第31話 [お泊まり会]




 皿も片付け終わり、少し休憩をしていた。



「ししょー。僕は何をやればいいですか?」


「別に何もしなくていいぞ。あと師匠ではない」



 ご飯を食べ終わった時にはすでに九時を過ぎていた。


 俺と唯咲はリビングにあるソファに座りながらテレビで映画を観ていた。

 どうやら毎週金曜日には映画がテレビでやるらしい。


 俺たちは夢中になって見ていたが、唐突に風呂を溜めなければという衝動にかられ、風呂を溜めに行った。


 弟子(自称)の唯咲は映画に夢中で気づいていなかった。



(………普通、こういった雑用は弟子がやるものなのでは……?弟子ではないが……)



 “俺のお世話をする”などと言っていたが、ただ家に泊まりにきただけなのでは?と思い始めた。



 風呂場から帰った後も、俺に気づくことなく映画に観入っていた。



 数分後、風呂が沸いたがやはり唯咲は映画に釘付けだったので先に入ることにした。



 俺は風呂に入り、その後何もなく風呂出た。



 唯咲はまだ映画を観続けていた。



「おい、風呂に入ってこい」


「………」


「…………おい、唯咲!!」


「うわぁっ!?し、師匠?」



 俺が大声で唯咲を呼ぶと、やっと気づいてこちらを見た。



「風呂が溜まっているから入ってこい」


「あー……はっ!!お背中流します!!」


「俺はもうすでに入ってきたのだが」


「んなぁっ!?弟子になったからには一度は言ってみたいセリフ、“お背中流します”が言えなかった……」



 唯咲はその場でがっくりとし、床に手をつけていた。



「俺は師匠ではない……。ほれ、タオルと着替え。あとパンツは俺のだが、洗ってあるやつだから安心しろ。変えないよりはマシだろう」



 俺は手に持っていたものを唯咲に渡した。



「師匠って意外に面倒見がよくて優しいですよね」


「意外とはなんだ、意外とは……」


「いやだって、そんなに強かったら少しは威張ったり、偉そうにすると思うんですけど、師匠はそんな素振りないですから!」


「まあ……褒め言葉として受け取っておこう…。さっさと入れ」


「はいっ!」



 タタッと唯咲は風呂場へ駆け出した。


 家族に電話して友達の家に行くと言っていたから、おそらく……いや、確実に俺の家に泊まるつもりだろうな。



「さて、どこに寝かせるか……っとその前に映画が気になるな……」



 寝る時のことは後で考えるとして、俺は途中からだが映画を観ることにした。



 結局唯咲が風呂から出てくるまで俺も映画に釘付けとなっていた。



「師匠!ただいま戻りました!」


「お前……洗面所にドライヤーがあっただろう。なぜ乾かしてこなかった……」



 唯咲の髪はビショビショで、少し水滴も滴っていた。服はブカブカで、袖から手が出ていなかった。

 髪につけていた組紐は今だけ取ってあり、手に持っていた。



「早く乾かしてこい」


「えー……。ちょっと面倒くさいです……」


「だぁー!もういい、ほら行くぞ」


「あ〜れ〜」



 俺は唯咲の服の後ろの襟を掴み、洗面所へと向かった。



 椅子に座らせ、唯咲にドライヤーを当て、乾かし始めた。



「あー……なんだか懐かしいです……」


「まあ、その年になれば一人で髪を乾かすだろうからな」


「普通はを強調しないでください……」



 髪を乾かしていたが、唯咲の髪は本当に男なのかと思うのほどサラサラで、女子のような髪であった。



「よし、終わったぞ。ついでに歯も磨いておけ。ちょうどよく新品の歯ブラシがあるから」


「おぉ、なんというご都合展開」



 俺たちは二人並んで歯を磨き始めた。片手に水を入れたコップを持ち、鏡に向きながら歯を磨いた。


 十分に磨いたらコップの水で口をゆすぎ、歯磨き終了。



「ふわぁあ……俺はもう寝るぞ。二階に俺の部屋があるからそこのベッドを使え」


「ん……?じゃあ師匠はどこで?」


「うむ……まあ、ソファで大丈夫だろう」


「ダメです師匠!弟子が師匠よりもいい思いをするなんて弟子失格です!!」


「まだ弟子にもしていないのだが……」



 俺がリビングに向かおうとしていると、服の袖を摘まれてそんなことを言われた。



「ではお前はどうしたいんだ?」


「それはもちろん!僕が床に………へ…ヘックチ!ズズッ……」


「………」



 はぁ……。俺にどうしろと言うんだ……。



「では…他の部屋にも一応ベッドがあるから俺はそこで———」


「それもダメです!師匠と弟子は片時も離れるわけにはいきません!!」



 なんなんだこいつは……。いちいち面倒くさいな……。



「ではどうしろと……」


「あー……師匠が嫌じゃなければ一緒に寝る……なんて」



 唯咲が右の頬を指でぽりぽりと掻きながらそう言ってきた。


 ま、それだったら条件を満たしているし、俺もさっさと寝たいのでそうすることにした。



「本当にいいんですか?僕が悪者かもしれませんよ?」



 階段を上っている最中にそんなことを言われた。



「お前は良くも悪くも真っ直ぐだからな。表裏一体。だからお前には悪意は感じない」


「なんでわかるんですか?」


「“気”を使って感じとる……お前も使っているだろう?」


「へ?」


「は?」



 待て待て。こいつ自覚がないのか?


 自覚がなくても使えることがあるが、あそこまで洗礼された“気術”を使えるとは……。世も末だな。



 だが、“気”の感じ方などを教える義理はないな。師弟関係でもないのだし。


 そして自分の部屋についた。



「師匠の部屋!普通ですね!」


「まあな」



 本当は魔法瓶やらあちらの世界の物を置きたいところだが、流石にまずいだろうと思い却下。


 代わりに亜空間の中に部屋を作ることを採用した。だがまだ手をつけていない。



 俺のベッドは窓際に置いてあり、真横にカーテンなどがある形となっている。



「師匠!これここに置かせてもらいますね!」



 唯咲は持っていた組紐を俺の机に丁寧に置いた。



「それじゃあ師匠!早速寝ましょー!」



 唯咲は組紐を置くとすぐに俺のベッドにダイブしていった。


 自分のベッドではないのにあれほどまで躊躇なくダイブできるとは……。



 俺は逆に感心を持った。


 俺ももう眠いので寝ることにした。

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