第34話 [本物へ]




「……という、感じです」



 唯咲から聞いたのはだいぶ端折られいたが理解した。


 父と母が殺され、殺した男が裏のやばい集団の仲間。そしてそれに対抗すべく、強くなった自分より強い奴を見つけてさらに強く……という感じか。



「理解した。が……傷は……深かったようだな」


「あれ……?もう、割り切ったはずなのに……なんでまた……」



 唯咲の目からは涙が流れていた。


 唯咲は眠気で意識が朦朧としているようだった。



「僕はもっと強くならなきゃいけない……だから……泣くなんて……」


「はぁ、全く……」



 俺は溜息を吐き、何も言わずに唯咲の頭を撫で始めた。



 窓は開いており、風でカーテンが揺れる。そして外から入った月明かりが俺の目に当たった。



「お……母……さん……?」



 唯咲の母親が最後に言いたかったことはおおよそわかっている。親の気持ちはわからないが、誰でもわかるだろう。


 唯咲は苦しい過去を振り返りたくなかったから母親の言葉がわからなかったのだろう。


 親が子を愛しているのならば、絶対に出てくる言葉だ。



 それは———



「“ありがとう”」


「お母さん!!」


「うおっと」



 唯咲が突然俺に抱きついてきた。


 寝ぼけているのだろうと思ったが、離しはしなかった。逆に抱き寄せ、さらに頭を撫でた。



「うっううぅゔ!お母さん!!」



 唯咲は俺の胸で泣いていた。



 泣くことは決して悪ではない。


 逆に善なることだと思う。


 嫌な過去を洗い流してくれて、思い残したい過去だけ残してくれる優しい水流だからだ。


 涙は一切の不純物が含まれていないと思っている。だから、心がどれだけ傷ついてかさぶたになったり、汚れていても、涙で綺麗になるんだ。


 だから泣いていい。涙は儚く、そして美しいものだ。


 男が泣いてはいけないなどという考えは無くしてしまえ。



 俺は唯咲が泣き疲れて眠るまで頭を撫で続けた。


 俺もとうとう眠りについた。




 ———そして今日は普段は全く見ない夢を見た。


 ……というか見せられた。



 あたりは桜が咲き誇るピンク色の世界。

 風が強く、桜が舞い散っていた。


 そして奥には唯咲と、黒髪の女性と唯咲と同じ髪色の男がいた。


 その家族は嬉しそうに抱き合い、笑顔であり、そして泣いていた。



 俺が遠くから見つめていると、唯咲以外の二人がこちらを向き、一礼してきた。



 次の瞬間、強い風が吹き、あたりを埋め尽くすほどの桜の花びらが舞い落ちてきた。



 その桜吹雪で俺は目を覚ました。



「お母さん…お父さん……」



 目が覚めると、時刻は十時であった。


 唯咲は涙を流していたが、嬉しそうな笑みを浮かべていた。


 俺はベッドから降り、唯咲の頰をペチペチと優しく叩いた。



「おい、起きろ!いつまでも幸福に浸っているつもりだ?」


「んぁ……お母……じゃなくて師匠……?」


「ああそうだ。弟子なんだから俺より早く起きる努力をするんだな」


「え……し、師匠…?」



 唯咲は目をまん丸にして驚いた様子だった。



「どうした、できないのか?だったら弟子失格にしてやろうか?」


「師匠!!」


「うわっ。またか……」



 唯咲は俺の腰あたりに抱きついてきた。


 一体何回抱きつかれるんだ……。



「師匠ありがとうございます!僕、師匠みたいに強くなります!!」


「くくく、だが最強の座は俺のものだ。覚えておけ」


「はいっ!!」



 こうして、俺たちは師弟関係となるのであった。



 もちろん悩んだ。



 だが、あんな思い出話を聞かされたら断れないではないか。



 全く……自分性格が嫌になってくる……。



 そんな性格になったのはおそらく……いや絶対、俺の師匠のせいだな。



 俺も……師匠として頑張るしかないな。



 もう失敗はしない。

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