第38話 [朔からの頼み]




 家に帰ると、風呂はとっくに溜まっていた。


 風呂に入りそのまま自分の部屋に戻ると、スマホがなっているのに気づいた。



「ん…?朔から電話?というか連絡先を交換していたのか」



 スマホを手に取り、スライドさせて耳に当てた。



『お!よかったー、出てくれて』


「朔、何の用だ」


『んぁー実はな、俺バイトしてるんだけど明日用事あるのにシフト入れちゃってたんだよ』


「なるほど。つまりそのバイトを俺にやらせようとな」


『おっ!話はや〜い』



 ま、どうせすることもなかったし頼みを聞いてやるか。



「いいだろう。どこでバイトをしているんだ?」


『えっとなぁ、帝王高校前駅の電車に乗って二つ先の駅の“蜂坂駅はちざかえき”って場所のすぐ目の前にある“ラクドナルド”だ』


「ラクド……ああ、ハンバーガーを売ったりしている場所か」


『ん?そうに決まってるだろ。でだな、朝の十時から十四時までなんだが……頼まれてくれるか?』


「いいが……店長などには話したのか?」


『ああ。だけどその日の時間はマジで人いねぇから誰でもいいから送ってこいって言われたんだ』


「なるほど、では頼まれた。おやすみ」


『ああ!急な頼み聞いてくれてサンキューな!おやすみ!』



 電話が切れたので、俺も寝ることにした。



〜〜



 翌朝。時刻は八時半であった。


 下へ降り、食パンを焼いてテレビを見ながら食べていた。



『えー、次のニュースです。五年間逃亡していた三人組の指名手配犯が昨夜、交番に出頭して逮捕されました。罪を全て認めていますが、出頭理由だけ話していないそうです。警察は———』



 パンを食べ終えたらテレビを消し、二階へと上がった。


 俺は私服に着替え、外に出て電車に乗った。



『次はー、蜂坂駅ー。蜂坂駅ー』


「ここか」



 俺は電車を降り、駅を出た。


 すると目の前には“R”のロゴが特徴的な赤と黄色の店があった。



(ん?入る時はなんて入ればいいんだ?またいいか)



 正面の扉は開いていなかったので、裏にあった扉から入った。



「頼もー!」



 人はいたが、なぜか誰も言葉を発しなかった。


 数秒経過するとやっと話しかけてきた。



「えっと……君は誰だい?」


「ああ、俺は朔の代わりに来た最神 強也だ」


「か、代わり?聞いてないよ?」


「何っ!?」



 おいおい、朔よ。言ったんじゃないのか?



「はいはい、聞いてるよ〜。朔の野郎からね。にしてもイケメンだね〜」



 奥から見た目は四十代ぐらいの女性が出て来た。



「そんじゃ早速あっちで着替えてきな。それから仕事の内容伝えるから」


「わかった」


「おい!店長に向かっては敬語使えよ!」



 店員の一人がコソコソと俺の耳に話しかけてきた。



「いんや、強也くんはそのままでいいよ。なんだかそっちのほうが繁盛しそうだ」


「店長!?」


「了解した」



 言われた部屋に向かい、俺は着替えた。

 赤っぽい服に黒のズボン、あとは帽子もかぶった。



「そんじゃあ強也くんにはカウンターやってもらうか。レジ打ちは……できる?」


「???」


「できなさそうね……じゃあお客様から注文を聞いて私たちに伝える係でよろしく」


「わかった」



 今日のおススメメニューや接客の仕方を教えてもらい、カウンターへと向かった。


 すでに客は来ており俺が担当しているカウンターにもまだ人がいたが、あと一人だったため、すぐに交代できた。



 俺が交代した途端、なぜか周りからの視線が増えた。



「……」


「む?いらっしゃい」



 カウンターの前には女性が立っていた。

 だがなぜか顔が赤い……。風邪か?いや、でも風邪だったらわざわざ来ないか…。



「注文は決まっているか?」


「えっ、えっとぉ…テリヤキバーガー一つ……ください」


「了解した……。大丈夫か?風邪でも引いているのではないか?」


「えっ!?あの、その……」



 目の前にいる女性はどんどんと顔が赤くなっており、ゆでダコのようになっている。



「風邪には気をつけるんだぞ」


「あぅ……」



 女子はハンバーガーを受け取るとフラフラとした足取りで去っていった。



 まあ、気にせず仕事を続けるか。

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