それなりに話はかいしているものらしい。


たしかにこのじょうきょうを見れば、ギンが大好きな魚のにおいにつられて風呂場までやってきて、足をはずして浴槽に落ちた事故に思える」

 せんぱいは、ビシッとしっぽを立てると、キラリ、目を光らせた。

「けれど、おかしくないか? この浴室のにおいは、魚は魚でも明らかに『腐った魚』のにおいだ。しんせんな生魚が好きなギンは、こんなにおいからげることはあっても、それにつられてここにやってくるなんてこと、ぜったいにありえないだろ」

(確かに、そのとおりッス)

 ボクら(カメ以外)は、思わず息をのんだ。

 言われてみれば、ここに来たとき感じたにおいは確かに腐った魚のものだった。風呂に浮いていたサンマは、ぴかぴかと新鮮そうに光っていたにもかかわらず!

 ボクはなっとくしたが、カメは相変わらず首をかしげたままだった。

「それに、もうひとつ不自然なことがある。なぜこんなところにサンマがいるんだ? 人間のいっぱん家庭では、サンマは冷蔵庫の中にしかいないものだろう」

「リーバー、確かにアンタの言うとおりだわ……。でも、だとしたら、なぜお風呂場で腐った魚のにおいがしたのかしら?」

「ミミ、これはあくまでも今のところのすいなのだが――」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る