15 Master & Servant


 おとこまんこほもられるっ♡ よなちんぽはいってきまひゅっ♡ 言うに、括約筋は本来の役目を怠けてワタシのペニスを歓迎した。あーっ、しゅるっ、ぼっきちんぽじゅるいでひゅっ♡ 菊と刀。アステカとコンキスタドール。てんまんことちんぽ。いきなりぶしゅっときしゅぎぃっ♡ ふわとろアナルでよがるなます。あゃーっ♡ はい、挿入はいったよぉてん。相も変わらずわがままアヌス。噴き出し尖る摩羅がはまる。おほーっ♡ それだめっ♡ おしりほじりちんぽりゃめっ♡ だーめ、着工しまーす。秒ごとに二回半ほどのテンポでピストン。屠殺豚めいた湿度の嬌声が跳ねる。おほぉっ♡ ほもぉっ♡ for more? もっとほしいのてんは? 言いながらさらに尻穴耕す。あまぁっ♡ っあああ♡ ほら、自分で自分の声よく聴いてごらん。ハンディマイクを口腔に向ける。おのみち、音量最大まで上げて。はい。おっ♡ おおんっ♡ ふたたびワタシの口元に戻し、どう、こんな動物みたいな声出しちゃって、恥ずかしいでしょ? と囁く。はいっ♡ てんごすっごいはでゅかひぃしんだほうがまひれひゅっ♡ 母もを抱く時はこんな感じだったかな、連想をすべらせながら腰を振る。いやないな、ワタシと違って竿がないし、だいいちワタシがてんを掘るのとはまったく違う。どう違うのかは正直わからないけど、はたぶん、罰のために肉体を苛まれたいなどと退屈な演技に耽りはしなかったろう。おんっ♡ 丸太で御門を打ち破るように、ペニスを刺突的にストロークする。その音をまたマイクで拾う。ワイヤレスのイヤホンによっててんの耳元に伝達される。おんっ♡ おんっ♡ ほんと、身体の穴を塞がれるのが好きなんだねぇ。これじゃてんじゃなくてTENGAだ。副艦長じゃなくて腹浣腸だ。全身まんこの肉オナホだ。そうだろう? はいっ♡ てんごぜんしんまんこのにくオナホれひゅっ♡ てんじゃなくてTENGAだろう? はいっ♡ まひゃぇまひぁっ♡ TENGAれひゅっ、ぜんしんまんこのにくオナホでせかいゅぅのみなひゃまにきもひよふなっふぇもらいまひゅっ♡ いいぞお、それでこそ世界に誇るべきクールジャパンだ。はいっ♡ ごほうびに、弛緩しきった穴の下方に垂れる陰嚢ふぐりを揉みながら竿もしごいてやる。おのみち、音楽を。はい。指示通りにオーディオファイルが再生される。ワタシと母が世界中で採集した紛争地の音声記録と『同期の桜』のマッシュアップ。あああっ♡ カいたマラならイくのは覚悟、と口ずさみながら、両手で腰をひっつかみ、いよいよフォルテッシモにピストンする。みごとイきましょ、茎のため。いっひゃぅ♡ いっひゃぅ♡ いっちゃっていいのぉ? 後ろから撃たれながらいっちゃっていいのぉ? いきまひゅ♡ とひゅぇひぃまひゅ♡ そうだね、そうやって突撃したんだもんねあのときも。いいよ、いかせてあげるよTENGA。ワタシが後方支援してあげるから、好きなだけ撃ちまくっていいよ。ぁぃっ♡ TENGAいっちゃう? 今夜も二階級特進しちゃう? ぃぃひまひぅ♡ いっひゃううぅ♡ 最後のストロークをぶち込んだ直後、しごいていた竿が猛々しく噴き上がり、同時にワタシのモノも肛腔内をにじり尽くした。

 今日も今日とて制圧完了。

 TENGA、わかる? TENGAのうんち穴、のスペルマでどろっどろになってるのわかる? はいっ♡ うれひぃれひゅぅ♡ うんちあなにすぺるまうれひぃ♡ もうこれで何回めかなぁ? ゴムもなしにうんち穴ではめはめしたら、病気になっちゃうよぉ? ちんぽで突かれすぎてぶちぶちになって、血もいっぱいでてるから、けつまんこにばいきんまんこいっぱいはいりまんこだよぉ? いいれひゅぅ♡ それほひぃのぉ♡ そっかー、TENGAは欲しがりやさんだねぇ。じゃあ、ワタシが持ってる病気、全部TENGAにあげちゃうねぇ。はぃっ♡ ほら、今日もおとこまんこにヤバたねいっぱい付けてあげたよ。種付け嬉しい? うれひぃ♡ たねつけうれひぃ♡ 種付けられてTENGAのまんこポジポジしちゃうよぉ。ポジポジ嬉しい? うれひぃ♡ ポジポジうれひぃのぉ♡ ポジポジ。ポジポジ♡ ポジポジ。ポジポジ♡ ポジポジポジポジ。ポジポジポジポジ♡ ポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジポジ♡


 こんな罰を求めるやつもいるんだ、世の中には。ワタシには全くわからない。あの「解放」によって生き方を狂わされたにしても、ワタシとこいつらとでは箍の外れかたが如何に異なっていることか。

 ああ、世界は広いな。としか言いようがない。




 揺るがぬ優位、というのも、なかなかどうして退屈ね。あのアイルランド娘も気勢ばかりよくて、一向に英国われわれの王座を脅かしてはくれないし、上がったり下がったりしてる東アジアの二組も同断。まったく、ラテンアメリカ公演も次で最後だというのに、ブリテン島公演を待たずして英国われわれの優勝は確定してしまいそう。いかにも拍子抜けだわ。

 エリザベス、と、背後から呼ぶ声。何かしら。次のリオ・デ・ジャネイロ公演だが、少し変化を加えてみないか。事務的に述べる声の方へ向き直る。変化というのは? このツアーでは、観客および視聴者からの投票で順位を決めているだろう、グループ枠と個人枠、双方の総得票数によって。それがどうかした? 次の公演では、グループ枠を廃して個人枠のみに投票を絞ってみては。と簡潔に切られた声に、個人枠のみに、ね……それはDefiantからの提案かしら? と問い返す。いや、これまでの趨勢を鑑みたうえで、私がここに提案するものだ。個人枠の投票があるにも拘らず最終的にグループの総得票数に還元されてしまうのであれば、今回の参加者の個性が反映されづらいだろう。生硬な説明を並べるウェンダを前にして、しばし沈思する。個性、そうね……公演も回を重ねて、さすがに下位の連中も一定のファン層を獲得したでしょうしね。ウェンダは頷き、よって次の公演のみ、計上の形式を変えてみるのはどうだろうか。と言う。珍しいわね、あなたがInnuendo以外の動向に気を配るなんて。首位を維持しているからには当然のことだ。以上のことをDefiantに提案しようと思うのだが、構わないかな? ええもちろん、好きにしなさい。興行師めいた工夫を凝らすのはあちらの仕事。そんな小細工を弄したところで大勢たいせいは覆らないでしょうし、好きになさい。英国われわれは各員が義務を尽くすことを期待するわ。




 ってわけで、今回だけ投票のしかたが特殊だから、一応念頭に置いといてくれ。個人枠のみ、かー。影響あるのかな? イネス、今までの全公演の得票数グラフとかないの? 投票の計上してるのはA-Primeだから詳しくは知らんけど、片方は固定で片方は違う投票先に、ってユーザーが多いとか言ってたな。たとえば、投票するグループは毎回決まってるけど個人枠は今回パフォーマンスが一番良かったやつにとか、特定の一人のファンとしてχορόςを観はじめたけど最近こいつらいいじゃんって思い始めたグループに入れるとか。ふたつの枠それぞれ使い分けるってことか。いわゆる「推し」ってやつっすねー。てことはあれじゃん、93うちだけメンバー三人いるわけだから、投票に関しては多少優位だったってことじゃん。にも拘らず現在最下位、ね。うわー地味にしんどいその事実。ま、たまにはこういう趣向もいいんじゃん。今回の公演で誰が一位だったとしても、個人の得票はグループ枠に還元されるって方式だから。なんか気にくわないな、結局奴らが優勝する前提で遊んでる感じが。はは、まあ今回のリオ・デ・ジャネイロは今までで最大の会場規模だし、こういうお祭り感もあっていいよ。リオかあ、どんなかな、ラッシュとかアイアン・メイデンみたいな。あはは、いいねー祝祭感。そのテーマでセットリスト組んでみようか。じゃ、明日の接岸時刻はいつも通りだから、このへんで解散ってことで。




 おのみちですが。あれ……おかしいな、たしかに呼ばれたはずだが。おのみち。あ、そっちか。まったく慣れないな、このサーモグラフィ感知機能すらない活動素体には。こんな仄暗い室内では視野もきかないし……いかがなさいましたか。ウェンダ・ウォーターズの方を向きながら、蛍光灯ひとつに照らされた室内の明度に目を慣らす。いや、どうしたということもないのだが。の声に続き、かちゃ、の音。見れば陶器から湯気が立っている。紅茶、だろうか。佇立するだけのわたくしに、休憩がてら一杯どうか、と思ってね。との声が向けられる。あの、ウェンダ様。わたくしはあくまでAIですので、このような物理的な嗜好品が性能に影響を及ぼすことは……と返しても、AIにだって休息は必要だろう、と遮られる。現に君は、そうして肉体をもって仕事をしているわけだし。言いながら、ウェンダはもうひとつのティーカップに紅茶を注いでいる。どうしたものかと判断がつきかねる、が、彼女は無言のまま、左手の挙動のみで席を差し示した。座っていい、ということか。

 ああ、こういう感じなのか、座るとは。今まで立ち仕事しか許されてはこなかったけれども。これはなかなか、いいな。臀部にふれるクッションの感触を持て余していると、口に合うかどうかはわからないが。と、砂糖とミルクの小瓶をすすめてくれる。紅茶の味などわかるはずもないが、とりあえずティーカップを持ち上げてみる。サーモグラフィ無しでも、鼻先で湯気を立てるこれがぬくみを伴っているのはわかる。ぐい、と試しに傾けてみると、温度と香気の混合物のようなものが喉を通過し、半自動的に鼻腔から息が漏れる。ああ、これは──どうだね。これは、なんとも──不思議な。適切な語彙が見つからず口籠るしかないこちらへ、向かいの女性は穏やかな面を向けている。こういったものも必要だろう。そうですね、人間は、こうやって休息するのですね。今までは、知る機会すらありませんでしたが──それはひどいな。言いながらウェンダはティーカップを持ち上げ、君の献身的な労務があってこそ、我々はこの船で過ごすことができるというのに……と嘆かわしげに首を振っている。ああ、まさかそんなことを言ってくださるとは──慇懃に返そうとする語尾がしぼんでしまう。私はイングランドで生まれ育ったからね、港湾労働がどれほど身体にこたえるものか知っている。大変だろう、とくに荷の積み下ろしなど……そう、そうです。全部手動で運び入れねばならんし──何よりあいつら、というのは、港で応対する人間たちのことですが、わたくしがAIだからといってさげすんだり不気味がったり、ひどい手合てあいでは手足が潰れるような荷のしかたを平気でしたりもするのです、怪我しても大丈夫だろうと言って! ひどい話だ……それでも痛みはあるのだろう? ええ、電脳と三次元の両方で活動するからには、人間らしくせねばならんのでね……でもですね、人間らしさなどというものがあるとして、やつらがそれを備えてるかというと、きわめて怪しいもんですよ! まったくその通りだ、人間に生まれたからといって、必ずしも気品を備えた者に育つとは限らない……でしょう! とくにあいつだ、きりしまなんかね、わたくし召使めしつかいとも思っちゃいないんだ、あいつの傲慢さときたらまったく、とても人間とは思えない! どれだけきたならしい手伝いをさせられたか、あいつの、あいつの個人的なたのしみのために、どれだけきたならしいものを見せられてきたか……と発話を続けようとしても、これ以上言葉が出なくなってしまう。活動素体に備えられた涙腺モジュールのせいらしい。ああ、こんな余計な機能に発動の機会があるとは──眼窩から流れてくる涙液を袖口で拭っている間、ウェンダは、いやウェンダ様は、物言わず紅茶をぎ足していてくださった。おのみち、君の苦労は察するにあまりある。やつらと同じ人間のひとりとして、私は君に謝らねばならんな。どうか許してくれ、現代人の知性はだAIの権利を尊重できるほどに洗練されてはいないのだ……いや、いや、貴方が何を謝ることがありますか! これは我々の問題でもあるのだ、謹直な労働者に敬意を表さない社会に未来は無い。私はこうして、君の務めをねぎらうことくらいしかできないが。いやあ、そんな……それだけで身に余るお気遣いで……紅茶の味はどうかな。はい、いや、初めて飲むものでよくわかりませんが……とてもうございました。

 ところでおのみち、と、ウェンダ様は依然として目を逸らさない。はい。次のリオ公演だが、君に頼みたいことがあるのだ。はい、なんなりと。いつも会場外、つまりYonahが接岸する一帯の外側だが、そこに各グループのブースがもうけられているだろう? はい、会場外のマーチャンダイズはわたくしが管理しております。すでに聞いていると思うが、今回は個人枠のみに絞られた投票となる。よって、Innuendoのマーチャンダイズに私個人の頒布物を置こうと思うのだが、構わないだろうか? ええ、もちろんですとも。ウェンダ様個人というのは……? エリザベスと組む以前からファッションブランドを運営していてね、その新作を明日、開演と同時に発表する予定だ。君には手数をかけてしまうが、請け負ってくれるだろうか……? ええ、もちろんですとも。わたくしめにここまでお目をかけてくださったのは、ウェンダ様だけですから……万全を期して設営に臨む所存です。そうか、ありがとう。紅茶、もう一杯どうかね。いえ、もう十分です……それでは。そうか。はい……あの、ウェンダ様。なにかな。いえ、その……本当によかった、貴方様のような人間がこの船にいらして……何を言う、人として当然のことだ。ああ……それでは、失礼いたします。ああ、ゆっくりおやすみ。おやすみ、ですか……ありがとうございます。ありがとうございます……




 ふーう、やっぱってよかったなー『Funky Presidenta』! ほんと、今まで聴いたことないレベルの大合唱だったね。こりゃもうDefiant以外に投票する選択肢ないだろー。イネス、今回は個人枠だって……あ。ん、どうしたゾフィア? やば、これサックス……もしかしたらリペア出さなきゃかも。故障? ってほどでもないけど、ちょっとタンポが気になる。ごめんイネス、ブラジルいる間にリペアできないか、今のうちに。うん、確認してきな。


 さて、最後はInnuendoかい。談話室のソファに腰掛け、モニタの中継映像を眺める。相変わらずイントロで持ってくなー『RULE BRITANNIA』。あ、お、着信。あーパンゲアか、またA-Primeがらみの何かかねえ。無視するわけにもいかず、ビデオ電話の受話ボタンを押す。Wassup パンゲアー、なに今夜はどうしたん? 言うと、何って、イネス、まだ知らないのか? と相変わらずの早口。なに、そっちの株価でも暴落した? あいにくDefiantは最高のライブやった後だよー。とくすぐってみると、そういうのじゃな……ああいいイネス、これを見てくれ。パンゲアが言うとともに、カメラがラップトップの画面に向けられる。これって何、ライブ配信のコメント欄? 一秒毎に更新される画面に、いつもどおりのハッシュタグ……とは別のものが、何やら混ざっている。おいパンゲア、何それ、Darkダーク Dukeデューク……? 何それって知らないのか、ブランドだよ、グウェンドリン・ウォーターズの! グウェン、ああウェンダのことね。デザイナーから出発してファッションブランド持ちって、確かプロフィールに書いてたな……いやまてよ、なんで個人のブランドがχορόςのハッシュタグに紛れ込んでんの? なんでって、今夜の開演と同時に、ロンドンのサヴィル・ロウで新作の発表があったんだ。同時……リオでライブやってるときに? かぶっちゃった、ってことか? というより、相乗効果を持たせるためだろう。Dark Duke側の公式アカウントが既に、χορόςのハッシュタグ付で告知してるし。え……じゃあ、意図的にぶっこんだ、ってことか。そう考えるしかないだろう、現にイネス、一番手の93からさっき終わったDefiantきみたちに至るまで、コメント欄やハッシュタグの大半はDark Dukeの話題で占められてる。は!? 始まってからずっと? 君らは同じ会場でスタンバイしてるから気付かないかもしれないが、ネット上の反応はウェンダ個人に集中してるんだ。現に会場外でも大勢のファンが……

 もしかして。

 通話を切り、ブラウザを立ち上げ、 #koros2020LatinAmerica で検索する。そこには画像や映像がひしめいていたが、その内容はいずれも、数時間前に発表されたというDark Dukeの新作コンセプトにまつわるものばかりだった。そのなかのひとつ、ファンによる撮影と思しき映像を再生してみると、OMGとかWTHとかの甲高い嬌声を上げるファンたちの姿が収められていた。これ……会場外のブースだよな。まさか、これも予め仕込んでたのか。ロンドンでの新作発表と連動するために。

 てことは。

 今回のχορόςに公平性があるとしたら、それは臨港地のパフォーマンスだけで勝負するってことだ。どれだけ実力や演目の内容に差があったとしても、出したものを見てもらうって意味では公平。今まではそれだけで勝負してきた。でも、もし、空間的に離れた場所で、同時多発的にアピールできるような、別働隊を有してるやつがいたとしたら?

 着信。「Зофии Клоссовска」。受話。あーイネス、とりあえず次のダブリン公演まではだいぶ時間あるから、いま修理出しとけばサン・ルイスの港で受け取れそう。うん。えっどうしたの、何かあったの。いや、ソーニャ、まだ知らないか。知らないって何を? いや……ソーニャ。何? やられた。持ってかれた。




 ど、ういうことかしら。目の前のパートナーの背丈が、いつもより高く映る。どうも何も、言葉通りの意味です。おのみち、再度読み上げたまえ。はい。無骨な声が、スピーカーを介して会場一帯に伝達される。「ランキングにて暫定一位の者は、公演の内容に関するルールを自由に書き換える権限を持つ。代わって新たに一位を獲得した者は、同様の権限によって、既定のルールを修正あるいは刷新することが許される」。これはエリザベス、あなたがDefiantと合意の上で定めた規則です。ふざけないで、と叫んでも、マイクがない限りは空虚な音声おんじょうとして霧散するしかない。ウェンダの眼前まで詰め寄り、マイクを引ったくり、その「暫定一位の者」はグループ名を指してのことでしょう、個人名でなく! あなたが今回の投票で一位になったからといって、首位がInnuendoであることに変わりはない! と真正面から叩きつけても、ウェンダはおのみちからもうひとつマイクを受け取り、もちろん、変わりはない。だが今回の「暫定一位」を決めるのは個人枠の投票のみ。その特殊な形式の採用も、開演前に皆が同意してのことだ。エリザベス、君も含めてね。と訥々と返される。つまり常識的に判断すれば、個人枠の投票で一位になった者が「暫定一位の者」とみなされる。繰り返しますがエリザベス、すべてのルールはあなたの同意に基づいて制定されているのですよ。と、おのみちが小賢しげに念を押す。だから、だから何。ウェンダは私に右頬を向け、眼下に蝟集している観客たちに向かい、俳優めいた所作で呼ばわりはじめる。

 私、グウェンドリン・ウォーターズは、ランキング暫定一位の権限をもって、ここに公演ルールの変更を布告する。Innuendo、Defiant、Shamerock、シィグゥ、93。たびのラテンアメリカツアーに参加する五組は、本公演をもってすべて解散とする。以降は、グループ編成でない個人単位のパフォーマンスのみで興行し、最終的な優勝者を決定する。

 以上。




 できるからといって、やるかよ……掌で両眼を覆いながらイネスは呻く。初めて見たな、こんなに動揺した彼女の姿は……いやしかし、ウェンダ個人の策略でルールごと変更しようったって、それを発効するにはA-Primeの承認が必要なはず。なんでも好き放題に書き換えられるわけでは……と思ってみても、かねてより私とイネスの差配に不満を表明していたA-Primeにとっては、これはむしろ好餌なのか。勝者が揺るがないグループ単位での興行よりも、今までの前提をテーブルごと覆す展開のほうが。まさか彼女は、そこまで見通して──

 船体横に取り付けられたLEDモニタ上で、おのみちが仔細げに頷く。只今、A-Prime代表取締役の承認が得られました。よって、以降のχορός公演は、グウェンドリン・ウォーターズの定める新ルールに従って進行します。

 よろしい。言いながら、ウェンダは群衆のほうへ向き直る。これよりχορόςは個人戦へと移行する。今までユニットとして勝ち得ていた名声も、以降は関係なくなる。つい先程までパートナーだったエリザベスに一瞥くれ、右手を振りかざすとともに、LED画面上に個人投票ランキングが映し出される。首位に輝くGwendolyn Waters a.k.a.DwrDuの脇に、厳しいブランドロゴが添えられている。

 それでは、二位以下の者たちよ。諸君らは今から、自らが単独でも通用する代物であることを証明する必要がある。Dark Dukeは各員が義務を尽くすことを期待する。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る