第60話 [スマッシュの速さ比べ]




「あ……強也……」


「む?なぜお前が……」



 卓球場に着くと、静音がいた。

 いや、静音だけではなく他のクラスの生徒たちも一緒にいた。



「今日は……男女合同でする……聞いて、ない…?」



 頭のアホ毛はいつものようにハテナマークになっている。



「そういえば言っていたな」



 俺が納得していると、静音は朔を見つけると同時にそちらに向かった。



「うわ!み、三賢さん!何か御用でしょうか…」


「昨日、どうだった……!」



 ゆらゆらとアホ毛を揺らしながら朔の返答を待っていた。



「大丈夫だ!多分三賢さんが思っている関係ではない!」


「……そう。……ありがと」



 静音はスタスタと歩き、朔から離れた。



(あれ……でもなんで私あのピンクと強也が一緒にいるとモヤモヤしてたんだろう…?わからない……)



 アホ毛はギザギザとなっていた。

 己自身の謎は深まるばかりであった。



〜〜



「えー、それではまずは二人ペアを作って軽く打ち合いをして見ましょう〜」



 体育の先生をしているのはメガネで地味な先生であった。


 二人組か、朔か唯咲あたりを誘って……。



「強也……!」


「静音……!?」



 俺の目の前で仁王立ちし、卓球のラケットを構える姿は百戦錬磨の強者。

 そんなオーラが滲み出ていた。



「くくく…楽しめそうだ…」


「ふふふ……私も……まともに戦える相手、欲しかった……!」



 俺と静音で勝負をすることにした。



〜〜



「なんで僕と組んでくれないんですかぁ!?」



 唯咲が涙目で俺の元へやってきた。



「静音か先に来たんだ。すまないが、また今度組もう」


「絶対ですよ!絶対!!」



 唯咲は立ち去った。

 俺も卓球台の前に立ち、とうとう静音との戦いが始まった。



「ふっ!」


「……っ!」



 静音は俺の球を全てこちらへ返していた。

 隅を狙っているのだが、静音も隅を狙って中々速い球が打てずにいた。


 だがらチャンスが到来した。



「もらった!」



 俺は少し緩い球が来たのでスマッシュを打った。



「……甘い……!」


「何っ!?」



 スマッシュは返された。

 反応はできたがエッジボールという卓球台の横に当たり、軌道が急に変わったので打ち返せなかった。


 表情は相変わらず無だが、アホ毛はクネクネと動いており、煽っているようだった。



「くくく……いいだろう……!俺はスマッシュを打ち続けるぞ…!」


「……スマッシュの、速さ比べ……か」



 俺たちの周りに“ゴゴゴゴ”という文字が浮かんでいる気がする。いや、気のせいだ。



「行くぞォ!」


「こい……!」



 俺がボールを打ち、静音がスマッシュを打つ。そして俺もそれをスマッシュで返す。



「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァ!!」


「むだゃむだゃむだゃむだゃむだゃむだゃむだゃむだゃむだゃむだゃむだゃむだゃむだゃむだゃむだゃむだゃむだゃむだゃぁ」



 卓球場は一気に戦場のような音が響く。

 それは激しい銃撃戦のようであった。



「お、おいなんだあいつら!」

「早すぎてボールが何個も見えるぞ!?」

「あれは残像か!?」

「超次元バトルだぁ!!」


「オラァ!」


「むだぁ…!」



 ちなみに俺は全力ではない。

 だって全力でやったらおそらく卓球台に穴が開く。

 それに、もう少しこの戦いを楽しみたいからだ……ッ!



「………」


「む?」



 静音が電池切れのロボットのように突然動かなくなった。



「どうしたんだ?」


「………エネルギー切れ………」



 静音は隅へと歩き、そのまま座って眠りについていた。



「君たち軽く打ってって言ったよね!?先生びっくりしたよ……」



 まあ楽しめたからいいか。

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