第35話 [喫茶店にて]




 今日は土曜日なので学校はない。


 午後からスーパーの特売が始まると聞いたので、買い出しに行くのは午後だ。



「何をするか……」



 特にすることが決まってなかったので、何をするか迷っていた。



「師匠!僕と稽古しま———」


「そうだ、喫茶店に行こう」



 帝王高校に下見に行った時、近くに喫茶店があったのを思い出した。


 生活も余裕なので早速行ってみることにした。



「そうと決まれば行くぞ。善は急げだ」


「はい……師匠……」



 なぜかシュンとしている唯咲だったが、まあ問題ないだろう。



「お前は昨日の制服に着替えておけ。今日は泊まらせん」


「わかってますよぅ」



 俺も服に着替え、早速外に出た。


 またお金を借りるのは悪いと言っていたので、歩いて向かうことにした。



 歩いている途中、デジャヴを感じた。


 またもヒソヒソと話され、こちらを見つめたらしている人が多数いた。



「あらぁ〜兄妹かしら」

「カップルかもしれませんよ?奥さん」

「美男子と美少女……眩しいっ!」

「ありゃ敵わねぇや」



「どうやら勘違いされているな」


「?師匠どうかしました?」


「いや、お前女だと思われているぞ」


「えぇ!?」



 唯咲は雷に打たれたかのような顔をしていた。



「確かにお母さんから可愛い可愛いと言われ続けていましたが……僕は嫌です!正真正銘の男ですよ!!」


「わかってる。別に問題ないだろう?」


「そうですけど!僕のプライドが許しません!なんならここでズボンとパンツを脱いでもいいんですよ!?」


「やめろ。警察を呼ばれるぞ」



 そんなことを話しながら歩き、帝王高校の近くにある喫茶店についた。


 そしてドアを開け、中に入った。



「おお、なかなかお洒落な場所ではないか」


「そうですねぇ。僕も入ったの初めてです」



 中はほんのりと暗く、お洒落な内装であった。



「いらっしゃいませ。二名様でよろしいですか?」


「ああ」


「お好きな席へどうぞ」



 適当に座り、メニュー表を開いた。



「な……なんだこれは……。未知なる料理が山ほどあるぞ……」



 ぱふぇやらぱんけーきやら……全て食べてみたいが、流石に金の無駄遣いになってしまう。


 とりあえず……コーヒー二つとフレンチトーストとやらを頼むことにした。



 数分待っていると、女性が運んできていた。

 だが様子がおかしく、真剣な表情と一歩一歩慎重に歩いていた。



「お待たせしま———あぁっ!?」



 俺たちのすぐ近くまでやってくると、床につまずいて丸型のおぼんの上にあるコーヒーと料理がおぼんごと宙に浮いていた。



(床が少々凹んでいるな……。あと慎重に進みすぎたのではないか?)



 一瞬で状況を把握し、おぼんを片手で持ち、つまずいた女性の腹に手を回して転ぶのを防いだ。



「大丈夫か」


「あっ……だだだ大丈夫でしゅ!ご、ごゆっくり〜!」


「おぼんはいいのか…?」



 女性を離すと、顔を真っ赤にして走り去ってしまった。



「師匠流石です!一瞬で料理と人を助けるなんて!!」


「お前は眠たそうにしていたな……。いつでも動けるようにしておけ。でないといざという時動けないぞ」


「な、なるほど……。善処します!」



 おぼんからコーヒーとフレンチトーストを取った。


 コーヒーの一つは唯咲に奢りだ。



「さて……ではいただきます」



 ナイフとフォークを持ち、一口サイズに切り分けてから口に放り込んだ。



「んっ!?美味いぞ!!」


「ズズッ……苦い……」



 唯咲はコーヒーに砂糖をどんどんと流し込んでいる。



「唯咲、これ一口食べるか?」


「その言葉を待っていました、師匠!」


「こいつは……」



 最初からそれが目的であったか……。まあ別にいいが。



「ほれ」



 一口サイズのフレンチトーストをフォークで刺し、唯咲の口へと運んだ。



「あーーん……ん!美味しいです!」


「そうだろう」



 幸せそうに食べているが、これは俺の頼んだ料理なのでもうやらん。



 全て食べ終わり、もう帰ろうとしたのだが、何やら騒ぎが起きていた。



「おいおい!俺はお客様だぞ!?なんでもっと早く料理が出てこねぇんだ!」


「も、申し訳ございません……」



 とんだイチャモンだ。店員が手間暇かけて作っているから時間がかかるというのに……。



 そしてイチャモンをつけられていたのは先程俺に料理を運んでいた茶髪で後ろ髪を編んで左肩にかけいる女性であった。



「しかもさっき躓いてたよなぁ?それ店員としてどうなんだ?あぁ!?」


「も、申し訳……ございません」


「さっきからそればっかじゃねぇか!ちょっお顔がいいくらいでよぉ……。そうだ……この仕事が終わったらよぉ……俺の相手……イテッ!」



 俺は男がその店員に手を伸ばしていたので、その腕を掴んだ。



「あぁ?テメェ何様のつもりだよ」


「くくく、“お客様”だが何か?」


「ふざけてんのかぁ…?」



 男は額に血管を浮かべながら俺を睨みつけていた。



「だいたいお前こそ、“お客様お客様”と……あっちは“店員様”だぞ?お前のように料理一つできないクズ人間に振舞ってくれているんだぞ?それすらも理解できないのか?」


「テンメェ……」



 料理できないかは知らないが、どうやら図星だったようだ。



「せっかくお洒落な店なのだが……お前のせいで台無しだとわからんのか?」


「ふざけやがって!!」



 男は立ち上がり、俺に殴りかかろうとしていた。


 だが唯咲が後ろに回り込んでおり、この男の股を蹴り上げ、戦闘不能にした。



「グ……グォォォォ……クソ野郎が……覚えてやがれ……」


「よくやった、唯咲」


「悪人にはそれ相応の報いを受けてほしぃですしね」



 唯咲の頭をポンポンとやり、俺たちも帰ろうとした。



「あっ……あの!何度もありがとうございました!!」



 店員が俺たちに向かって頭を下げていた。



「当然のことをしたまでだ。お前もお前で頑張るんだな。応援するぞ」



 俺と唯咲は金を払って店を出て行った。



「いんや〜さっきのお客さん爽やかでイケメンだったねぇ〜。ドジっ娘看板娘である“姫野 沙夜香ひめの さやか”ちゃんにはどう写ったのな?」



 違う店員がやってきて、強也に話しかけられた茶髪の女性はそう聞かれていた。



「あれが……私の王子様……!」


「あー……。さすが脳内メルヘンカーニバルだな……」



 強也はまたも目をつけられるのであった。

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