第61話 [悪魔との契約]




 四時間目の体育も終わったので俺たちは教室で着替え、早速順位を見に行くことにした。

 順位表は廊下に張り出されるようだ。



「あれか」



 俺と唯咲、朔と狂吾で見に行っていた。



「き、緊張しますね……」


「な……やはり静音はすごいな……」



 順位表の一番上にいるのは静音であった。

 三教科全て百点。

 だが美疾は一番下にいた。ご愁傷様。



「む、俺もいたな。……やはり数学が……」



 俺の順位は四位であった。

 英語と国語は百点だったが、数学は八十点であった。

 やはり数学は苦手だ……。


 狂吾のやつも探してやろうと思い探したら俺より下にいた。



「バカな……バカなバカなバカな!ありえない!!」



 頭を両手でガリガリと掻き、瞳孔は開いていた。



「おい狂吾、この勝負は俺の勝ちでいいな?」


「いや、いいや違う!お前はカンニングしたんだろ!!チクってやる!先生に言ったらすぐにわかるはずだァ!!」


「……面倒だな……」



 俺は胸ぐらを掴まれ、そのまま職員室に連れていかれそうになっていた。



「おい師匠に何を———」



 唯咲と朔が引き止めようとしていたが、俺は二人を“大丈夫だ”という意味を込めたジェスチャーをし、こっちに来させないようにした。


 【異世界ワールド言語理解トランスレーター】はカンニングではないよな……?



〜〜



「先生!こいつがカンニングをしました!」



 俺たちが職員室に着くと、狂吾が早々にこんなことを口走っていた。

 先生が集まり、話を聞くことになった。



「えーっと……狂吾くんはなぜカンニングをしたと思ったんだい?」


「こいつがあんないい点を取れるわけがない!それが証拠です!!」



 先生たちは困ったような顔をしていた。

 まあそうだろう。この高校は他の高校よりもレベルが数段も高い。カンニングなど見逃すわけがない。



「隣の席の朔くんは強也くんより点数低い、前の子も強也くんより点数が低かった。つまり強也くんの実力だよ」


「そ……そんな……そんなのありえません!!」


「まあまあ落ち着いて、負けて悔しいかもしれないけれど次があるから!高め合って行こう!ね?」



 先生たちはなんとか穏便に済ませようとしていた。

 そしてなんとか言い包め、この話は終わった。



「む?静音ではないか」


「なっ!?し、静音ちゃん……」



 後ろを振り向くと、腕を組んで壁にもたれかかり、アホ毛がギザギザとしている静音の姿があった。



「……ここまで阿呆だとは、思ってなかった……。強也に、関わらないで……!」



 どうやら俺のために狂吾に怒ってくれているらしい。



「う、嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!ゔぁぁああああ!!」



 狂吾は発狂しながらこの場を去った。



「強也……大丈夫……?」


「あ、ああ、大丈夫だ……」



 だがなんだ……?胸騒ぎが……。

 嫌な予感がするな……。



〜〜



「あ!師匠大丈夫でしたか!?」



 教室に戻ると唯咲が飼い犬のように俺に駆け寄ってきた。



「大丈夫だ。弁当を食うぞ」


「はい!」



 俺たちは弁当を食べ、そのまま五時間目に突入した。

 狂吾は早退したと聞かされた。


 授業を残り二時間終わらせ、俺たちは家に帰ることにした。

 朔は部活をするためにダッシュで出て行った。



「ねぇねぇ、今日流星群のピークらしいよ〜?」

「まじぃ?今日見に行っちゃう?」

「賛成賛成!」


「———星が降る日か……」



 クラスの女子たちの話題が耳に入った。


 前世でも星が降る日はよくあった。

 だがそんな日にはよく俺のポケットに見覚えのない手紙が入っていたものだ。

 その手紙が来たら幸福なことか、不幸なことが必ず起きる。



「………まさか、な………」



 汗が一滴垂れる。

 俺が右ポケットに手を突っ込むと、そこには手紙が入っていた。



「———チッ」



 ただの手紙ではない。

 高密度の魔力……“古の魔力”がびっしりとついた手紙だ。



「嫌な予感が的中したか……」



 俺は窓の外の空を睨んだ。



〜〜



 夜、狂吾宅。



「おい!おい、いるんだろ!!出てこい!!」



 狂吾の部屋はあらゆるものが散乱していたが、狂吾以外には姿がいなかった。

 だが部屋の中心に黒い渦が発生し、そこから全身黒と赤の服を着た美形の男が出てきた。

 …いいや、人の姿をした何かだ。



「クヒヒ……契約書を読み切ることができたのですか?」



 髪型はぼさっとして目が前髪かかっているが隙間から赤い目が輝いていた。

 髪の色は黒と赤がまばらになっていた。

 ここまでだったら人間だのだが、人間にはないものを持っていた。


 漆黒の翼に頭から生えた曲がった二本のツノ、ギザギザの歯に人とは思えない鋭い目つき。

 “悪魔”だ。



「代償なんかもうどうでももいい!俺はあいつに復讐してぇんだよ!!」


「クヒヒッ!ではその契約書にあなたの血を一滴……」



 狂吾は何枚も重ねてある紙を引き出しから取り出し、机にドスっと音を立てながら置いた。

 狂吾は迷うことなく自分の指を噛み、血を垂らした。



「【契約成立コントラクト】…!」



 悪魔はニタァっと不敵な笑みを浮かべてそういった。



「これで本当にあいつに復讐できるんだろうなぁ…!」


「えぇ!もちろんです!ですがじわじわと、料理していきますからね?」



 悪魔が狂吾に手を差し伸べた。



「ふんっ!」



 狂吾は手を握ってしまった。

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