貴方の気持ち

生焼け海鵜

終わり

 いつからだろうか。恋愛とは無縁だった僕が人を好きになってしまっている。

 彼女の名前は雪。僕の隣の席の子だ。元気かつ丁寧で、メリハリがある。男子の中でもそこそこ人気で、すぐに取られてしまうのではないかと心配になってしまう。が、当の本人は僕と同じく恋愛に興味は無く、告白したとしても尽く切られたと言う話も良く聞く。

 僕の恋は、片思いだけで終わってしまうのだろうか? 彼女の性格、声、行動全てが好きなのに、なのに片想いで終わってしまうのだろうか? 誰かが言った、初恋は実らないと。本当にそうなのだろうか? 

 疑問が膨らんでいく。

 夏休みの部活。僕は休憩時間、木陰に腰掛け彼女の事を考えていた。

 セミの音が遠くに聞こえるほどに自分の世界に入っていく。彼女が今何をして何を思っているのか。それが知りたかった。僕は彼女を思い描く。

 僕の中にできた彼女だ。楽しそうに笑い友達と遊んでいる、そんな姿が見える。ずっと見ていたい、そう思った。

「集合」

 その一言に現実に引き戻される。

 セミがやかましく鳴いている。蒸し暑い空気が肌を撫でる。

 そうか、所詮は妄想に過ぎなかったのか。

 僕は、練習をしながら自分の世界に入ろうとしたが少し無理があった。木陰の時と違って思い描けない。これっぽっちも描けない。

 僕はただ、練習時にぼーっとしていた人になってしまた。

 夏休みも終わり授業が再開した。僕は思い切って、「好きだ」ときた紙っぺらを彼女の机の上に置いておいた。彼女は紙に気付くと手に取り何かを呟いた。そして、二つに破った。四つに破った。そのままそれを持って歩き出した。たどり着いたのはゴミ箱。彼女は手に持った紙をゴミ箱に捨てた。

 僕は全て見ていた。人がどんな気持ちで書いているのかも知らずに破り捨てた。

「何かあったの?」

 僕は尋ねる

「なんか紙くずがあったから捨ててきた」

 そうはっきり言った。

 僕の気持ちは紙くずと等しいのだろうか?

 そう思った時、僕の心は紙のように破られてしまった。

 それなのに、彼女の事が好きだ。

 僕は彼女に向かって笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

貴方の気持ち 生焼け海鵜 @gazou_umiu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ