第39話 [十人十色]
「いらっしゃい。注文は決まってるか?」
二人組の女子がやってきた。高校生だろうか。
「ポテトのLサイズと、スマイルください!」
「うんうん!」
「すまいる?」
メニュー表にはそんなものなかったような気がするが……。
「スマイルが入ったぞー」
「馬鹿!スマイルはその場でニッコリすればいいんだよ!!」
「そうだったのか……」
俺の後ろに向かって質問すると、そう帰ってきた。
「お兄さんバイト始めたばかりなんですか?」
「ああ、代わりで入っているんだ」
「じゃあ先に、注文したスマイルください!」
スマイル……と言ってもあまり作る笑顔は得意ではないのだがな。
俺はニィっと、笑ったが不敵な笑みになってしまった気がする。
「はぁ…はぁ…!いい!その鋭い目つき!!」
「やばいわ……そのまま罵倒して欲しいっ!」
なかなかやばい客だったようだ。前世でも似たやつが知り合いにいたな……。
そしてポテトを渡して帰ってもらった。
「次、注文は」
「………アイスコーヒー……Mサイズ……」
次に来たのは仕事途中のサラリーマンと言ったところか。かなり疲れている様子だった。
「仕事を頑張っているのだな。仕事をしたことない俺だが、社会を動かす歯車の一人として俺はお前を見れる。仕事で疲れた時は、いつでもここへ来ていいからな。ほい、アイスコーヒー」
「え……ありがとう……。ふっ…君は面白いな。年上相手にタメ口で」
無表情だったが、笑顔になってアイスコーヒー片手に店を出て行った。
「さ、次だ」
「いらっしゃ……ってなんでお前がいるんだ……」
「来ちゃった……みたいな……?」
アホ毛をゆらゆらと揺らす静音が目の前にはいた。
「どうしてわかったんだ?俺が朔の代わりにバイトしてると」
「ネットで……今超話題……」
「なるほど……。情報の行き来が早いんだったか……」
しかしなぜ話題になっているんだ?まだバイトを始めて数分しか経っていないし、普通に働いているだけだが……。
まあいいか。
「それで、注文は?」
「ビッグラックバーガー……」
「見かけによらずかなり食うのだな……。あ、そういえばこれを注文されたら掛け声をするんだったか……。ビッグラック一丁!!」
俺は後ろに向かって大声で掛け声をかけた。
「はいよ、ビッグラックだ」
「強也は……何時ぐらいまでバイトする…?」
店内で食べるらしいのでトレーに乗せて渡した。
「昼を挟んで二時ぐらいまでやるな。十二時から三十分だけ休憩だったかな」
「わかった……。じゃあ待つ」
「なぜ待つんだ……?」
「……」
何も言わずに空いている席へと向かっていた。
俺に話すだけ話させて自分は話さないのか。
「にしてもだいぶ後ろの列待っていたようだな……」
静音の後ろには大量の人が並んでいて、長蛇の列となっていた。
一応他のカウンターも空いているのに、なぜか俺のところだけ集中的に並ばれていた。
「なぜなんだ…?まあ、いいか。気にしたらダメな気がするな……。次の人」
「あっ、えーっと奇遇ですね!!こんなところで再開するなんて!!」
「む?」
目の前には俺よりほんの少しだけ年上っぽい茶髪の女性がいた。
あ、昨日の喫茶店の店員か。
「ああ、昨日ぶりだな。っと……話す時間もないし早速注文を聞こう」
「お、覚えててくれたなんて……。えへ、えへへ〜」
「注文は……?」
突然両手を頬に当ててくねくねと動き出した。注文してくれと言っているのに……なんだこいつは……。
「はっ!なんでしたっけ?」
「だから注文は?」
「あ、えーっと、あなたをください!!」
「む?俺だと?そんな注文……あるのか……?お、おい、注文対象に店員は含まれるのか?」
俺は分からなかったため、隣で働いている人に聞いてみた。
「馬鹿野郎か!あるわけないだろ!!」
「そうなのか。だそうだ。俺は注文できないらしい」
「何言ってんだ……あるわけないだろ……」
隣でため息と呆れたような声が聞こえた気がする。
「そうですか……残念です……。じゃあラックシェイクで……」
「了解した」
ラックシェイクがすぐに届き、その女性に渡した。
「あ、あの!私“
「??わかった」
謎の紙切れだけ渡され、その女性は去っていった。
「さて、まだまだいるな……」
とりあえず俺は昼休憩まで頑張るのであった。
〜世間の反応、とある場所にて〜
「ねぇねぇ、友達がラック行ったんだけどさぁ。超イケメンの店員さんいるらしいよ!」
「へぇ。うちらも行ってみる?暇だし」
「さんせー!」
〜とある会社にて〜
「お疲れ様です、先輩」
「おう、お疲れ。ん?なんだか気分良さそうだな」
「えぇ。少し面白いことがあって。ラックに面白い店員がいたんですよ」
「はは、そうか。お前いい顔だぞ?さっきまで疲れ果てたザ・サラリーマンって感じだったしな」
「え、本当ですか…?あ、たしかに“お疲れっぽい”ってその店員にも言われたなぁ…」
「店員が言ってきたのか?なんか面白そうだな、俺も一仕事終えたら行ってみるか。お前ももう一回行くか?」
「ぜひ!」
〜コミュニケーションネットワーク・コケッターにて〜
匿名
『ラックにイケメン店員がいたんだが。
同士はおらぬかぁ』
『なんじゃそら』
『イケメンがおるんか?』
『私行ってきた!!超イケメンだった!』
『モデルさんか何かじゃない?ってぐらいイケメンだよ!』
『まじか、男の俺も行ってみっか』
『“スマイルください”って言ったらご褒美貰えました。今日のオカズにします』
『え……(困惑)』
『行くか(ガタッ)』
『お伴しますぜ!』
強也は自分が知らぬ間に世間で話題となっていた。
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