第62話 [今宵、物語は加速する]




 家で手紙の封を開ける。

 その手紙にはこんな内容が書かれていた。



『今宵、最神 強也様を“星海之丘茶会ほしみのおかちゃかい”にご招待いたします。星神より』


「ちゃんと名前は変わるのだな」



 前では“フォルディ・オース様”と書いてあったのだ。

 この世界でも見られていたようだ。



「さて……それでは行くとするか」



 現在の時刻は零時直前。

 俺はこの手紙に自分の名前を書き、手紙の右上に指でピンっと弾いた。


 すると視界がグニャリと歪み、電気が消えたかのように目の前がいきなり暗くなった。



〜〜



「久しぶりだね、フォルディ・オースくん。いいや……今は最神 強也だったか」



 俺が立っている地面は海……ではなく夜空が広がっており、まるで魚が泳ぐように流れ星が流れていた。

 そして上には逆に海が広がっていた。


 俺の名を呼ぶの正体ははこの空から少しだけ盛り上っている丘の上にある椅子に座っていた。

 パラソルと二つの椅子、そして一つの机の上に二つのティーカップとポット。

 俺はその場へと向かった。



「まさかこの世界でも会うとはな」


「いきなり転生するだなんて寂しいじゃないか。一声かけてくれればいいのに」



 全身白い服だったが、所々に紫色と金色の模様があり、フードをかぶっていた。

 そのフードで髪型や髪色はわからないが、時々金色の目と美しい女性の顔が見える。

 まあどの程度が美人かは知らないが相当だと思う。



「それで?この世界は楽しいかい?」



 俺が椅子に座ると前にあったカップに紅茶を注いできた。



「ああ、転生して正解だと思う。俺が求めた未知はあったが、まだ強い者は現れないけれどな」


「ふふふ、君が楽しくて何よりだよ」



 この茶会は選ばれた者しか招待されない神との茶会、“星海之丘茶会ほしみのおかちゃかい”。

 この茶会では招待された者にとって得な未来の情報をこの星神という神が渡してくれる。

 だがそのかわり、今持っている何かがこいつに取られるという取引のようなものだ。

 取引をしないという選択肢もあるのだが、元の世界に戻ったらそのことを全て忘れてしまうのだ。



「そろそろ言ったらどうだ。この世界で何が起きる」


「……それじゃあ話してあげよう」



 星神はカップに入った紅茶を飲んだ。

 これが取引の合図だ。



「私が提供する情報は、“君が地球で関わった頭が特徴的な子が九月末に死ぬ”だ」


「なっ———」



 俺が関わった人たち……。

 最初に出会った金髪の親子、アホ毛が特徴的た静音、ピンク髪の唯咲、バカな美疾、メルヘン脳と呼ばれている沙夜香、ちょっと抜けてる朔……候補がありすぎる!



「取引をするか、追加で情報欲しいのならば一口。しないのならばカップを弾くんだ。まあ言われなくても何回もやってるからわかるか」


「………」



 俺は無言で紅茶を飲んだ。



「【契約成立コントラクト】……さて、追加で聞きたいかな?」


「勿論だ」


「そうだと思ったよ。前世ではあの子を助けられなかったからね……。なるべく———」


「おい、その話題は関係ないはずだ…!」



 こめかみに血管が浮き出て、常人が見たら気絶するほどの殺気を乗せた視線をこの神に向けていた。



「悪気はなかった、すまない。これが君の逆鱗だったね」



 俺はすぐに冷静さを取り戻した。



「……いや、俺も悪かった」


「ふふふ、良く育ったね」


「俺の師匠のおかげだろうな」


「………なるほどね」



 一瞬の沈黙があったが、星神がもう一度紅茶を飲んだ。



「二つ目は、“その死ぬ子は過去に一度死んでいる”」


「何…?どういうこと———」


「おっと、これ以上は言えないよ」



 俺は星神の人差し指で口を押さえられた。

 フードの中の金色の双眸が俺を見ていた。



「はぁ……仕方ない」



 俺は黙って紅茶を飲んだ。

 過去を見るのならば【記憶写しリコレクション】というスキルがあるから大丈夫だろう。



「【契約成立コントラクト】。もっと情報が欲しいかい?」


「いいや、これ以上は何を取られるかわからん。やめておこう」


「そうか……」



 俺は席を立ち、手紙の左端を指で弾こうとしていた。



「一つ言っておこう」


「なんだ?」


「死ぬ子は二人、そして運命は変えられる。覚えときたまえ」


「……契約はしていないぞ」



 星神はお茶を飲んではおらず、頬杖をつきながら俺にそう言ってきた。



「餞別さ。私と君の仲じゃないか」


「俺にだけ友好的らしいが……何か企んでいるのか?」


「失敬な!少なくても好意を向けているのは確かだよ?」


「好意といっても様々な好意があるがな。まあ、ありがたく受け取っておこう」



 俺は今度こそ手紙の左上を弾いた。


 星神は強也が立ち去った場所をジッと見つめ、ポツリとこうつぶやいた。



「これも君のためなんだ……。試練を乗り越えるんだ」



〜〜



「ふぅ……帰ってきたか」



 戻ってきたのは俺の部屋。

 時計を見ると十二時ぴったりであった。



「誰かが死ぬ。そしてその誰かは過去に一度死んでいる……か。だがなんだ?」



 俺の中で疑問が生まれた。


 俺はあの時“大丈夫だろう”と思っていた。



「何も大丈夫ではない、ではないか」



 何かを忘れた気がする。

 だがそれが一体何かは分からなかった。



「……明日から動くか……」



 星神から情報を伝えられ、強也は動き出す。


 ———今宵、物語は加速する。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


これにて第1章は終了です。

果たして死ぬ二人は誰なのか。

運命は変えられるのか。

狂吾と契約した悪魔は関係あるのか。


次章もお楽しみください!


でも少し期間が空くかもしれません。

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