第51話 [部活体験③剣道部]




 弓道場を出て、隣にある剣道場へ向かった。


 中へ入るや否や、唯咲がこちらへ向かって駆け寄ってきていた。



「ししょーーー!!遅いですよ!!何をしていたんですか!!」


「隣の弓道場で勝負をしていた」


「え!?師匠は弓も使えるんですか?!」


「まあな」



 唯咲が目をキラキラとさせているが、周りからすごい視線が送られている。

 唯咲は全く気にしていないようだった。



「俺はただ見に来ただけなのだが、あとどのくらい終わるんだ?」


「えーっと……後三十分ぐらいです!」


「そうか、まあ見学させてもらおう」


「了解です!何かおかしな点があったら指摘してください!!」



 やる気が上がったようで、持っていた竹刀をブンブンと振り回していた。他の部員たちはブルブルと震えていた。


 唯咲より強い奴はここにはいないな……。残念だ。


 唯咲が先ほどさらにやる気が上がったため、唯咲に勝てる者は誰もおらず、全員ボコボコにされていた。



「なぁ……あんた唯咲さんの師匠なんだろ?あれやめさせてくれないか……?」



 ヨロヨロとしながらこちらに近づいてきた男がそう言ってきた。



「ふむ……だがあれはまだ序の口だと思うぞ。俺と戦った時はもっと本気だったしな」


「っ……!?あれ本気じゃなかったのかよ……」



 声にならないような掠れた声で驚き、暴れる唯咲を俺の隣で観戦していた。


 するともう一人、ボコボコにされた人がこちらへ向かって来ていた。



「おい……これ以上は無理だ……。師匠なら、止めさせてくれ……!」



 流石にここの部員たちは限界らしいな。


 俺は立ち上がり、唯咲に声をかけた。



「唯咲、そろそろやめてやれ」


「えー?わかりましたぁ……」



 それだけ言うと俺に近づき、横にちょこんと座った。



「す、すげぇ……。いとも容易く唯咲さんを操作してるぜ……」

「やっぱ師匠だからなのか?」

「師匠ってすげぇ」

「でも本当に強いのか?」

「弱みを握られてるとか?」


「む?」



 ボコボコにされていた剣道部たちがぞろぞろと俺の前までやって来て、一人がこんなことを言った。



「なぁ、あんた強也って言うんだろ?本当に強いのか……?」


「なっ……。師匠はすごく強いんだ!!僕より強いんだぞ!?」



 俺は特に何の感情も抱かなかったが、唯咲は俺が馬鹿にされたと思ったのか怒り始めた。



「落ち着け唯咲。まあ確かに見るだけで相手の力量を測れる者は少ないだろうな。それでは実戦でもするか」



 実戦をすることが一番互いの力量を測るのに手っ取り早い方法だろうしな。



「唯咲、竹刀をかせ」


「どうぞっ!」



 唯咲から竹刀を受け取り、真ん中へと移動した。



「よし、ちなみに俺は防具を着なくていいか?着ないほうが動きやすいし、頑丈だから問題ない」


「ああ……わかった。確かに実戦が一番わかりやすいかもしれないな……。じゃあ誰からやるんだ?」


「全員でかかってこい」


「「「「「へ?」」」」」



 ここにいる者は全体で約十数人。問題ないな。



「それは流石に……なぁ?」

「うん、やりすぎじゃない?」



 なんと、まだハンデが足りなかったか。



「では俺は一歩も動かない。これでどうだ?」


「は……?」


「もっとハンデが必要か?」


「いやいや……流石に俺たちのこと舐めすぎじゃない……?」



 すると“そーだそーだ!”と周りから言われた。



「では俺は動くし、竹刀も振るう。だが全員でかかってこい。あとは竹刀以外に俺の攻撃が当たったら後ろに下がるように」


「怪我しても知らないぞ……」

「さっき少しイラッとしちゃったから本気で行くぞ……!」

「みんなでかかれば怖くない!」

「剣道部の底力見せたるさかい!」



 唯咲に審判を任せ、竹刀を構えてスタートを待った。



「じゃあいきます!始めっ!!」



 唯咲の合図で俺の周りを囲んでいた防具を着た剣道部たちが襲いかかってきた。


 まず一番近くに近づいてきた者に一閃。



「ヴグッ!!」



 胴に入り、後ろへ吹き飛んで行った。




「面ッ!!」



 俺の頭へと竹刀を振り下ろしてきているが、後ろから狙っている者がいる。


 竹刀を振り下ろしている者には、俺の竹刀を抜刀するようにして弾き返し、流れるように後ろにいる者の面に竹刀を当てた。


 一瞬の出来事で周りの者たちは少し驚いた様子で、勢いよく来ることはなく、ジリジリと距離を詰めていた。



「来ないのならばこちらから行くぞ!」



 一人に近づき、竹刀を小手に思い切り当てた。すると竹刀が手から離れ上へ吹き飛んだので、それを左手逆さにで持った。



「くく……」



 俺は集団で固まっている場所に向かって回転しながら突撃した。



 右手では普通に持ち、左手では逆さに持っていたので上から見ると見事な円ができていた。



「ぐ!」

「避けきれ———ウワァ!!」

「いてっ!」

「ぐっ……んん!!」



 四人同時に当てたが、一人だけ竹刀に当たってしまったようだ。


 残りは六人。さてどうするか……。



 そう考えていると、俺の左右にいたものが頷き合い、同時に竹刀を振るってきた。


 俺は両手の竹刀で受け止めた。だが他の者が一斉に襲ってきた。


 流石にまずいと思い、ぶつかり合っている竹刀を奥に押してその場でぐるっと一回転することによってなんとかしのいだ。


 だがそれが当たったようで三人脱落した。残りは三人だ。



 さてと……一気に終わらせるか。



「【縮地しゅくち流々りゅうりゅう】」



 俺は連続で三人の面を叩き、終わらせた。


 【縮地しゅくち流々りゅうりゅう】というのは連続して“縮地しゅくち”を使う気術のことだ。



「ま、まじか……」

「最後全く見えなかったぞ……」

「あの人数差でも勝てねぇのか」

「つっっっよ!!」

「やっぱモノホンだったんだな」


「そこまで!ほーーら!だから師匠はすごい人なんだよ!!」



 唯咲がフフンと鼻を鳴らしていた。



「さてと、これでわかってくれたか。ちなみに怪我をした者などはいないか?」



 怪我はしていないそうだったので、俺は帰ることにした。



「それでは俺は帰る」


「あっ!師匠待ってぇぇ」



 夕飯を作らなければならないのだ。早く帰らねば……。

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