25 鯨
みなさん仲良くご到着ですか。なんだ、べつに示し合わせたわけじゃないぞ。久しぶりね
でさ、
五人で屋上まで登り、ヘリ発着場まで出ると、すでに数名の
あ。三階でエレベーターが停まり、フロアにアーイシャ、と多くのムスリマたちが集まっているのが見える。乗れるかな、と
つうわけでセットリストはこんな感じっす。ん、もう確定でいいんじゃん。だな、
ホロスクリーン上に脈拍や心拍の数値、臓器をスキャンしたと思しき画像が表示されている、のを漠と眺める。生命維持装置、こうやって使うものだったのか。初めて見たときはなんて大袈裟なと思ったけれど、現にこうしてマキの肉体が内部に横たえられているのを前にして、非現実感のようなものが避けようもなく纏わった。なに……があったんですか。と傍らに佇立している副艦長、いやもうその肩書きではないか、
ばたん、と閉まる入口のドアのほうを室内の全員が振り向く。
そう、ですよ。自衛隊にいたころの
沈黙。
すべて事実だよ。男性の口から重々しい言が漏れる、のを前にして、誰一人
とくに面白くはありませんでしたよ。
沈黙。気付けば
沈黙。
だめだ。こいつ、どうにかしないとだめだ。棚の上に腰掛ける
沈黙。
殺そう。目の前の
あるだろう。えっ。マキがしたこと、が事実であるならば、
じゃあ。じゃあさ。なんだね。あたしにとって大事な人、マキを、あたしは一方的に奪われようとしてるんだ……ならさ、あたしがあいつを殺してもいい、ってことになるじゃないか。
激昂して部屋を出たシーラ、の後を追うこともできない。夜の礼拝を終え、手持ち無沙汰に一日を終える、こともできそうにない。一階へ降り、救護室の扉を叩いていた。
撫で付けられた指をとる。何が言える。何を言えばいい。出過ぎた夢想のような、あるいは贖罪への切実な渇望のようなものを述べ立てるこの人を前にして、一体何が。そんな……気付けば、私の左目から一筋の線が。これか、これを拭おうとしていたのかマキは。そんな……母親のようなことを言うな!! 吐き出した言葉の尻尾が、慄えたまま空中に霧散する。遅れて、右目からも雫が漏れてくる。これは何だ。人間の、たかが人間の。試みるに値しない行いに身を窶しているだけの姿を前にして、私は。
知ってたんですか。と一階の一隅で問う。ああ。と
では、と言いながら
そんなことを決然と言われてもな、と思いつつも、ふたたび背を向ける
家族になれると思ったんだよ。うん。マキとも、
結局、音楽だけが救いなんだ。悪い冗談としか思えないようなことも、この一週間にはあった。でも、これだけは。この仕事だけは裏切れない。世界中から集まった
ああ、これだ、この歓声。忘れてた、これがわたしたちの仕事なんだ。ウェンブリーと比べたらひとまわり小さいけど、新国立競技場、このアリーナに響いている大歓声は、確かにわたしたち全員のもの。よっしゃ次の曲い【緊急地震速報:東京都で地震発生 強い揺れに備えてください。(気象庁)】
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