第5話💠桜色の思い出
十年ぶりに会った
彼女の
あの頃の紗英はまだ幼さが残る少女だったし、僕は女の子と話せない程純情だった。(もちろん興味はあり過ぎる程あったけど)
十年も凍結されていた思いが、僕の中でゆっくりと溶けはじめていた。
うれしさと後ろめたさが、僕の中で同時に膨らんでくる。
「あの頃、
自信たっぷりに見当ちがいのことを言う紗英がおかしくて、僕は声を立てて笑ってしまった。
「僕が好きだったのは紗英の友達の
頬を膨らませながら、紗英は少し赤くなったほっぺたを細くて白い指で包んだ。
確かに紗英は気になる存在だった。
結衣ちゃんに告白した時でさえ、胸の奥が
(それは今でも思っている)
紗英に告白していたら恋人同士になっていたのだろうか?
もっとも、初恋は成就しなかっただろうからきっとこれで良かったのだ。
こちらの心の奥底まで見通すような眼差しで僕を見ている紗英を見る僕の目はきっと泳いでいたのだろう。
「とにかく私は、たまらなく佳樹君が好きだったし──もう、あの頃とは違うけどね、私ね今年の秋に結婚するの……」
「そうなんだおめでとう。
ごめん、さっきのウソ。
正直に告白する、紗英のことはずっと気になってた、だけど結衣ちゃんにフラれたからっていくのは違うなって思ってさ──幸せになれよ」
僕が差し出した右手を柔らかい
「うん、ありがとう、じゃあ私行くね、佳樹君元気でね」
通り過ぎる時にふわりと甘酸っぱいコロンの香りがした。
公園の桜の木から薄いピンクの花びらがヒラヒラと落ちる通りを歩きながら。
大人になっていく過程で、人は様々な現実を知っていく。
僕は幼すぎた想いにサヨナラをした。
了
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