第16話 [対峙]




「お前……まだついてくるのか?」


「お礼……」


「いや、だから…今は無いと言ったであろう」



 グラウンドを後にし、俺はスーパーに向かって歩いているが、この女子はまだついてくるらしい。



「お前も自分の家へ帰れ。俺はこっち方面だから違うだろう」


「………お前じゃない……」


「む?じゃあ静音でいいか?」


「……いきなり……まあ問題ない……」



 アホ毛が丸のマークをした。



「俺は今からスーパーに行くから静音は帰るんだな」


「私も……行く……」


「……自分で料理を作っているのか?」


「………」



 プイッとそっぽを向き、アホ毛も垂れ下がっている。



「わかった……今日は帰る……。でも…気になるから、明日も来る……!」



 静音はくるっと後ろを向き、そのまま歩いて帰っていった。



「……何が気になるんだ?」



 俺は昼ごはんと夜ご飯の材料を買うべくスーパーへ入った。


 具材を色々と買い溜めておき、いつでも作れるようすることにした。



「ありがとうございましたー」



「まあこんな具合で大丈夫だろう」



 俺はビニール袋に入った具材をバッグへ詰め込んだ。

 だがネギはバッグから飛び出してしまった。



「おい」



 俺は駅へ向かって帰ろうとしたが、以前の最神をいじめていた金髪男……確か【過去写しリコレクション】で見た時に聞いた名前は“田辺 狂吾たなべ きょうご”とかいう名前だったか。

 その男が目の前に立ち塞がった。


 俺がグラウンドを後にした時からこいつがつけて来ているということがわかっていたが、わざとそちらを向かないようにしていた。


 今この場は全く人気がなく、俺とこいつの二人きりであった。



「俺に何か用か」


「ああ…」


「なんだ?」


「それは一体どういうことだ」



 こいつが俺の方へ指をさし、そう言ってきた。


 それとはなんだ?このネギか?



「これはだなぁ…今日のご飯にする予定の具材だ。だがバッグに入りきらなかったのだよ。ちなみに今日の夜ご飯の予定はだな……———」


「違えよ!その顔とか運動神経とかを聞いてんだよ!!」


「ふむ、夜ご飯には興味がないか……」



 残念だな。自慢しようと思ったのだが。



「教室でも言っただろう。イメチェンだとな」


「ふざけんなよ!なんでお前みたいな根暗陰キャがいきなり陽キャになってんだ!しかもあの静音ちゃんと仲睦まじくしやがって!!ふざけんな!」



 俺が説明したらいきなり怒声を浴びせられた。

 しっかりと説明してやったというのにそれはないんじゃないのか?



「簡単にまとめると……お前は“俺に嫉妬している”ということと、そしてさらに“俺に嫌悪感を抱いている”ということだな?」


「っ……!!」


「ふん……図星か」


「う……うるせぇ!!お前…俺が誰だかわかって言ってるのか!?」


「ただのクラスメイトだろう」


「違う!俺はあの財閥家で有名な“田辺家の長男”だと前にも言っただろ!!」



 どこまで醜いのだろうか…こいつは。


 正直に言って反吐が出そうだ。



「俺が本気を出せばお前なんかすぐに一捻りだぞ!暴力軍団さえ雇うことができ———」


「———それはつまり、お前は何もしないってことだろう?」


「……は?」


「だってそうだろう?自分では何もせず、ただ自分の親が成したことをまるで自分がしたかのように言いふらし、ましてや暴力軍団を雇う?くくく、少しは自分で戦ったらどうなんだと俺は思うがね。これではまるで“虎の威を借る狐”のようだなぁ」



 俺はニヤニヤとしながらこの男を舐めきったように言った。



「っ……!!!テメェ!!!」



 男は俺の胸ぐらを掴み、拳を振り上げて殴ろうとしていたが、人が集まってきていたのでできなかった。



「あらやだ、何?あの子達」

「喧嘩か何か?」

「あれ?あそこの金髪の子って……」

「もしかして財閥の……」

「野蛮ねぇー…」



「チィッ!!」


「話は終わったのか?」


「今日のとこはここら辺で引いてやる!!後で後悔しても知らねぇぞ……!」


「はっ!楽しみに待っているぞ」


「〜〜!!」



 男は額に血管を浮かせながらこの場を走りながら去った。



「さて…俺も帰るとするか」



 俺が転生する前の強也ならこんなことはできなかっただろう。だが今の俺は違う。

 もういじめなんて受けるつもりは毛頭無い。



 俺も駅へ向かって歩き始めるのであった。

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