第21話 [一緒にご飯]




「にしても強也、何したらあんなに運動神経抜群になるんだ?」



 体操服を着替えていると、横で着替えている朔に話しかけられた。



「うーむ……普通に筋トレ?」


「それだったらこの世界は化け物だらけになるぜ……」



 体操服着替え終え、女子たちもクラスに戻ってきた。


 だがこの時を待っていた、と言わんばかりにドアを思い切り開け、俺へと一直線に向かって来る女子がいた。



「………どこ行ってたの……」



 アホ毛が特徴的な静音だ。そのアホ毛は今ギザギザの形になっており、怒っているようだ。



「普通に体育をやってきたんだが……」


「……まあ、許す……」



 なんなんだこいつは……。



「で、何しにここへ来たんだ?何か目的があってきたんだろう?」


「うん……ご飯食べよ……?」



 ああ……そういえば四時間目が終わると昼ごはんの時間になるんだったな。


 だが弁当は持ち合わせていないので“購買”とやらで買うことにしていた。


 今度からは自分の弁当を持って来るつもりだ。



 俺が購買に行くと言うと静音も付いて行くと言った。

 クラスメイトはこの世の終わりのような顔でこちらを見ていた。



 購買へ行くと、人がたくさん群がり、争いごとのように群がっていた。



「帝王高校特製絶品クロワッサン!!」

「こっちクリームパンっ!!」

「届けぇ!俺の思い!!購買のおばちゃんにぃ!!」

「特製クロワッサンがあと三つだぁ……」

「だにぃ!?」




「なんだこれは」


「……?購買は毎回こうだったよ……?」



 これが“購買戦争”……。飢えた生徒たちがパンを取り合う戦争……か。

 声の小さい者、背が小さい者などは容赦なく蹴落とされる……。



「残酷だな……」


「さっきから……何言ってる……?」



 静音はアホ毛をハテナマークにしてそう言った。



「だが俺もあの戦争に参加するか。さて……聞こえてきたのは特性クロワッサンとかだったな。よし」



 俺は小銭を手に持ち、人混みの中へと入り込んだ。


 押してくる他の生徒たちを弾き飛ばさないように慎重に進み、購買のおばちゃんの近くまで来た。



「ここまでくれば……“特製クロワッサンを一つ!”」


「うわっ!?ああ、はいどうぞ。ラスト一つだったわよ〜」



「ああ!そんなぁ!!」

「週一回しかこないクロワッサンがぁ……」

「また来週まで待たないといけないのかよ…」

「くっ…俺はクリームパンにしよう…」



「強也……すごい……!」



 さっき使ったのは“気術”だ。


 これは“気”という血管と同様に全身に張り巡らされているものを使い、様々なことに使えるものだ。

 これは地球の人間にも流れているが、ほぼ使える人はいないだろう。


 そしてさっきのは声を響かせる時に気を乗せて相手に伝わりやすくしたのだ。

 あれに殺意などを込めたら気絶させることもできる。


 【縮地しゅくち】も足に気を集め、爆発的な身体能力を発揮できるというものだ。


 ちなみに体力測定では一切使っていない。



「よし、どこで食べるんだ?」


「んー……。屋上とか……?」



 毛は上向きの矢印の形になっていた。


 しかし屋上……地球では屋上は開放されていないと相場が決まっていると聞いたのだが。



「屋上は開いているのか?」


「もちろん……」



 そうなのか……俺ももう一度この世界について勉強をし直さないとな。



 俺たちは屋上へ向かい、階段を登って屋上についた。



「ほう……」



 屋上には誰もおらず、貸切状態のようになっていた。


 この高校には校舎がたくさんあり、いくつも屋上があるので、“今回は誰もいない”というあたりを引いたようだ。



「はい………座って」



 屋上のある柵に背をつけて座った。



「いただきます」


「……いただきます……」



 俺はクロワッサンを、静音は持参した弁当を食べ始めた。



「………」


「………」



 互いに喋ることがなく、無言のまま黙々と昼ごはんを食べていた。


 すると静音が話しかけてきた。



「ねぇ……どうして強也は他の人と違うの…?」


「ん?どういうことだ?」



 いきなり静音に話しかけられたと思ったら、よくわからない質問をされた。



「他の人は何か目的があった……。私に何かして欲しそうだった……けど、強也は違かった……ねぇ、なんで?」


「なんでと言われてもな……。人を助けるのに理由なんかいらないだろう。無理に理由を作ったら、助けられる者も助けられなくなってしまいそうだしな」


「やっぱり……わからない……ねぇ、気になる」


「何がだ……」


「どうして、そんなに優しいのか……なんで他の人と違うのか……。あの時からずっと気になってた……」



 ずいっと俺に顔を近づけ、そう言ってきた。相変わらず無表情だがアホ毛だけは元気であった。



「近い、あと俺はそれの答えは出せないぞ……。自分自身の答えを出すなど数学より難しい……」


「でも気になる……」


「だから……」



 俺が手でグググと静音を押し返した。



「わたし、気になります……!」


「待て、それはアウト」



 そんな攻防戦を繰り広げながら俺たちは昼ごはんを食べていた。

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