14 The Family of Black Sheep


 ホモHomoだけにもっと欲しいfor moreってかい? まったく、あんたらはノンケだと、すくなくとも少なくless欲しがるレズLesじゃないとは思ってたけどね。何の話だ。と言うのはデレクだが、我々三人のうち誰が言ってもよかろう。まったく、今日何度めの「何の話だ」だ。イネス、頼むからまともに聞いてくれないか。ちゃんとステレオで聴いてらあ。いや、料理の片手間で聞くような不誠実さなしでということだ、たしかに昼食前に押しかけた我々にも非はあるが。と目線を合わせて話そうとするジョーダンの真摯さも、野放図に開かれた冷蔵庫の扉で撥ねつけられる。あんたらの要求はわかってるよ、ブリテン行くまではあれらがショーの看板じゃなきゃって話でしょ。と片手で複数のソース容器を運びながら言うが、その「あれら」の指す範囲がこちらには一向につかめない。というか彼女の一人称複数の奇怪な用法のせいで、さっきから話が噛み合っていないのだ。そうだがイネス、その「あれら」とはツアーに帯同する全員のことだろう、93とかShamerockとかも含めての。それよりもだ、それよりもまずA-PrimeとしてはDefiantの訴求力を実数値として出してもらわなきゃならんのだ。とデレクが懇々と説いても、グリルに投げ込まれるハンバーグのシズル音が邪魔をする。もうずいぶん出てるじゃん。言いながらイネスは足元の収納庫を素早く点検し、カッティングボードにトマトとパプリカを載せる。メトロノームのように規則正しく軽快な音とともに野菜を刻みながら、最初のメキシコじゃあれら一位だったし、それ以降も得票率は落ちてないっしょ。とうそぶく。だがイネス、この話は何周もしてる気がするが、DefiantはInnuendoの対抗馬として用意されたユニットであって、いつまでもあの英国人たちに話題を持ってかれるようではこちらの面目が立たんのだ。すぐ一位に帰り咲けとは言わんが、そろそろ新曲でもやって新鮮味を与えてくれなくては。と言うと、グリルのハンバーグを裏返しつつ、新曲、か。それもいいね。と、初めて共感的な眼差しをこちらに向けた。

 いいヒントを与えてくれた、パンゲア。じゃあ次のブエノスアイレス公演では、新曲多めのセットリストにしよう。誰にやってもらおうかな……と唇に指を当てて黙り込むのだが、ええと何から問いただせばいいものか。まずパンゲアって何だ。あんたの呼び名。あのなイネス、私にはエドワード・ウェイランドという……それただの本名っしょー、あれにだってMaMaLaBasママラバスってホーリーネームがあんだから、そっちもるっしょ。あんたがパンゲアでー、と私のほうを指差し、あんたがジンバブウェでー、とジョーダンのほうを指差し、あんたがゴンドワナ。とデレクのほうを指差す。ちょうどみっつだ、これでいい。刻んだ野菜を別皿に盛りドレッシングをかけながら満足げだが、何がいいんだ、勝手に名付けるな。と正当な非難を投げざるを得ない。えーだって『ダーク・メイガス』は収録曲のタイトルよっつなんだよ! メイガスなのに! さすがにあんたらも今更バルタザールとかメルキオールとか呼ばれたくないっしょ? だからパンゲア。と、何の筋道を立てているのかさえ不明な理屈が宙に舞う。そしてイネス、聞き間違えでなければさっき「誰にやってもらおうかな」とか言ってたが。うん、93かShamerockか……やっぱシィグゥかな、最近ずっと作曲してるみたいだし。Defiantきみたちの話をしてるんだ! と我慢の限界に達したデレクが声を荒げるが、落ち着きたまえゴンドワナ、無用の火を焚くな。いまにインカの炎の化身incarnationがキッチンのガス管に引火させてしまうぞよ、君たちの会社のせいで。と煙に巻いてしまう。彼女の言うことは前々から要領を得なかったが、GILAffeジラフを入れて以来その傾向がさらに甚だしくなった。

 つまりこういうことだよ、と言いながらバンズを取り出し、カッティングボードのうえに並べはじめる。あれらはもちろん打倒Innuendoのためにいるよ、ただ、独りでやるわけじゃない。言いながら薄切りのベーコンを手早くバンズに乗せる。これまでの三公演で93、シィグゥ、Shamerockの存在は周知になったろうし、と言いながらトマトとパプリカにオリーブオイルをかけ、あとはあれらがクォーターマスターとして、見せ場と球数たまかずを用意してやりゃいい。そしたらいつのまにかー、と言いながら左手にバタービーター、右手に包丁を持ち、ハンバーグをバンズに乗せ、あがっていたヒレカツを切り分け、そして一箇所に集められたドレッシングの容器をバーテンのように捌く。キッチン内に乱雑に散らばっていた具材たちが、ものの数秒でひとところにまとめられ、いつのまにかサイケデリックな彩りのサンドイッチが出来上がっていた。ってな具合に、持ち味が混ざり合うはずだ。君らA-Primeの三賢者も、円卓に集められた至上の素材が調理される様を、見守ってくれさえすればよい。


 いつもの調子で、いやいつも毎回違う調子で、こうしてやり込められる。イネス・ンデュマ。彼女の舌先三寸には実質的なものは何も無いように思われるのだが、会社の意向を連絡するだけの我々の生真面目さは、毎回こうしてなされる。それどころか、「もしかしたら本当にうまくやってくれるのかも」だの、「じゃあ任せてもいいのかも」だの、自身のうちにある怠惰志向というか、物事の主導権を持ちたくない願望を手玉に取られてしまうのだった。それでは、パンゲア、ジンバブウェ、ゴンドワナ。この珍妙な名で呼ばれるのさえ、最早さほど抵抗がなくなっているのだから恐ろしい。カッティングボードのサンドイッチをつまみ、強いバジルの香気を目の前に差し出し、そして人差指を立てて言うのだった。

 ひとつどうだね?




 できた、けど、さあ。うん……ちょっと、できすぎちゃったかもしれないね。アルバム二枚とEP一枚くらいの分量だよなー。それに加えて今まで揃えた分もあるわけだから、そろそろまとめに入らないと……と言うヤスミンの表情が渋面じゅうめんよりもむしろ苦笑だったのは、ここ数週間のあたしらの作曲ペースの尋常でなさに遅れて気付いたからだろう。ペルーでのあの件から、あたしらは双方のあいだにわだかまっていたどんな些細なことでも取り上げて再検討していった。ベースラインが動きすぎじゃないかもっとシンプルな進行にすべきじゃないか等の実作にまつわるタームから、洗い物は溜めるな靴は揃えろ脱いだ上着はハンガーにかけろ等の生活のレベルにいたるまで。そんな数日を経た結果、あたしとヤスミンとの意見の相違は衝突よりもむしろ折衝に転じていった。そのフロウに導かれるまま三週間ほど過ごしたが、このまま新作を産み続けるとまたあの陥穽にはまってしまう──ヤスミンの誇大な構想に歯止めが掛からなくなり上滑りに終わる──可能性が大いにあった。さすがに、ここらで区切りをつけなきゃいけない。

 とりあえずは、リードトラックを決めようか。とヤスミンが言う。うん、次のセットリストに入れるのでも将来的に作品出すのでも、これが出色しゅっしょくって言えるような曲だろ。そう。『第七天』のときは、ここで失敗したもんね……と眉に暗いものが差すので、心配ないって、今回はコンセプト出しからふたりでめっちゃ検討したわけだし。となだめてみる。うん、と小さく引き取りながら、ヤスミンは画面上に散らばったオーディオファイルをめつすがめつしている。ハン。なに。手伝ってもらう、っていうのは、だめかな……他の誰かにってこと、93とか? そうだけど、今回は……Defiantのふたりに意見もらえないかな、と思って。と言うヤスミンの口吻は、一ヶ月前ならもっとためらいがちだったろう。Innuendoと同格の、現状二位のふたりに直接助力を乞うなんて、かつてのヤスミンなら考えもしなかったろう。でも、今ならそれができる。あたしはただ、パートナーが差し向けてくれたフロウを促しさえすればいい。Defiantか、意外だね。意外でもないと思うよ、最近の私たちの曲はベースの比重が大きくなったし。でもまだメロディを重視しすぎる傾向が抜けないから……と言葉を詰まらせるので、ここでファンキーなやつらのアドバイスがあれば、突破口を見出せるかも、か。と代わりに引き受ける。ヤスミンも微笑して頷く。いいね、じゃおのみち経由で連絡とってみようか。おのみちですが。おうっ、今さ、Defiantのどっちかヒマそうじゃないか見てきてくんない? いや、どっちかじゃなくて……ふたり一緒がいいよ。とヤスミンが言うので、じゃあイネスとゾフィア、どっちも空いてないか訊いてきて。と言い直す。はい、といつも通り無骨に引き取ったおのみちが消えるのを見届け、傍らのヤスミンに視線を向ける。なに。ずいぶん積極的になったねえ、ヤスミン。この機会にDefiantのふたりから学ぶのか。いやそんなことまで考えてないよ、でもあれだけ正反対に見えるふたりだから、私たちの曲にも違った感想を持つのかなって。ふたりとふたりで倍々にー、ってか。両手の二本指をカニのように向けると、そういうこと。と微笑する。実はね、調べたことがあるんだ、あの二人のこと。Defiantの? そりゃあたしもプロフィールくらいは読んだけど。それ以前に、あの二人が組むきっかけとなったオーディションのこと。その過程をリアルタイムで追った英語圏の記事がたくさんあったから、検索できる限りは読んでみたんだ。さすが。で、どんなん。うん、始まりはこんな感じでね……




「エル・パソのカルチャーに傾倒するならエル・パソを離れなきゃいけない」と、マーズ・ヴォルタの二人が言っていた。これは「預言者は故郷にはれられぬ」の今日こんにち版かもしれない。出身地でシカトされたバンドがひとたび海外ツアーに出てみたらドカン、なんて例はいくらでもある。そういえばビル・ヒックスもまずイングランドで人気が出たんだっけ。テキサンの性向のひとつとして、「故郷を愛しながらもその内部において自らを異物として見出さずにはいられない」ってのが挙げられると思う。メキシコから独立してアメリカに編入されたにすぎない州だから、もともと異物ではあるわけだ。不服なる孤星Lone Star、その南端メキシコ国境のエル・パソともなれば、あらゆる意味での異物たちがたむろするのも自然なことだった。他と比して異なることだけが共通項のような破落戸ごろつきの群れ。

 そんなやつらをまとめるのがあれの仕事だった。仕事といって全然金にはならなかったが、リズム・ピッグスを神と崇めるパンクスを平均年齢五〇歳以上のジャズミュージシャンユニオンとブッキングしたり、コルタサルの朗読会にバロウズの成り損ないみたいな宿無しジャンキーを大量に投入してソニック・ユースもかくやというノイズギターを延々と演奏させたりするのは、それはもう楽しいことだった。そんなことばっかやってたもんだから、あれの周りにはなんか面白いことしたいやつらが集まり、母ちゃんの経営するバーバーショップを拠点としてアーティストたちのサロンが形成されはじめた。そいつらのヘアスタイルも全部面倒を見て、しっかり店に金を入れてやってもいたわけだから、母ちゃんも文句は言わなかった。

 実際、贔屓の引き倒しでなく、あのユニティはエル・パソにおける真の意味でのカウンターカルチャーを花開かせたと思う。あれらが常に話題にしていたのは、「アメリカにおいて最も近い『他者』であるはずのテキサスが、なぜこれほど多くのレイシストやセクシストを抱えているのか」ということだった。いわゆる「アメリカ南部」のアティテュードがまるでテキサンの本質のように錯誤されている現状に、皆やるかたない不満を抱えていた。マニフェストディスティニーだのメキシコ移民は出ていけだの、そんなのは貧乏くさいホワイトトラッシュのたわごとにすぎない。ここは本来アメリカでもメキシコでもない、真に独立した、第三の道を行こうとする奴らの居場所だったはずだ。という問題意識に則り、音楽・文学・絵画・映画あらゆる媒体での主張を行う一団が、やはりいつのまにか──あれのやることはいつだって「いつのまにか」なのだが──結成された。 N’Dumas’. バーバーショップの名をそのまま採った一団は、修辞学的にも興味深い特質を備えはじめた。なぜなら N’Dumas’ とはまず「ンデュマ家」の意であり、複数形所有格で「ンデュマたちの」を意味してもいるし、 N’ を and の略記と解釈すれば「そしてデュマたちの」とも読めたからだ。この絶妙にマルチプルなネーミングにより、あれを頭目とするアーティストの一団はダルタニャン物語めいた結束感を共有した、と思う。新たなテキサスを到来させるための、年齢も人種も性別も関係ない集団性。キャッチコピーもずいぶんつくったな、 “NEW TEXAS or NOW HEX US” とか、 “No USA without IMMIGRANTS” とか。それらのクリエイションも全部、あれ以外のやつらに任せた。人間には各々の特質があり、どのフロウに乗せるべきか見抜きさえすれば創造性は発揮される。あれはあくまで仕事を差配することにのみ務めた。表立って活躍するスターとは別に、腰を落としてどっかり構えたリーダーが居なきゃいけない。この鉄則はもちろんジョージ・クリントンから学んだことだ。彼の個人名よりも P-FUNK という謎めいた集団性のほうが大事なわけだ。そんな先人の顰みに倣い、あれの N’Dumas’ も個人名によらない集団的なムーヴメントとして伝播しはじめた。最もウケたのは、一人称として常に複数形を使う、それもフランス語の oui に発音を寄せた wui を用いることだった。 wui を使ってさえいれば、メールやブログの文面でも N’Dumas’ の一員だとわかるって寸法だ。この文彩の妙がウケたのか、 wui はエル・パソ以外でもオースティンやヒューストンなんかの学生の間でも好ましく用いられるようになった。

 そんな調子で楽しく暮らしつつも、なんせ西暦二〇一九年のアメリカだ、どうしても暗雲らしきものは視野から離れない。テレビにしてもネットにしてもあらゆるニュースにうんざりしはじめていた夏、 N’Dumas’ の仲間が一枚のフライヤーを持ってきた。「χορός第二回開催決定 出場者募集中」。詳細を読んでみると、東南アジアの会社が北米で展開する音楽オーディションらしかった。アメリカ全州から募集をかけ、最終的にはアメリカとロシアからひとりずつ優勝者を選出し、それによってユニットを結成する。前回の優勝者たるイングランドのユニットを打倒するために……これだ! と思わずにいられなかった。イングランドのやつらと闘うためのユニットをロシア人と、それも東南アジア企業の主催で。という一筋縄ではいかない趣向にハートを射抜かれたのだ。このオーディションこそあれらの理想を撒布するに相応しい場であると考え、 N’Dumas’ 一同で音楽を表現媒体とする者には全員参加を呼びかけた。もちろんあれ本人も含む。

 しかし、ロシアか。政治的にも文化的にも、近いようで遠い国だ。あらゆる分野の藝術──とくに音楽と文学と映画──で優れた国だという認識はあるが、ソビエト連邦解体以降のロシアについては判断材料が少なかった。むしろプッシー・ライオットの件とか、ウェントワース・ミラーがロシアの映画祭からの招待を断った件とか、そういった話題から容易ならざる反動の時期にあることは察せられた。ロシア連邦。今回のオーディション参加に際して、かの国であれらと同じく表現に取り組んでいる者と知り合うことができれば、それは何にもまさる収穫になると思われた。




「なんだこれは、ロバの尻尾で描かれた絵かね」と抽象画を嘲笑したフルシチョフに対し、前衛主義のアーティストたちが事を構えていた六〇年代初頭。私の母は共産圏内のポーランドに生を受けた。ポーランドときいて何を連想するか、によって個々人のある種の文化的傾向が窺い知れはするのだろう。常識的なことでは一八世紀の分割から一次大戦を経て独立さらにナチスとソ連による苦艱の時期をけみして冷戦に至るまでの近代史だろうし、クラシック愛好家ならショパンとかペンデレツキとかの名も挙げられるだろうし、その辺の興味関心すらなく無神経なだけのエスニックジョークを半笑いで投げてくる輩は、まあ無視してよろしい。しかし、東西陣営問わずジャズを学科として取り入れた欧州最初の国がポーランドであることは、ほとんど知られていないのではあるまいか。まさに母は、八〇年代において地理的特殊性の恩恵を受けた。声楽を学んでジャズボーカリストとして出発し、無限に存在していたのであろうコメダのフォロワーの一人と恋に落ち、男女ふたりの音楽ユニットとして東側を歴訪したと。そして九〇年代を迎えソ連が崩壊し、母にとっての祖父──私にとっての曽祖父──の暮らしていたサンクトペテルブルクに念願の帰還を果たしたと。私が伝え聞いているのはそれくらいだ。二〇世紀初頭のペテルブルクで暮らしていた曽祖父については、あまりに縁遠くあずかり知るところ少ない。ポグロムを逃れてドイツに移り、そこで娘を三人もうけたが、ワイマール共和制が終わりファシストが跋渉するとともにポーランドに移り、そして多くのユダヤ系ポーランド人が強いられた帰結をともにした。その曽祖父の家系でホロコーストを生き延びた唯一の娘が私の祖母である。収容所の話なんてうんざりと聞きたがらなかった母の代わりに、私が一族の歴史の語り部の膝下しっかはべることになった。

 そんな娘も長じ、母と同じクラクフ音楽アカデミーに留学する次第となった。あんたも音楽やるなら楽理はもちろん作曲と演奏もできなきゃだめ、そうじゃなきゃ若いうちにていよく使い棄てられるよ、女を「ミューズ」と呼ぶやつらなんてろくなもんじゃないんだから。と苦々しげに言うものの、まさに母を「ミューズ」とした父との日々を回顧する言葉は瑞々しい歓びに彩られていたのが、今思い出すとなんだか可笑しい。

 母の助言通りジャズ科に入学し、テナーサックスの演奏と音楽理論を専攻した。在学中からポーランドの音楽シーンにどっぷり浸かるようになり、瞬く間にそのアメーバ的な流動性の虜となった。ジャズはもちろん、ファンク、ノーウェイヴを経たパンク、さらにはクラブカルチャーと融和した音源制作まで何もかもが雑多に混ざり合った様相は、ようやく思春期を終えたばかりの私にとって知的鉱山のように思われた。母にとってそんなシーンはジャズの本流を見失った美学的堕落として映ったらしいけども、ジャンルを横断する混血性こそががたく思われたのだ。

 クラクフでの学課を終え、卒業後にはペテルブルクのクァルテットに参加しつつ、自身のプロジェクトも主催した。 Klepsydrąクレプシドラ 、現代音楽とジャズ双方の領野から無調性へと接近する試みは、主に東欧のシーンで評価を得た。生演奏よりもレコーディング音源を表現媒体としたのも大きかったのかもしれない。楽器の演奏は仕事で、作曲は自身のプロジェクトで。と綺麗に棲み分けたこともあり、私の音楽活動に不全らしきものは無いはずだった。が、なんだか足りない。あんたもうすぐ戦争が近いってのにおとなしい音楽やってどうするね、そんな表現じゃ闘えないよ、と焦点の定まらない批判をよこしてくる祖母はともかくとして、物足りなさは否めなかったのだ。母から譲り受けたジャズのレコードや伝記や理論書、そこに祖母から譲り受けたユダヤ系作家──とくにカフカとシュルツ──の著作を加えても、私のうちには決定的な何かが欠けている、ように思えてならなかった。なんだろう、専門的に勉強した学科でも一族から継承した知恵でもない、私に足りていないもの。それはたとえば、クラクフでバークリーの学生を迎えてセッションを行ったときのような、あの……

 他所の血、だろうか。そうだ、祖母と母がやって私がまだしていないこと、それは他所の血を混ぜて何かを産むこと。そりゃ結婚さえしていないのだから当然だが、もしかしたらそれは──音楽でもできるのでは。自分にはないものを混ぜて新しい何かを。そうだシュルツが表明してやまなかった女性がらみの劣等感、あれは一体なんだろうと思っていたけど。自身では子どもを産むことができない、その劣等感が藝術家をして表現に向かわせる、そんな機微もあるのだろうか。ならば私は、それをもっと──フロウさせ、グルーヴさせればいいのでは。まさにそれを行うべきでは、祖母や母の時代とは比較にならないほど──今のところは──表現の自由が保障されている、この娘の代において。




 いやあ惜しかったってえ。でもよおあれだけ落とされるっておかしくねえか、イネスとやってることほぼ同じなのによお? 多分あれじゃん、今回のオーディションのきっかけが女性二人のあれだから、最終的にこっちも女で揃えたいんじゃん? えー不公平だろおそれ。仕方ないさ、どんなオーディションにも傾向はあるんだし。でもよくやったよジョーイ、伝わる奴には伝わったはずさ。と、楽屋の片隅でハーコーな装いをしたパンクスを慰めている、その背中に話しかける。あの。おっ、と小さく声を漏らして振り返る。なに、あっ今回の参加者? と言うので、うん、さっき終わってね。と返す。余裕っぽいってことは上がったんか。まあね。ってことは決勝であれと当たるんか。いや、こっちはロシア側の出場だから、あなたと競うことにはならないでしょ。あっそうか。と通り一遍の会話を交わしながら、目の前の容貌を眺める。すっごい派手だよね。そりゃショーなんだからさあ、こんくらいしないと。と一筋ごとにゆわえられた七色の髪を梳いてみせる女性に、いやイネスは普段からこんな感じだろ。と傍らで落ちてたパンクスが言う。まあねえ。と笑うその顔に、イネス・ンデュマ、だよね。と問うてみる。おうよ、正確にはソル・フアナ・イネス・ンデュマ。なーに、既にそっちでも有名? まあね、 N’Dumas’ はロシアでもネオダダとかの潮流で話題になってるし。の言葉に二人とも喰いつき、ほらなージョーイ! やっぱヨーロッパのほうがちゃんと伝わるんだよあれらのやってること! えーなんで? 知らないのか? ダダってそもそも一次大戦中に……とこちらを置き去りに話しはじめるので、ふふっ、と笑みが漏れてしまう。今回のオーディション出場者、相当な数があなたの軍団だったって話だけど。んー数撃ちゃ当たると思ったんだけどね、結局決勝まで残ったのはあれだけだったなー。そっか。でも N’Dumas’ の仕掛人と会えて嬉しいよ。私はゾフィア・クロソウスカ、よろしく。差し出した右手を、おうっ、と握ってくれる。よかった、ちょうどそっち側の人間と話したかったんだ、決勝まではすっぱり分かれてるらしいし。たしかにね、私もアメリカの出場者と交流できるのかなって思ってたんだけど。いくら三日で終わるオーディションとはいえ、はるばるロシアからここまでって大変だったっしょ。そうでもないよ、外国まわるのは慣れてるし。確かに英語もこなれてるしな。まあ、うちの家系は語学ができなきゃ生き残れなかったからね。家系って、つまり……ユダヤ系か。そう。ンデュマ、はラテン系? おう、父ちゃんがメキシコ系で、母ちゃんがアフリカ系。その合作として生まれたのがこのイネスさ。と胸を張る姿に、そっか。じゃあ私たち、どちらも国では他所よそものだね。と言うと、他所よそものー!? と柳眉が釣り上がった。あのなあ、そもそもうちではみんな他所よそものなんだ、アフロやラティーノだけじゃない! アメリカで他所よそものじゃないとしたらそれはネイティヴアメリカンだけだ! と語気を強めて迫るので、わかってるよ、そのうえで言ったの。となだめてみる。まったく、そのへんのチャラチャラしたやつが言ってたらもっと怒ってたぞ。ごめんって。でも不思議だよね、みんなどこかから移ってきたには違いないのに、いつのまにか他所よそもの呼ばわりする側とされる側に分けられる。そりゃあ、国がある限りはな……と、ふいに黙りこむ。どうしたの。ゾフィア、その右手に持ってるやつ。ああこれ、とケースを持ち上げる。楽器できんの。まあね、テナーサックス。今回のオーディションもそれで? 予選は歌でやったけど、今回は演奏もいけるってことを見せたくてね。それがどうかした? いや……とまた数秒間沈黙すると、静かに唇を開き、あんたとなら、いけるかもしれないな……と小さく漏らした。ゾフィア、このあと時間ある? あるっていうか、ホテルの部屋に戻るだけだけど。じゃあ、と、左手を引かれて走り出している自分自身を発見する。ちょっと来てくれ! え、何。ほらジョーイもケツ上げな、戻って作戦会議だ! え、だってもうイネス以外いないだろ? と腰を上げながら言うパンクスに、わかってないなー、と遠巻きの一言を投げ、そして目の前の私を見据え、微笑とともに言った。

 あれらは新入りを迎える。 N’Dumas’ 創設以来初の、ロシア人メンバーだ。




 で、これがそのときの映像。おお、残ってるのか。『Funky Presidenta』……え、この曲ってあれじゃん、『The People』? そう。ザ・ミュージックの曲を下敷きにして、イネスがラップ、ゾフィアがサックスでったの。うわー、あのギターのフレーズってサックスにも合うんだな、グリッサンドのニュアンスもちゃんと出てるし。でしょう、この決勝ってもともとUSA側とロシア側でひとりずつ優勝者を選出する予定だったんだけど、この二人がいきなり一緒に出てきてパフォーマンスしたの。もちろんルール違反なんだけど、二人で出てくるって発想自体が最高、既に出来上がってるものをこれから作る必要はない、って審査員長のドゥさんが大興奮して、結局イネスとゾフィアが優勝。すげー……大番狂わせっていうか、ルール自体変えちゃったわけだ。こういうこと考えちゃうあたりに、彼女らの特質があるのかもね。

 失礼します。と、おのみちが帰ってくる。お、どうだった? ただいまお越しになられると……あ、いらっしゃいました。言うとともに扉が開く。Wassup シィグゥ! Wassup Defiant! すぐさま立ち上がったハンがイネスと拳を付き合わせる。来てくれてありがとうございます、これからしばらく大丈夫ですか? ゾフィアのほうへ差し向けると、うん、私たちもちょうど昼食を終えたところだったからね。と微笑み返してくれた。よかった、ちょうどおふたりの映像観てたとこだったんですよ。映像って、お、『Funky Presidenta』か! なんかすでになつかしいなー、これ前日に超特急で仕込んだんだ。ねえソーニャ? はは、そうだったね。なんでこの曲だったんですか? と率直に問うと、このネタ、『The People』は歌詞らしい歌詞の無いフックだから、アメリカとロシアどっち側の観客にもウケると思ったんだよ。とイネスがよどみなく答える。何より、イントロのキラーフレーズが管楽器にもぴったりってことで……とゾフィアが述懐すると、そう、そこなんだよ! もともとロックのギターフレーズだったのがこんなクールに聞こえるんだなーって。とハンが興奮気味に付け加える。ぺぺぺれっ、ぺぺぺれぺれーっ、ってな。グリッサンドの音符を強調しながら当て振りするイネス、に微笑を向けるゾフィア。私がテナーサックス持ってるのを見て、これならいけるって、二人で組んだ……なんて、いま思えば奇策すぎて呆れるなあ。正攻法じゃなくても勝てばいいんよ、そして観客をアゲさえすれば。アゲさえすれば、か。たしかに、既存の曲を使っても、そこに新しい解釈を混ぜさえすれば……しかもイングランドのバンドの曲をアメリカとロシアのふたりで、って、もはや混ざりすぎててよくわからない。はは、確かに。でもネタを選んで混ぜてアゲていく、ってのは……そう、これぞヒップホップ、ってことさ。

 さて、とゾフィアが両掌を叩いて切り出す。おおかたこんな感じでしょう、作曲は十分すぎるほど進んだけど、どのネタで勝負すべきか迷ってる……みたいな。そうそう、まさにそのアドバイス欲しくて呼んだんだよ。とハンが身を乗り出す。だいたい目星はついてるのか? とイネスが問うので、あっはい、とりあえず二人で選んだのはこの曲……DAWのコンソール画面を立ち上げる。とりあえずこの曲をリードトラックに仕立てようと思うんですけど、まだ肝心の何かが足りてなくて……一回通して聴いていいかな。はい、もちろん。


 おお……えらい緻密なコードだなー。でしょー、でもこれベースとテンションいじってるだけで基本は王道進行なんだよ。たしかに、でもサビの転調もあまり聴かない感じで斬新だね、F#マイナーから半音下のFマイナーに、って。えっ、一回聴いただけでわかるんですか。ある程度はね。すごい……絶対音感? じゃなくて、ソーニャの場合は「メガ相対音感」よ。なにそれ。ははっ、楽曲分析は学校で習ったから、繰り返し実践すれば耳が慣れるってこと。へえ……

 で、この曲だけど。はい。何かが足りないって言ってたけど、たとえばどんな要素? えっと、メロディとハーモニーはかなりうまくできたと思うんですけど、ちょっとグルーヴのほうが欠けてるっていうか……ヒップホップの要素が、って言った方が正確なんじゃん? えっ? 八〇年代シンセポップとヒップホップの融合、ってのがシィグゥのコンセプトなんしょ? あっはい、そうです。聴いた感じだと前者の要素はかなり出てるけど、後者が忘れられてんじゃん? あ、たしかに……そういえばこの曲のヴァースまだ書いてないわ! そうだ、ボーカルワークに専念しすぎてラップが添え物になってた。あっぶねー、そこ忘れるとこだったよ! でもどうしよう、この構成で新たにヴァース入れたら不自然じゃないかな……

 そこは、と言いながら画面をスクロールするゾフィア。このフレーズを使ったらいいんじゃない。どれ……あ、コーラスのハモリのとこに入れてたやつ? そう、このキメはすごくいいと思う。おお、あれもそれキラーだと思ってたんよ! これ一箇所でしか使わないの勿体ないだろ? だから、言いながらイネスはベースとピアノのトラックをコピーし、コーラス末部にペーストする。このケツの方をいじれば……ソーニャ、どうやる? ええとね、キーボード借りるね。はい。鍵盤でフレーズをなぞりながら、新たな音符を入力していく。ん、いい感じじゃん! それに合わせてビートも打ってみよう。おう。促されるまま、サンプラーの前に椅子を移したハンがキックとスネアを入力する。ループさせて……おー、これだ! まさかこのフレーズが使えたなんて。ハン、リリック書いてみる? そうだね、何小節くらいやろう……あちょっと待って、このヴァースやってもコーラスに戻らなきゃいけないじゃん。それは大丈夫、もとのフレーズの末尾にあるコードで終止すれば。あっそうか、それでキマるか。このパッシングディミニッシュの使い方すごく良いね。でしょー、あたしも最初つくったときうまいなーと思ったんだよ! じゃあここで戻るとして、一六じゅうろく小節ぶん書いてみようか。よーし……


 いつのまにか、決定打に欠けると思っていた私たちの曲が、新たな色を纏っている。しかも、私たちが書いたにも拘らず真価に気付けずにいたフレーズを活用して。まさか、同じ曲を他の誰かに聴いてもらうだけで、ここまで斬新に生まれ変わるなんて、まるで……魔法みたいだ。

 これでしょ、これでしょー! ルーズリーフを握りしめて立ち上がるハンに、これだろー! とイネスも調子を合わせる。うん、早速録ってみたらいいんじゃないかな。ヤスミン、ディレクションしてあげたら。あっはい、じゃあハンブースに……と言う前からもう防音扉を押し開けていた。苦笑しながら、それじゃハン、これは二回目のコーラスの直後だから、敢えてメロディっぽいアプローチは無しでお願い。そしたらコーラスとの差が際立つと思う。と指示すると、オッケー、とトークバックから声が返る。コーラスのメロウさと違って、ここはタイトにキメたほうがいいってことだよね。そう、むしろシィグゥとして活動する前のハンに寄せたらいいと思う。できる? できるって誰に訊いてんの、あたしの独壇場でしょ! マイクホルダーを調整しながら笑う顔を見て、私の中で何かが線を結ぶのがわかった。よし、じゃあさっそく録ってみよう。おう!


シィグゥ』。えっ? タイトルだよ、この曲の。ああ、まだ決めてなかったけど……セルフタイトルか、いいじゃん! うん、それくらい説得力のある曲だと思う。Defiantふたりの言葉を受けて、いい、ヤスミン? と眼差しを向けるハン。彼女ら二人の助言で完成に漕ぎ着けた、しかし確かに私たち二人のものである曲。取り下げる理由など、あるはずがなかった。




 おいこの前の約束は何だったんだ、結局新曲も何も無かったじゃないか! スマートフォン越しに声を荒げるパンゲアに、なに観てたんよ、ヤバかったろシィグゥの新曲? 投票でも四位に上がったわけだしさー、と返す。アジアからの泡沫候補の順位が上がったからってそれが何だ、君たちDefiantをアピールしてくれって何度言わせたら気が済むんだ! なあパンゲア、君いくらなんでも会社の意向ばっか気にしすぎなんじゃないか? 大局的な視点を失ってないか? 恋に臆病になってないか? なん、おい適当なこと言って言い逃れるのは……心配ないさ、きっとこのツアーが終わる頃には、君らもあれの狙いが理解できてるはずさ。とだけ言って切る。

 あーまったく、これじゃせっかくの一服が不味くなる。なんて言ってた? 大したことじゃない、ほいソーニャ。ジョイントを回し、テキーラのボトルとショットグラスを卓上に置く。それじゃ、シィグゥのブレイクスルーを祝して! Salud! Salud! ……あーけっこう効くなこれ、と笑うハンと同時にグラスを置く。ブレイクスルーといっても、ひとつ順位が上がっただけですけど……苦笑するヤスミンに、でも初めて93に勝ったわけだから意味あることだよ、一杯どう? とソーニャがウォッカソーダにライムを搾る。あ、いただきます……あっちも一本どうだ? と回ってきたジョイントを咥えるハンのほうを指差す。さすがにあれは……ただの草だよー? と笑いながらソーニャはショットグラスのウォッカを飲み干し、ヤスミンは苦笑を浮かべながらグラスを呷る。うぇ、あゎ。どうした? ぁぃゃ、思ったより強いですねこれ。水みたいなもんだよー。ソーニャ、いつもウォッカとソーダどれくらいで混ぜてる? ちょうど半分ずつ。ショットに二杯目のウォッカを注ぐソーニャを眺めながら、あの、次からは自分で割ります……とソファに腰を沈めるヤスミンの頬がすでに赤い。

 改めてだけど、ほんとありがと。ん? まさか今回ここまで協力してくれるなんて。いやいやこっちこそ、シィグゥとは前々から共作してみたかった。え? 君らとは考えてることが近いと思ったんだ、あれらの『Funky Presidenta』は観たろ? うん。あれであれらが打ち出したのは、一見無関係に思えるネタを混ぜ合わせて、国籍や世代を隔てた文化を連結する、そうして新たなものを生み出す、ってテーマだ。つまり……あ、あたしの『Sister Blaster』と同じ! そういうこと。でさハン、ヤスミン。ん。はい。これからあれらは、そういう連帯を、この船の奴ら全員に広げようと思ってるんだよね。全員? うん。93とShamerock、もちろんInnuendoも入れた全員で、国籍も人種も関係なしにブチアゲる、そういう舞台を実現させる。それがあれらの本当の狙いなんだ。本当の……それ、いま言っていいことなんですか。そういえばまだ93にも言ってなかったね。あははそうだ、君らに最初にバラしちゃったな。まあいいやいつか知れるんだし。

 いやーしかし、もうブエノスアイレスまで来たかあ。ラテンアメリカ巡りも終盤だね。観光する時間あったらよかったのになー、街の写真撮りたかったなー『春光乍洩』みたいな。なんそれ? ウォン・カーウァイの映画だよ、ブエノスアイレス舞台の香港映画。え、それ観たことあるかもだぞ……あれか、『Happy Together』ってタイトルの? 英題それだっけ? たぶん。GILAffeジラフでも作品名は自動変換されないからなー。ウォン・カーウァイならあれもいいよ、『花樣年華』。BTS? いや映画のほうが先にあって、防弾バンタンがそれコンセプトに使ったんだよ。そうなんだ……英題は? ちょっと待ってサントラ入れてたな……あった、『In the Mood for Love』か。おー、サントラもラテンっぽい。でもやっぱ組み合わせが変なんだよ、梅林茂の曲を使ってるんだけど、その曲は鈴木清順の『夢二』のために作られたやつで。さらにトム・フォードが『シングルマン』でヒッチコックの『めまい』のサントラと混ぜて使ってて……あははは、めちゃくちゃだな。でもいいんだよ、それでいいんだ。どこで生まれたのでも、つながりが見えさえすれば持ってきて混ぜる、そしてまた新しいものが生まれる。そういうこと。そうだテキーラとウォッカ混ぜてみようかな。ヤスミンもる? いや遠慮しとく、というかもうお酒は……えーもう飲まないの? いいよ、飲みすぎると身体に障るし……えー酒って野菜だよ? 麦とか蘭とかじゃがいもとかだよ原料? ぶはは、いいなそれ、酒は野菜。酒は野菜! ハッシュタグ「#酒は野菜」。 野菜飲みなよヤスミン、くさかんむりみっつもあるんだし。それは関係ないから。くさかんむりって何? えっとね漢字のパーツの一部で、ヤスミンの名前にはそれがみっつついてて。へえヤスミンそんなに草好きなの? あと一本あるから吸ってみる? だからー……




 おいーどうしよう最下位だぞわたしら! 今更慌てるようなこと。いやーでも切実じゃん、つい先月まで四位だったのに! お前らは別に優勝狙いってわけじゃないだろう。そうだけどさーヒメ、ちょっと協力してよ次のライブまでに! 今のセットリストで十分だと思うけどな……あ、教授キョウジュきたっす。おつかれー、いやーびっくりしたよいきなり降ってきて。出航直前までミート&グリートなんてな……やっぱファンとは直接ふれあいたいじゃん。うわーみてください天気予報、これから三日間ずっと雨っすよ。まじか、ツアー始まって以来初めてじゃん。ああ、航路には支障ないだろうけど……なんだか、ひとなみありそうだな。


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