第46話 [修羅場?]




「準備完了です!師匠!」


「よし、行くぞ!」



 制服に着替えた唯咲がドアから出てきたので俺たちは学校へ向かうことにした。



 縮地しゅくちは使わなくてもギリギリ間に合いそうだったので使わないことにした。



 と、思っていた過去の俺を殴りたくなってきた。


 今は学校の校舎の目の前にいるが、チャイムが鳴っているのだ。



「やばいですよ師匠!どうしますか!?」


「ぐぬぬ……はっ!唯咲、俺たちの教室はあそこだよな?」


「そうですけど……まさか……」


「ああ……飛ぶぞ!」



 俺と唯咲は靴を脱いで、足に“気”を込めて教室の空いている窓に向かってジャンプした。



「うわっ!?なんだ!?」

「窓から誰か入ってきた!!」

「イケメンと美少女……じゃない、男の娘が入ってきたぞォォ!!」

「ドユコト?!」

「ナニコレ!?」

「わっかんねぇ!!」

「語呂がいいな」



「なんとか間に合ったな……」


「間に合ってますけどこれは良かったのでしょうか……」



 フゥと息を吐いて一息ついていると、ムキムキの担任がやってきた。



「二人は放課後に職員室に来るように」


「やっぱダメじゃないですか!師匠!!」



「「「「「師匠!?」」」」」


「む?」



 クラス一同、声を揃えてそう言っていた。


 その後は靴の裏側を地面につかないように置き、自分の席へと座った。



「いやー、まさか窓から入って来るとはな!!」


「まあな」



 横から朔が話しかけてきた。



「というか、やっぱりあの情報は本当だったんだな!!」


「情報?なんだそれは」


「新聞部が学校の掲示板に貼ってた新聞に書いてあったぜ。“かの伝説の剣士、唯咲を打倒せし異端者イレギュラー、最神 強也現る……ッ!”って書いてあったぞ」


「なんだそれは」



 新聞部……確か審判をしていた“麼橆 太郎もぶ たろう”とかが副部長だったか。

 仕事が早いな。



「それで流れ的に師弟関係になったみたいな感じなのか?」


「まあそんな具合だな」



 担任の話を無視して俺と朔はおしゃべりをしていた。



「君たち……先生の話はよ〜く聞こうねェ!」



 そう言うと、担任の服がビリビリに破け、筋肉が露わになった。全身真っ黒に日焼けしていたので海にでも行っていたのだろうか。



「……」


「はい………」



 俺は無言で、朔は下を向いてそれだけ言っていた。

 クラスメイトは皆、ドン引きしていた。


 先生の話も終わり、一時間目の用意をしようとしていると、俺の周りに人がやってきた。



「さっきのなんだったんだ!?」

「身体能力化け物かよ!!」

「少し筋肉触らせて……ハァハァ」

「変態だ……」

「あと我らの密かなる天使、唯咲さんとの関係はなんなんだ?!」



 この世界に来てからよく人に囲まれることがある気がするな。時には野蛮な集団。時にはクラスメイトから。


 そんなことを思っていると、この人混みをかき分けて俺の腕に唯咲が抱きついてきた。



「師匠を守るのが弟子の役目!師匠、ここは僕に任せて行ってくださ———あう!」



 俺は今にも誰かに噛みつきそうな勢いであった唯咲のおでこにチョップを食らわした。


 そして説明しようとすると、教室のドアが開く音がした。

 姿は目の前にある人混みで見えないがアホ毛だけがしっかりと見えていた。



「あれ、静音さんだ!」

「本当だ、道を開けろー!」

「寡黙令嬢様のおな〜り〜」


「あ、強也———」


「?」



 人混みが一旦なくなり、静音が俺に話しかけようとしていたが、ピシッという音が聞こえた気がし、話すのをやめてしまった。



「どうした?静音」


「ねぇ………そいつとはどんな関係……」



 よくわからないが、静音のアホ毛が怒りマークの形になっていた。どうやら起こっているようだ。

 ………いや、なぜ?



「こいつとは———」


「僕との関係ですか?えっとですねぇ……。家に泊まって一緒の布団で寝たり……片時も離れないような関係ですかね!」



 俺が答えるより先に唯咲が答えていた。



「なっ…………んなバカな……!」

「すでに一線を越えていた……だと……?」

「我らの天使が堕天したのか……」

「いや、我らのイケメンが失われたのか!?」

「グハッ……」



「強也…………?」



 静音が俺にゆっくりと近づいていた。



「誰ですかあなたは!近づけさせません!!」


「どいて……強也と二人きりで話し合うから……」


「どきません!」



 唯咲と静音が睨み合っており、バチバチと火花を散らしていた。



「一旦落ち着けお前ら」


「あぅ」


「………痛い………」



 俺は二人にチョップをし、睨み合いをやめさせた。二人は頭をさすっていた。



「とりあえず静音は俺と唯咲との関係を知りたいのだろう?なぜかは知らないが」


「うん………」


「俺と唯咲とはただの師弟関係だが?」


「本当に……?本当の、本当に……?」



 静音がずいっと俺に近づいて確認を取ってきた。



「本当だ……。嘘をつく理由もないだろう?」


「わかった……信じる……。よかった……」



 何がよかったんだ?よくわからないが収まったようだ。



「本当にそうなのか?!」

「本当にやましい関係ではないんだな!」

「まだ強也くんにチャンスがあるんだよね!」



「だからそうだと言っているだろう……」



 しかもさっき唯咲が俺のことを師匠と呼んでいたではないか……。

 だが一件落着。謎の騒動は収まったようだ。



「だがなぜ静音はそんなにも気になったんだ?」


「………?あれ……なんで、こんなにモヤモヤしてたんだろう……。と、とりあえずまた来る……」



 静音は自分の教室へ帰ってしまった。何やら焦っているようだったが……なぜだろうか。

 とりあえず授業の用意をするか。



 俺はまだあたりが騒がしい中、一時間目の用意をした。

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