第50話 [部活体験②弓道部]
グラウンドから立ち去り、次にやってきたのは道場が並んでいる場所。
剣道や弓道、柔道などそれぞれの道場があるらしい。
俺はさっそく唯咲を見に行こうとしたのだが、誰かがこちらへ走ってきていた。目の前まで来ると息を切らし、膝に手を置いていた。
「あ、あの!君、弓道とかできないかな?!」
焦げ茶色で短い髪。上は白で下は黒といった弓道をするときの服装…たしか袴だったか。それを履いていたので男は弓道部なのだろう。
しかし弓か……。一時期使っていたことがあったが、魔法を使う方が効率がいいと思って結局使わなくなったからなぁ……。
「一応経験はあるが……なぜだ?」
「実はね……少し離れた
迷惑この上ないな。弓道をする者は礼儀作法が身につくなどと聞いたことがあるが、そいつらは全く身についていないらしいな。
「仕掛けられたのならば勝負に挑むか逃げるかすればいいのではないか?」
「僕らは帝王高校男子弓道部という絶対に負けられないプライドがあるから逃げたくはない……。でも今日は部員たちの用事とかがあって人数がほぼいないんだ……」
なるほどな。人数合わせのため、弓道経験者を探そうとしていたわけか。
久々に弓を打ちたくなってきたので助けてやることにした。
弓道場の中へ入ると、にやけ顔が気持ち悪い一人の男と、後ろでムッと不機嫌そうな顔をしている男二人がいた。
「おや?その子はどうしたんだい、落ちこぼれの弓塚君」
「部員は他にいないのか?部長のせいで退部したとかなのかな?」
「プライドはないのかよ」
三者三様、それぞれ俺を呼んだ男に悪態をついていた。
「くっ……でもこの子は初心者じゃないと言っている!だけどこれで三人揃ったぞ」
「そうだね、じゃあさっそく始めるとしようか」
相手は先ほど説明した三人。こちらは俺、俺を呼んだ男……確か弓塚というやつともう一人の男だった。
「ルールは遠近競射にしよう。一番真ん中に近い人が勝ちの簡単なルールだしね」
一番最初はにやけ顔がキモいやつだ。
足を開き、弓と矢を同時に左手で持ち、左膝の上へ置いて右手は右の腰へ。
次に右手を弦ににかけ、左手を整えて的を見ていた。
頭の上までそれを持ち上げ、下ろすと同時に弓を引いていた。
その状態で数秒静止し、時間が経つと弓を打った。
これがこの世界の“弓道”の一連の動作というわけか。
ちなみに矢は中心から約十五センチぐらい離れた場所に刺さっていた。
「まあこんなものですよ。さ、お次はそちらの方がどうぞ」
フッと笑いながら持ち場から離れ、観戦しているこちらに近づいてきた。
次は弓塚だそうだ。
一連の動作をし、矢を放ったが的には当たらなかった。
「はっ!やっぱり落ちこぼれですねぇ」
相手校三人がクスクスと笑っていた。あまり気分がいいことではないな。
そして弓塚が下手くそなわけではない気がするな。
その後は相手校、帝王高校と順番に弓を打ち、俺の番までやってきた。
「俺の番なのだが、弓塚にやらせてもいいか?」
「おやぁ?初心者ではないのですよね?逃げるんですか?」
プププと笑いながらこちらを見ている。気持ち悪いな。
「いいや、逃げるわけではない。弓塚の実力が出せれていないと思ってな。おい弓塚、お前の使っている弓を一旦よこせ」
「え、わかったよ。はい」
ふむ、やはりな。弓塚とやらは筋肉がかなりあるのにも関わらず、弦が細すぎるのだ。
なのでもう少し太い弦でもこいつならば問題ないぐらいの弓力を持っているだろう。
(そうなれば弦を生成して張り替えをしなければな……【
俺は置いてあったバッグまで向かい、中で探る振りをして弦を生成した。そしてそれを今の弦と張り替えた。
「これでやってみろ」
「す、すごい……。あんな一瞬で張り替えるなんて……」
「感心する場合ならば矢を放て」
「わ、わかったよ」
持ち場につき、弓塚が弓を引きはじめた。最初は少し手こずっていたが、すぐに慣れたようだ。そして矢を放った
矢は一直線に的の中心に吸い込まれていった。
「へ?」
「なっ!?」
「ありえない……!」
「どうなってる……」
「くくく、やはりな」
相手校の間抜けな顔を見れて満足した。
「す、すごいよ!こんなにも正確に打てるなんて!!」
「礼には及ばないぞ。ではこちらが勝ったことだし、俺は帰らせてもらう」
こちら側の男がそれなりにいい結果で、最後にど真ん中に当てたのでこちらの勝利だ。
バッグを持ち、帰ろうとしていると肩を掴まれた。
「ま、待て!お前がやらなければこの勝負は決められないぞ!三人でということだっただろう!」
「そういえばそうだったな……。面倒だがやってやるか……」
焦った顔でそう言っていたが、俺がやると言うと勝利を確信したような表情になった。
俺も弓を持ち、持ち場について矢を放った。
矢は猛スピードで的の中心へと向かい、壁を貫通した。
「む、壁が弱すぎるな……」
「なっ………」
皆声を上げることなく呆然としていた。
「弓塚、壁の責任はお前がとってくれ。ここに呼んだのはお前だしな」
「えっ……あ、わかった……って今の何!?あんな速い矢なんて———」
「さて、これで俺たちの勝利だよな?今度こそ帰らせてもらうぞ」
弓塚の言葉を遮り、相手校にそう言った。
「違う……違う違う違う違う違う!!」
「なんなんだあいつは。六回も否定したぞ」
笑みが気持ち悪い男が突然叫び出すと同時に頭を掻きはじめた。
「俺たちが負けるはずがない……しかも弓塚があんなに上手いわけがない!!そうだ……その弓だ!!それを貸せェ!!」
弓塚から弓を取り上げて的に向かって矢を放とうとしていたが、弦を引けることがなく、プルプルとしていた。
「くくく、実に滑稽だな」
「ふ、ふ、ふ……」
「ふ?なんだ?」
「ふざけやがってェェ!!」
弓と矢を放り投げて俺に向かって全力で走ってきた。そして俺の顔に殴りかかろうとさていた。
左手で殴りかかってきていたので、それを首を傾げて避けた。そして右手で相手の左腕を掴み、右手で相手の襟を掴んで背負い投げをした。
「カハッ……」
落ちていた矢を拾い、この男の上に乗っかった後に首にその矢を当てた。
「ヒイッ!!」
「いいか、よく聞け。下を見ることは構わない。自分の強さなどに自信が持てるからだ。だが馬鹿にするのはよくないことだ。馬鹿にしている時間で追いつかれ、そして追い越されるからだ。今のようにな」
「うっ……」
「下を見て馬鹿にする暇があるのなら己か上を見ろ。そのほうがより高みに行けるからな」
俺は矢をこいつの首から離し、立ち上がった。
相手も少しヨロッとしながら起き上がった。
「………たしかに、あなたの言うことは一理……いや、それ以上ある……。ここは引いておく……」
それだけ言い、三人組は立ち去った。残り二人は逃げるようにして立ち去っていた。
さて、俺もさっさと唯咲の元へ向かうか。
「あの、今日はありがとう!」
「ああ、これでさらばだ」
バッグを持ち、弓道場を後にしようとした。
「最後に!名前はなんなんだ!?」
「俺か?くくく、覚えておけ。俺の名は最神 強也。最強の男子高校生だ」
それだけ言い残し、ここを後にした。
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